序章 それは二百年位前の話……。
それは二百年位前の話だ。
世界はまだ、人間と魔族が争い混沌としていた頃、男は女に出会った。
人間にとって、魔族とはいわゆる異星人だった。
元いた世界が滅び、逃げ延びた場所。それが、人間がいた世界だ。
初めは人間も魔族を受け入れた。
だが、人間は次第に魔族を妬み、疎ましい存在へと変わった。
それは魔族は人間と明らかに違うからだ。
人間の姿をしている魔族もいれば、獣の姿をした魔族もいる。姿が一定では無かった。
容姿もそうだが、身体能力、寿命、あらゆる事に魔族の方が上回っていた。
特に上回っていたのは、科学力と不思議な力、魔力を持ち合わせている事だった。
その為、人間は恐れ、異星人を忌むべき種族と言う意味で、魔族と呼んだのだ。
自分の星が、世界が、魔族に侵される事を恐れ、争いが生まれた。
魔族はあらゆる面で勝っていたが、人間と違い繁殖力が強くある訳ではない、数では劣る魔族は、ただ、争う事無く静かに暮らしたかった。
しかし、争いは止まる事は無く、激しさを増し、消耗戦となった頃、魔族の男は人間の女に出会った。
魔族の男は、初め、ただの興味本位だった。
元々、女が好きな男は美人であった女をナンパしたのだ。
しかし、魔族と人間が争っている中、そう上手くは行かなかった。
人間の女の名前はランカ。
何処にでもいる、美人と言うより、可愛いいらしい女だった。
金髪のストレート髪、愛くるしい大きな目が特徴の女だった。
今、魔族と戦い、魔族を追いかけていた。
「どこ行った?」
血走った目をして魔族を探していた。
魔族は二人、いや、二体。
魔族を人と同じ数で言うのをランカは嫌った。ランカは筋金入りの魔族嫌いだ。
白い聖なる銃『エクソシストの銃』を持ち、今日も戦っている。
魔族を追いかけ路地を曲がろうとした時、男とぶつかった。
「あっ、ごめんなさい」
ランカは咄嗟に謝った。
「ああ。すみません」
男も謝りランカを見る。
眼鏡をかけ、真っ黒いスーツを纏った紳士的な男だ。
男は瞳も髪も真っ黒だった。
「すみません。お詫びに……」
「そんな場合じゃない! 退いて」
男の誘いも断り、ランカは男を押し退け、路地を入った。
「ふう……あそこは危険なのに」
男はランカに気付かれないように、着いて行った。
「とうとう追い付いたわ!」
ランカは威勢良く銃を構える。
「観念しなさい!」
すると、追いかけていた魔族とは、別の魔族が目の前に現れた。
「観念するのは、お前だ」
いきなり目の前に魔族が現れた。
手には刀を持っており、ランカに切りつけようと振り上げた。
ランカは息を飲む。
それはスローモーションのようだった。
ランカは斬られるより早く、体のバランスが崩れ、少し後ろに下がった。
そして、目の前で、あの男が斬られていた。
「うっ」
赤い血が四方八方に飛び散った。
そして、ゆっくりと倒れ、動かなくなった。
「どうして……」
ランカは一瞬放心状態となったが、すぐに持ち直し、刀を持った魔族の胸を狙って撃ち、見事に命中し魔族は倒れた。
「くそー」
二人の魔族はまた、逃げた。
「待ちなさい!」
ランカはまた、追い掛けた。
「ううっ」
しばらくして、斬られた男が目を覚ました。
「全く、あの子は」
目の前でランカに撃たれ倒れた男の体を揺らした。
「死んでいるな」
動かない魔族を見て残念がっていた。
すると、流れ出ていた血が一気に結晶化した。
「なっ」
男が驚いている間に体中全てが、赤い結晶体となり、吹いた風で粉々に砕け散った。
「確かに、あの銃は魔を撃つみたいだな」
関心しながら壁に寄りかかり、タバコをくわえた。
「全く、人間の呼ぶ魔族も痛みは感じるんだ」
そういい煙を吐いていた。
その間に男の体から流れた血が逆再生のように体の中に戻り、傷が治っていた。
「新調したスーツがボロボロだ」
傷は治っても、服はそのままだった。
「さて、行きますか」
男はタバコを消して立ち上がった。
そして、目を瞑り、耳を澄ましランカの足音を探る。
「いた」
男は一瞬にして姿を消した。
「覚悟なさい!」
ランカは銃を構える。
「威勢のいい女だ。まっ、嫌いじゃないがな」
ランカは魔族に囲まれた。どの魔族も巨漢で、毛深かった。
それが囲まれると、流石に不利だった。
「くっ」
ランカは周りを見て、隙を探していた。
「よくも、同朋をやったな。覚悟しろ」
「覚悟するのはどっち。私が死んでも他の人が敵を取るわ」
魔族の数はどんどん減っていった。人間がどんどん殺して行ったからだ。
ランカも人間が優位に立っているのを、実感していた。
「なら、死ね」
魔族は剣を抜き、向かおうとしたが、寸前で止まった。
「かっ、体が動かない」
魔族は動きを止められていた。
「一人の女性相手に卑怯だろう?」
ランカの正面にスーツ姿のあの男がまたいた。
「あんた」
ランカは男を見た。
「全く、人間に魔族と言われようが、男には変わりない、不意打ちに多人数による強行、卑怯以外に何がある?」
「お前は」
「死にたくなかったら、失せろ」
眼鏡を上げ、魔族達を威嚇した。
「うっ、お前は……」
魔族達の力が抜け剣を落とし、そのまま歩き去ろうとした。
「待ちなさい。私は!」
銃を撃とうすると、その前に男が目の前に現れ、銃を掴んだ。
「女性が物騒だ」
「邪魔しないで、悪魔!」
銃を持たない左手で男を殴ろうとしたが、男も右手でランカの左手を掴んだ。
「悪魔か、言われると傷付くのだが」
「あんたも魔族の癖に、人間に害をなす奴の心何てどうでもいいわ。ともかく離して」
「嫌。貴女は自分の命を何だと思っている?」
「うっ」
ランカは力を抜いた。
それに合わせて男も手を離す。
「魔族に説教されるなんて」
正直、気分が悪かった。
しかし、ランカは隙を見逃さず、男の頭を目掛けて銃の引き金を引いた。
弾は男の頭に向かったが、男は避けようとしなかった。
そのまま頭に当たろうとしたが、寸前の所で弾が止まった。
「何で」
ランカは当然驚いた。
「異種族でも、急所は同じですから、ここはマズいですよ。弾は弾ごと止めました」
頭に手を当てると、弾はそのまま、地面に落ちた。
「そんな、こんな強い魔族に当たる何て」
ランカは覚悟を決め、頭に銃を当てた。
「どうせ私を辱める為に、追いかけたんでしょう。だったら、死んだ方が」
男はランカの銃を掴んで、ランカの手から力一杯引き離した。
「違います。魔族と言われていても、大事な物は同じです。俺は失いたくは無い。貴女は美しいから」
男は軽く頭を下げ、また頭を上げた。
「俺の名前はルカ。色んな話がしたい。さあ、お茶にしましょう」
満面の笑顔で自己紹介をした。
これがランカとルカと呼ばれる魔族の出会いだ。
それは二百年前の話だった。