13 地下通路にて
「信じてもらえてうれしい限りです」
「いや、あくまで最善だと考えられる選択をしただけだ。別に、お前を信用した訳じゃないさ」
「はは。そうですか。それでも、良かったです。こうして、手助けすることができて。と言っても、元を辿れば、僕の早とちりが招いたことではあるのですが・・・・」
現在俺たちは、エイベルの先導の下、街の外へと向かってアンサルヘイブンの地下通路を進んでいた。
上下左右に二メートル程度しかない狭く真っ暗な道が果てしなく続いている。かつては、敵国の急襲を受けた際などの緊急避難経路として使用されていたらしいが、人間同士で争うことが激減したこの時代においては、その存在を知る者はほとんどいなくなってしまったとのことだ。
「それにしても、貴方のその指、僕の自慢の剣を粉砕した時もですが、とてつもない力を秘めているのですね」
先頭でランタンをかざし、段差などがある度に丁寧に「お気をつけください」と一声かけてくる好青年が、ちらりと俺の右手を見た。
「あぁ。ちょっと込み入った理由があって、普通じゃないんだ」
そこで、つい先ほど、鍵束の中から正解の一本を中々探り当てることの出来ないエイベルを見かねて、『こっちの方が早い』と、右指で格子をばきばきと折り曲げて穴を空けた際のことを思い出した。
彼は非常に驚いた表情を浮かべていた。
まぁ、世界一硬いと評されるヴィルライト鉱石を混ぜ込んで造られた堅牢な監獄がいとも容易く破壊されたのだから、無理もない。
俺自身も、この指の強靭さには畏れを感じていた。一体、どこまでのものを捻りつぶすことができるのだろうか?
「なぁ、まだお前が俺達に手を貸す理由について詳しく教えてもらってないんだが?」
「それについてなのですが、実は貴方に『逃げろ』と言われた後、すぐに冒険者ギルドに足を運んだのです」
「何の為に?」
「もちろん、貴方たちの情報を集めるためですよ。皆さん、気の良いルーキーだと仰っていました。あんなに愉快な連中は久しぶりだ。まさしく『英雄』の器だ。ともね・・・・そこで、僕は自分の行動を戒めました。貴方たちを『魔王』という称号だけで強大な敵と決めつけた自分の愚かさを反省したのです」
「だから、脱獄に手を貸したと?」
「はい。罪滅ぼしの意味も込めて・・・・」
「それなら、聴衆の前で俺達の無実を証明してくれれば良かったんじゃないのか?」
「はは、それは無茶ですよ。一般の市民からしたら『魔王』は、畏怖の対象でしかありません。一応、これでもハンバルト領を代表する『勇者』なのですよ。そんな責任ある立場の僕が『魔王』を庇うなんてことしたら、いよいよこの土地は終わりです。朝になれば、私はエイベルとしてではなく一人の『勇者』として、貴方を討伐しなければなりません」
「・・・・なるほどな」
「それに、今夜の一連の騒動は、全て『魔王』の仕業ということで落ち着くでしょうから、貴方たちが無事にこの街から逃亡することで、綺麗にことが収まるのですよ」
「随分とちゃっかりしてるな。結局悪いのは全部俺たちっていうことかよ」
「ふふ、『勇者』も正義感だけでは務まらないのですよ」
「気に入ったよ」
「誉め言葉として頂いておきます。あと、もし今後出会う機会がありましたら、冒険者ギルドの皆さんにも労いの言葉をかけてあげてもらえたら幸いです。今頃、地上では彼らの流した嘘の情報により、警備兵たちが僕等とは逆の進行方向へと誘導されていることでしょうから」
「あいつら、まだ一度しか酒を交わしたことのない俺達のために・・・・」
エイベルの言葉を聞いて、目頭が熱くなるのを感じた。沢山の冒険者が何の見返りもないというのに、自分たちの為に危険を冒している。これが、友情か。これが、絆か。
本当に冒険者は最高の職業だ。
「と、そろそろ出口に着きましたよ」
感動に身を震わせるのも束の間、エイベルが立ち止まる。
「出口? まだ道は続いてるみたいだぞ?」
「いいえ、ここはすでに目的地ですよ」
そう言って、頭上を指さす。
「探究の刻印?」
そこには、目を凝らさなければ気付かない程のサイズで、剣の紋章が描かれていた。
「そう、これが目印です」
そう言って、エイベルはランタンを左手に持ちかえると、空いた右手の甲を天井の紋章にかざした。
その瞬間、周囲を暖かな光が覆った。
ついに、冒険の始まりか?
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