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3 状況整理

「リリー嬢、いや、ハイルアー嬢か。どういうことか、説明できるか」


 俺はリリーの姿をしたマリア・ハイルアーに声をかける。


「い、いえ、全く。何が起こったのかわたくしにも分かりませんわ」


「リリー嬢はどうだ」


「ごめんなさい……私にも、何が何だかさっぱりで」


「そう、か。二人も混乱しているだろう時に失礼した。元に戻す方法は俺達の方で探しておく。今日はゆっくり休むといい」


 しょんぼりとした様子のハイルアー嬢、いや、リリーと、ハイルアー嬢に声をかけ、そのまま医務室を退室する。医務室には、担当者が常駐するそうなので万が一もないはずだ。

 二人が入れ替わった原因は恐らく、夜会でぶつかったことだろう。つくづくマリア・ハイルアーは俺とリリーの邪魔をする。

 今は反省しているようだが、あっさりと許せる程俺は優しくなれないらしい。


「殿下、入れ替わったリリー嬢とハイルアー様を元に戻す方法など、どのようにしてお調べになるつもりですか。前代未聞の事件ですよ。これは」


 フィズが眉間に皺を刻む。

 きっと俺も同じように、深い皺が眉間に出来ていることだろう。


「もう一度、お二人がぶつかれば元に戻ったりしませんかね」


「リリー嬢と、あれでも公爵家のハイルアー様だ。もし顔に傷でも残ったらどうする」


 トニーの安直な提案に溜息を吐きながら、フィズが苦言を呈した。


「確かに、姉さんはともかく、リリー嬢の顔に傷を付けるわけにはいきませんね」


「そうだな」


 何かがおかしい。この会話を聞いた連中の中には、そう言いたい人間も居るだろう。しかし現在フクロウの声が木霊する夜であり、丁度冬期休暇期間である今、学園の廊下を歩くのは俺達しかいない。

 だからこそ、声を潜めることもせずに堂々と話が出来るわけだが。


「何より、万が一、リリー嬢とハイルアー様の入れ替わりが戻らなかった場合、殿下は如何なさるおつもりですか」


「その時は勿論、リリー嬢……マリア・ハイルアーの体であったとしても、彼女を妻に迎えるつもりだ」


 そこは譲れない。俺が愛しているのはリリーの見た目ではなく心。リリーそのものなのだ。


「そうですか……。そうなると、既に進めている、マリア・ハイルアーとの婚約破棄を止めなければならないのですが……ハイルアー公爵が許すかどうか」


「確かに、……その問題が出てくるな」


 盲点だった。

 夜会の翌日、フィズの助言で正式に父上とハイルアー公爵に、リリーに対するハイルアー嬢の悪事をしたためた手紙と、婚約破棄をしたい旨を書いた手紙を送ったばかりだ。


 ハイルアー嬢には“正式に婚約破棄を進めている”と言ったが、実を言えば、まだ父上にも、ハイルアー公爵にも許可は得られていないので、進めようとしている、が正しい。

 もし、送った手紙が届く前に回収できれば、正式に婚約破棄をしようとしたことはハイルアー公爵にも、父上にも分からない筈だ。いや、夜会では堂々と婚約破棄宣言をしてしまったので、噂にはなるだろう。しかし、正式な手紙と書状がなければそれは所詮噂止まり。何とか昨日出した手紙を回収したいのだが。


「早馬を使っているからな、少なくとも、父上には既に手紙は届いてしまっているだろう。読んでいるかは別として、だがな」


 手紙を出してから一日と半日程。学園は王都にあるため、国王である父上の元に届けるには十分な時間といえる。

 流石に、国王である父上の手元に、すぐ手紙が届くとは思わない。が、城には着いているだろうし、王子である自分の立場を思えば検閲も通さないので、やはり見られているかもしれない。


「婚約破棄の手紙を、ハイルアー様が目覚める前に出してしまったのは、私の早計でございました。殿下、大変申し訳ございません」


 フィズが深々と頭を下げる。


「気にするな。その話に乗ったのは俺だ。フィズだけが悪いわけではない」

 

 そうしてフィズに、頭を上げさせる。


「今優先して考えるべきことは、リリー嬢とハイルアー嬢を元に戻すことだ。間違るな」


「殿下の仰る通りでございます。重ね重ね、失礼致しました」


「トニーやカインも、何かアイデアがあれば教えて欲しい」


「勿論です」


「協力を惜しむ理由などございませんからね」


 こうして俺達は様々な案を出すも、全て現実的ではないと落ち込むだけで夜が更けていくのであった。

お読みいただきありがとうございます。

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