表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/7

2 入れ替わり

 愛しのリリーと元婚約者のマリアが倒れてから二日、未だに二人が目を覚ます気配はない。

 マリアはともかく、愛しのリリーが目覚めないことに、俺やトニー、フィズ、カインは医務室のベッドの横に立ち、悲しみに明け暮れていた。

 もう夜と言っても差し支えのない時間。婚約者でもない異性が、大人数とはいえ同じ部屋に居ることはよろしくない。

 全員で、自室に戻ろうとなったその時だった。


「……んんっ」


「……ぅぁ」


 小さな呻き声と共に、リリーとマリアが目を覚ました。


「リリー!」


 まだ少し虚ろな目をしたリリーに声をかける。


「エリック……様?」


 しかし、俺の名を呼んだのは目の前の少女、リリーではなくマリアの方だった。

 まだリリーは意識がはっきりしていないのか、中々焦点が合わない。


「エリック様! 私、どうなって……あ! マリア様も、ご無事だったのでしょうか」


 俺達はわざとマリアとリリーのベッドの間を陣取っていた。目覚めたマリアがリリーを狙うかもしれないからだ。

 しかし、リリーではなくマリアを心配する声は俺達の後ろから聞こえてくる。

 リリー本人は未だ、意識がはっきりしない。


「あ、あの、エリック様……、トニー様、フィズ様、カイン様!」


 あぁ、煩い。リリーの振りをしてまでも俺の気を引こうというのか。どこまでも俺を苛立たせる女だ。


「何を言っている。マリアはお前だろう。ふざけるのも大概にして欲しいものだな。お前のせいで、リリーはまだ意識がはっきりしないんだ。少しは静かにしていろ」


 後ろを振り返らずに、答えてやる。

 本当は口も聞きたくないのだが、如何せん喧しくて適わないのだ。


「えっ……エリック様、リリーは私です! 私がリリーです!」


「はぁ?」


 マリアが、言うに事欠いて自分がリリーだと? そんな馬鹿なことを言ってまで、俺の気を引きたいのか。

 流石にこれには、怪我人に対しても怒りが抑えられない。


「マリア・ハイルアー。君との婚約破棄は正式に進めている。そのような戯れ言はさらに君を貶めることにしかならない」


「っ、エリック様?」


 何が何だか分からないという表情のマリアに、これ以上用はない。リリーの方へと向き直ると、しっかりと俺の姿をリリーが捉えたところだった。


(わたくし)が目覚めて一言目が婚約破棄のこととは……。分かりましたわ。もう、分かりましたから。これ以上私を惨めな気持ちにさせないで下さい。エリック王太子殿下」


「リリー? それに、姉さんも何を言っているんだ?」


 思わず固まった俺の代わりに、マリアの弟であるカインが口を開く。


「……はい? カイン、あなたは何を仰ってるの? 姉である私と、貴方の愛しのリリーさんを見間違えるだなんて。目玉でも取り替えてきたら如何です」


 リリーの可憐な声にはミスマッチな言葉。

 俺達は顔を見合わせた。


「これは、一体どういうことだ……」


 誰が言ったかは分からない。もしかしたら、俺が言ったのかもしれない。それくらい、何が起きているのか理解が出来なかった。


「マリア様、目を覚ましたんですね! ……良かった。お怪我などはありませんか?」


 言葉だけを聞くと、心の優しいリリーが言っているのだと分かる。しかし、声と姿はマリアなのだ。


「リリーさん……いえ、私としたことが、大変な失礼をしましたわ。これからはエリック王太子殿下と貴女を邪魔しないと誓いますわ」


「マリア様……」


 俺達のせいでお互い、姿が見えていないだろうけれど、トントン拍子に進んでいく。

 もし物語ならば、ここで新たな友情でも芽生えそうだ。


「はっ! いや、二人とも待ってほしいんだけど」


 慌ててトニーがリリーとマリアを止める。


「今俺達は、マリア様がリリー嬢を害する可能性を思って、お互いが見えないような位置に立っています」


「あら、トニー様、失礼ですわよ」


 リリー……の姿でマリアらしき言葉が放たれる。


「も、申し訳ございません。しかし、いえ、これは一端置いておきましょう。一度、お互いの姿を確認すべきだと思うのです」


「そうだな。それがいいだろう」


 俺はトニーに賛成だ。この訳の分からない状況を打破するには、一度、リリーとマリアが顔を合わせるべきだと思う。

 恥ずかしながら俺達では、この謎を解明することは出来なさそうだからな。


「では、一息でここから離れます。殿下も、リリー嬢もマリア様も良いですね」


「あぁ」


「はい!」


「よろしくてよ」


「では、退きます!」


 トニー含めて俺達全員が、ベッドとベッドの間から離れる。

 倒れてから初めてお互いを見たリリーとマリアは目を見開き、そして。


「私が……いる?!」


「私、ですわね!?」


「もしかして、入れ替わってるの?!」

「もしかして、入れ替わってますの?!」


 入れ替わりが確実になったのだった。

お読みいただきありがとうございます。

3話と4話は今日中に掲載する予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ