4 最終話
翌日、身体的にはぶつかった際に出来た、額の軽い打撲だけで済んだリリーとハイルアー嬢と、俺、トニー、フィズ、カインの六人でテラスへ来ていた。
昏倒してようやく起きた翌日なので、出来れば部屋でじっとして欲しかったのだが、リリー嬢が外の空気を吸いたいと希望したのだ。
リリーがそういうならと了承し、二人を元に戻す作戦会議を、食堂のテラス席で開催している。ハイルアー嬢は特に意見を挟むことなく付いてきた。説得する暇が省けて何よりだ。
「俺達は昨日六人で話し合ってみたのだが……すまない。特に良い案は浮かばなかった」
「いえ、そんな謝らないで下さい! エリック様達にご迷惑をおかけしている、私の方が謝らなければいけないんです! 本当に、ごめんなさい」
「いや、リリー嬢には全く罪はないさ」
見た目がハイルアー嬢なのはいただけないが、この心遣いはリリーに違いない。
しかし本来、謝るべきはこの状況を作り出したハイルアー嬢なのだから、リリーに落ち度などないと伝えた。
「えぇ。その通りですリリーさん。悪いのは全て私ですわ。夜会の時に……私が貴女を突き飛ばそうとしなければ、こんなことにはならなかったのです。改めて、リリーさん、そして、エリック王太子殿下に謝罪させていただきますわ」
「そ、そんなハイルアー様まで……」
少しはハイルアー嬢も冷静になっているらしい。
涙目で助けを求めてくる……ハイルアー嬢の姿というのが惜しいが、リリー嬢に助け船を出そう。
「このままではお互いが謝罪をするだけで一向に話が進まなくなる。二人ともが相手の謝罪を受け入れた、ということにしないか勿論、俺もハイルアー嬢の謝罪を受け入れよう」
「はい! エリック様、ありがとうございます!」
「エリック王太子殿下のお心遣いに感謝致しますわ」
ハイルアー嬢の姿でリリーがふわりと笑う。
中身が違うだけで、こんなにも人は表情が変わるものなのか。
「では、お話中失礼致しますが、入れ替わったリリー嬢とハイルアー様をどのようにして元に戻すか参考にするため、当事者であるお二人と、最もお近くで見ていらした殿下にお話をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
少しリリーにみとれていると、フィズが話を進め始める。
「俺は構わない」
「私も、頑張って思い出します!」
「私も協力を惜しむつもりはございませんわ」
「ありがとうございます。ではまず、リリー嬢とハイルアー様からですが、赤くなってしまった額以外で、どこかお二人がぶつかった場所はございますか?」
フィズは最初に、リリーとハイルアー嬢から話を聞くらしい。当事者の記憶が俺の記憶に引っ張られてしまわないように、ということだろう。
「私は……怖い顔をしたハイルアー様が凄い勢いで向かってきて、その後気が付いたら医務室でした。その後は皆さんも知っての通りハイルアー様の体に……」
申し訳なさそうにリリーが俯く。そんなことはない、と慰めた。
「では次に、ハイルアー様お願い致します」
「恥ずかしいなどとは言っていられませんね。と言っても、私もあの時は頭に血が上っておりましたから。ぶつかった際に頭を打ち付けた後……リリーさんに追い被さるように倒れてしまい、すぐに気を失ってしまいましたわ。特に他にぶつけた場所はないかと」
「本当にそれだけか? 何か隠していないだろうな」
例え今はリリーの姿をしていたとしても、中身はあのハイルアー嬢だ。産まれた時から公爵令嬢であることを踏まえると、相手に気取られないよう嘘をついている可能性が考えられる。
純粋さからして、ハイルアー嬢はリリーに劣るのだ。
「えぇ。勿論です。エリック王太子殿下、そしてこの国の王に誓いましょう。私は嘘偽りを述べておりませんわ」
「分かった。信じよう」
体が入れ替わった今、ハイルアー嬢が嘘を吐く意味はないか。
そう思い直す。
「ハイルアー嬢、ありがとうございます。それでは最後に、殿下は何かお気付きになったことはございましたか?」
夜会の日を思い出す。二度目のダンスをリリーに申し込み、俺が差しだした手に、リリーが添えようとした時にハイルアー嬢が突進して……。
「いや。俺もリリー嬢とハイルアー嬢が額をぶつけ、そのまま倒れたこと以外におかしな点はなかったと思う」
「お答えいただき、ありがとうございます。この話を聞いて分かったことは……額をぶつけたことが原因で、ハイルアー様とリリー嬢が入れ替わってしまったのではないか、ということですね」
「何も進展なしか」
フィズの言葉に、トニーが顔をしかめた。
「ええ。ですがトニー、これで“額をぶつけたことが原因である可能性が最も高い”ということが分かりました。原因と思われることが複数ではなかったことを喜びましょう」
「しかし、それではリリー嬢と姉さんが元に戻るには、もう一度額同士をぶつけてみるしかなくなるのでは……」
カインの言葉に思い沈黙が訪れる。
「分かりました! ハイルアー様、失礼致します!」
そう言うなり、リリーが勢いよく立ち上がりハイルアー嬢に向かってあろうことか、頭突きをした。
「ちょっ!!」
慌てふためく俺達をよそに、二人はかなりの勢いでぶつけた頭を抱えて呻いている。
「っっ! い、いきなり頭突きをする令嬢がどこに居ますの! いえ、私が言えたことではないですが、エリック王太子殿下と共にありたいなら、今後同じことはしてはいけません!」
「い、痛い……。ハイルアー様、すみません。でも、これしか方法がないんじゃ、仕方ないかなと思って」
そして頭を上げた二人は。
「って、その姿……リリーさん!」
「っ! ハイルアー様!」
「私達、元に戻ってる!?」
「私達、元に戻りましたの!?」
まさか、本当に頭をもう一度ぶつけて戻るとは思いもしなかった。
しかし、めでたいことに変わりはない。
「リリー、リリー嬢なのか!」
俺は思わずリリーの肩を掴む。
至近距離でリリーと目が合い、頬が熱くなった。
「はい! エリック様。リリーです」
花が綻ぶようなその笑顔。鈴の音を転がしたかのような美しい声。
まさしく、体も心も一致したリリーがそこに居た。
「良かった……本当に良かった」
我慢が出来ず、リリーを抱きしめる。
遠慮がちではあったが、リリーも俺の背中に手を添えた。
体全体に幸せが広がっていく。気持ちが抑えられそうにない。
抱きしめていた手を離し、リリーの前で跪く。
「リリー・ノルディック嬢、どうか、この俺エリック・ディ・シトライルの妻となってはいただけないだろうか」
最終話までお読みいただきありがとうございました。
えっ? リリーの返事は?ですって?
それは皆様のご想像にお任せしましょう。
5話編成にならずに済みましたので、3話の後書きを変更させていただきます。
最後にもう一度、ありがとうございました。




