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09 運命の出会い

「なんだ? お前らは?」


 冒険者になってからというもの、矢継早に押し寄せてくる数々の災難によって、俺の心は疲弊しきっていた。

 全く思い通りにいかない現状に、憤懣やるかたなく、ぎろりと睨みつけてしまう。


「なんという邪悪な瞳・・・・これが、『魔王』。やはり、あの方の言うとおり、生かしておくのは危険な存在なのでしょうか」


 他の二人よりも半歩前に立ち、白銀色の剣先を俺に向ける端正な顔つきの青年。決意と戸惑いが入り混じったような不思議な表情をしていた。


 傷心の俺に、次なる不幸到来の予感がする。


「俺は、まだ『魔王』になったつもりはねぇぞ」


 ゆらりと地面から膝をあげ、汚れを払い落してから、男と対峙した。ラビは、「ひぃ! 敵っすか!?」と、風の如き速度で、俺の背後に身を隠す。


 こいつ、本気で泣かせてやる。と、再度心に決めた。


「何を意味の分からないことを。その手に刻まれた紋章が、全てを物語っているではないですか!」


 男は、毅然とした態度でそう述べると、半身になって剣を上段に構えた。振り下ろしに特化した体勢だ。サイドに狭い路地を考慮してのことだろう。となると、戦闘意欲は満々ということか・・・・


「いつでも追撃できるわ」


「援護します」


「はい、助かります。メアリー、ドロシー」


 男の両脇に控える少女たちが各々の所持する武器を構える。

 左側に立つエルフ特有の三角耳を持ったポニーテールの少女は銀色に輝く弓を、右側に立つ丸眼鏡をかけたおさげ髪の少女は先端に大きな宝石が埋め込まれた木製の両手杖を。


「おいおい、俺は戦うつもりなんてないぞ」


 両手を挙げて敵対心がない事をアピールしてみせるが、青年は訝し気に眉を寄せた。


「僕らを騙そうとしているのではないですか? あの方が、『魔王』は総じて卑怯な手口で油断を誘ってくると仰っていましたよ」


「さっきから誰だよ。あの方って・・・・だから、俺は『魔王』ではないんだって。まぁ、肩書はそうかもしれないけど、心は人間側というか」


「それは、どういうことです?」


 青年の腕から少しだけ力が抜けるのが確認できた。

 こいつ、意外に話が通じるかもしれない。と、微かな希望を見出す。


「実はなぁ・・・・」


 俺は、この街に辿りついてからの苦労話を披露しようかと口を開いた。


 が、男の仲間が会話に割り込んできた。


「魔王の戯言に耳を傾けては駄目よ!」


 ついで、もう片方も賛同の意を唱える。


「そうです! 気をしっかりとお持ちください」


 こいつら、せっかく良い流れになりそうだったのに! と、彼女たちに鋭い視線を浴びせた。


「ほら、見た? あの恐ろしい目つき。きっと、気を許したところを狙うつもりだったのよ」


「危なかったですね・・・・」


「そ、そうなのでしょうか?」


 男は、俺と仲間の双方の意見に挟まれて、右往左往とする。


 すると、ずっと気配を消していたラビが、背中を軽く突いてきた。


「ん? どうした?」


「鑑定が完了しました。真ん中の男は、エイベル・カーティス。ここハンバルト領を代表する『勇者』で、『中級剣士』っす。炎属性の広範囲魔法も得意としているようなので、この立ち位置は若干不利だと思われます」


「なっ!? 『鑑定士』ですか!? まさか、僕達の情報を抜き取るために時間稼ぎを?」


「ち、違う! こいつは、視界に映ったものを鑑定しないと死んでしまう病気を患っているだけなんだ!」


「左の女は、メアリー・エース。『中級弓使い』っす。連射スキル持ちなので、一発回避しただけで安心しないように。あと、勇者に対して、強い恋心を抱いているみたいっすね。最近は花嫁修業のために、休日になると料理教室に足を運んでいるようです」


「っ!?」


 それを耳にしたエイベルが、メアリーの方を向く。彼女の顔面はというと、林檎のように真っ赤になっていた。


「右の女は、ドロシー・グルーバー。『上級聖職者』っすね。光属性の魔法はだいたい習得しているみたいっす。一番厄介ですね。あと、同じく、勇者に強い恋心を抱いているっす。スタイルも良く、性格も明るいメアリーのことを疎ましく感じ、早くパーティから抜けてくれないかと、毎晩神様に祈っているようです」


「っ!?」


「っ!?」


 続いて、二人の視線がドロシーに集中する。彼女の顔面は、真っ青になっていた。


「ラビ、そんなプライベートな情報まで分かるようになったのか?」


「はい。姉御の話もしましょうか?」


「いや、遠慮しておくよ」


 にこにこと笑うラビ。この少女と出会ってから、初めて恐怖を感じた瞬間であった。


「ねぇ、ドロシー? 嘘だよね? エイベル様との恋を応援してくれるって、あの時言ってくれたもんね?」


「・・・・」


 ドロシーは口を閉ざしたまま返事をしない。眺めているだけで痛々しい愛憎劇に、俺の心がきゅうっと切なくなった。


 勇者は、ぶんぶんと頭を振り、剣を握る手に改めて力を込めた。


「『魔王』とその手下め! 僕は信じませんよ! 二人とも、僕の大切な仲間なんです! パーティを引き裂こうとしても、僕が絶対に許しません!!」


 エイベルの感情の高ぶりに呼応するかのように、振りかぶった剣が炎を纏う。


「おい! 早まるな! だから、俺に戦う意志はないんだってっ!」


「問答無用! これほどまでに、仲間を傷つけた貴方たちを、許すわけにはいきません。人類に仇為す『魔王』よ。我が爆炎の刃により灰と化せ! 『フレイム・バスター』」


 叫ぶと同時に、刃が振り下ろされる。切っ先から放たれる高温の爆風が、炎獄の壁となって押し寄せてきた。


 やばい! 避けきれない!


 律儀にも、俺の前に立って小さな体で盾になろうとするラビ。俺はその襟首を掴んで、そのまま後方、可能な限り遠くへと投げ飛ばすと、眼前で両手をクロスして、来る衝撃に備えた。


――――ここまでか。くそ! 結局、ろくな冒険をすることも叶わずに、こんな所で生涯を終えるのか・・・・


「くそぉぉぉぉぉぉ!!」


 腹の底から憤怒と後悔を叫ぶ。そして、聖なる炎に焼き殺される寸前。


「お嬢様ぁぁぁぁぁ!!」


 ばごぉぉぉん


 エイベルの一閃による轟音を掻き消すほどの爆音とともに、路地の壁を突き破って、俺の前に現れた人影。放たれた全ての炎を、そいつが己の肉体で受け止める。


「なっ!?」


 エイベルが驚嘆の声をあげる。


「こんなもの! 痛くも痒くも、ましてや熱くもありませんわ!」


 全ての熱風を受けきった後、その人物とエイベルの間の地面だけが、真っ黒に焦げ付き、ぷすぷすと煙をあげていた。


「エ、エトナ!? どうしてここに?」


「帰りが遅いと思い、心配になって探しに来たのですよ。お嬢様の匂いは細胞レベルで記憶していますから、どれだけ離れていたとしても、こうしてすぐに見つけることができるのです」


 大陸最強種族であり、炎属性に対する絶対的な耐性を持つ龍人族。その肢体は、あれだけの火に晒されたにも関わらず、微塵も傷ついていなかった。



この出会いが、世界を大きく揺るがすことに・・・・


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