17 備える者たち
~オズワードヴァンネス王国の隣国、グロバルキア帝国内のクロフォード領~
「アルマ! 大変だよ! って、うわぁ! ごめんなさい!」
高級素材で造られた各種家具が並ぶ、煌びやかな寝室。多種多様な装飾品で彩られた大扉を勢いよく開け放って、身長三メートルをゆうに超える大男が飛び込んできた。
かと思うと、すぐさま身を翻して縮こまってしまった。
「なんじゃ? フランシスか? 女子の寝床にノックもせずに入ってくるとは、お主も随分と漢になったものじゃのう?」
部屋のど真ん中に配置された、黄金色に輝く浴槽に浸かる美女が、愉快そうに笑い声をあげる。
「ごめんなさい。まさか、こんな時間にお風呂に入ってるなんて思わなくて・・・・あの、もう服着た?」
「そう急くな。まだ、浴槽から出てもおらんわ」
「うぅ、ごめんなさい・・・・」
ばしゃっと、大量の温水を纏いながら立ち上がる。その肢体は一つの芸術品のように美しかった。
しばらくして、部屋の入口でうずくまる大男に声をかける。
「良いぞ」
「う、うん」
大男が振り返る。が、
「うわぁ! 服着てよ!」
すぐさま、先程と同様に身を翻して縮こまってしまった。
「かっかっか。愉快じゃのう。実に愉快じゃ」
「もう、絶対に信じないからね!」
美女は、滴り落ちる水滴を一切拭うことなく、入浴用に設けられた大理石の床を超え、ひたひたと絨毯の上を歩いてベッドまで辿り着くと、そこに腰をおろした。
と、大男の隣から、一人の女性が姿を現した。隆々とした筋肉が印象的な赤毛の女性であった。
「アルマ、あんまし私の弟を苛めないでおくれよ。フランシス! あんたも男ならもっと堂々としな!」
「うぅ、ごめんなさい。お姉ちゃん・・・・」
「全く、でかいのは図体だけかい」
「フィリスか、姉弟そろってこんな夜更けに領主の部屋へ何の用じゃ?」
「あ? 何をとぼけているんだい? あんたも気付いただろ?」
「・・・・あぁ、もちろん。アンサルヘイブンのことじゃな」
「そうだ。また、『覇王』が、街を一つ消し飛ばしたみたいだね」
「事後処理は、管理者の誰かがうまくやったみたいじゃが・・・・一体シグルスは何を考えているのじゃろうな」
「『魔王』の大量虐殺に、街の破壊。何か、嫌な予感がして仕方ないよ」
「ふむ。そうじゃの。わしらも闘いの準備をしておく必要があるかもしれんな」
「私も弟も、『覇王』に太刀打ちするために必要な称号はあと一つ。急いで習得しないとね」
「信じておるぞ。わしの可愛い『大英雄』様よ。かっかっか」
「その期待に応えてみせるよ。我が主、『帝国の魔女』アルマ・クロフォード。がっはっは」
「ぼ、僕も、できるだけ頑張るよ。足手まといにならないように・・・・えへへ」
アンサルヘイブンの壊滅とその隠蔽。
一握りの実力者のみがその真実に勘付く中、煌々と光を放つクロフォード邸の一室で、領主の不気味な笑い声と、赤毛の女性の豪快な笑い声、そして大男の控えめな笑い声が、奏でられた。
これにて、第一章完結です。
引き続き、第二章を執筆していこうと思います。
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