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花の標べ  作者: 一ノ関珠世
第一章
18/30

閑話 ヴァージェンスの独り言2

 

 次の日は朝から王立図書館に向かった。王立図書館は王都にいた時分からよく通っていたので何人か昔馴染みの者がいる。楽しみにしながら、王立図書館の象徴である大きな時計台を見上げた。白く小さな雲が散った青空に文字盤がくっきりとよく見える。時刻は開館時間の五分前だ。





「久しぶりじゃないかヴァージェンス。奥方が亡くなってから全然音沙汰が無いから心配していたよ」


 そう受付近くで声をかけてくれたのはゼマインだ。数年ぶりの彼は変わらず神経質そうな銀縁の眼鏡をかけ、書架に返すのか本を数冊手に持っている。私よりも少し年上だったと思うが、殆ど白に近いブロンドの髪の量は豊かだ。少し薄くなってきた自分の髪を寂しく思いながら彼が差し出してきた手を握った。



「さぁ、此方へ。積もる話もあるだろう」


 ゼマインはそう言って、彼の仕事部屋へと私を誘う。階段を登り、分厚い樫の扉を開けるとそこにはこの国でも最古の書物が並んでいる。そう彼はこの王立図書館の稀覯書(きこうしょ)収集室の番人なのだ。結婚前からよく王立図書館を利用していたが、資料の相談等を担当してくれることが多かったのと、年が近く同じように書物が好きということもあって気づけば打ち解けた仲になっていた。ミレーヌにも何度か会わせたこともある。彼女が亡くなった後手紙で報告しただけで、それからは何も連絡をしていなかった。


 部屋にある大きな閲覧用テーブルに座り、近況をお互いに話す。それと合わせて私はミレーヌの末期の言葉と、昨日調べた成果を書きつけた紙を見せて、彼の意見を伺った。



「へぇ。冥府の神…天教が入ってくる前の民間信仰の神か。神といってもこの神だけを特別選んで信仰するなんてことは無いから、言い回しだけに存在するものだと思っていたが、夫婦神だったなら一緒に崇められていたのかもな」


「そもそもナディヴァーチェ様の夫神が冥府の神だなんて聞いたことがあったかい?初代国王のグラディウス王の王妃のウカーシュは女神様の娘だそうだが、父親はもしかしたら冥府の神なのかとも考えているんだ」


「うーむ。ウカーシュ妃の父親の記述はどういうものだったかな。まずは古フィオレント建国記だな。ここには丁度初版本も揃っている」


 そう言うと彼はにやりと笑い、懐から白手袋を取り出すと慣れた手つきではめた。別に私は初版本に拘りは無いが、ゼマインにとって初版本とそれ以降のモノは明確な違いがあるようだ。そして彼は自分の宝物を披露するように心底嬉しそうな顔になっているので、あえて私も無粋な事は言わない。そもそも白手袋をしなければ見れないなんて面倒だと思っていることなんておくびにも出さない。


 彼は恭しい手つきで奥から一冊の分厚い本を持ってきた。縁はもう擦り切れており、一目見ただけで古いことがわかる。そっと音も立てずにテーブルに置いて、愛おしげに表紙を撫でた。彼の瞳は潤み、頬は紅潮している。月日が経ったことを感じさせない彼の様子に思わず苦笑してしまった。そう、彼は稀覯書(フリーク)なのだ。


 彼から私の分の白手袋を受け取り、古フィオレント建国記を覗き込む。


 系図の頁を開くと、ウカーシュ妃の父親の部分が酷く薄く(かす)れてしまっている。


「ん……これじゃあ読めないな。ンディまでは書いてあるか?」


 二人で色んな角度から見てみたが、『ンディ』と書いてあるところまでは読めたがそこより前の部分と後ろの部分は読み取ることが出来なかった。


「しょうがない。次の版が確か閉架書庫にもあったと思うから取ってこよう」


 そういって持ってきてもらった新しい版のものにはウカーシュ妃の実家の記述はどこにも無かった。



 



「古フィオレント時代の地誌と歴史書を持ってきてみるか。少し待っててくれ」


 そう言って彼は私を残して本を探しに出ていった。


 少し経つといくつか歴史の研究書や古フィオレント王国時代の地誌をいくつか持ってきてくれた。地誌はそれぞれの領地が税を王城に持っていく際にその土地の気候や領地で話題になった事を報告するために書いたもので、場所によって量も質も様々だ。


 私自身は今まで南のフィオレント王国になる前の時代の事を調べることが多かったので、北の地誌を読むのは初めてだ。

 

「それにしても君の奥方は何を探して欲しいのか。もしくは死際の幻でも見えたのか」


 椅子に背を預けて頁をめくりながらゼマインは呟くように私に言った。


「彼女が探して欲しいなら私は出来るだけのことはするつもりさ。彼女は意味のないことを残さないと思うんだ。これはただの直感なんだけどな」


「だいたい、冥府の神には名前も伝わっていないだろう?様々な神がいるが、名前が無いものは冥府の神だけじゃないか。名前が無いことで実体がなく死者の国というぼんやりとした概念だけを指しているかのようにも思えないか?」


 ゼマインからそう指摘を受けて虚を突かれたような気分になった。そういった意味だとは考えたこともなかったからだ。


「それならミレーヌは死者の国まで早く訪ねてきて欲しいと私に言ったということなのだろうか」


 自然と自分の声のトーンが落ちる。


「おいおい、ちょっとそれは不味いだろう。まだ死ぬのは早すぎる。君の奥方も寂しいから早く来て!なんて思う人じゃないだろうし、ちゃんと寿命を全うしないと天界に迎え入れてもらえないぞ」


 彼はそう冗談で包みながらも真剣な顔で私を見遣った。さすがに彼女が逝ってしまったからといっても自死は考えていない。心配させてもいけないので、彼の目を見て、自ら命を捨てるようなことはしないとしっかり否定はしておいた。


「天界と言えば、地界のヴァンプーラは冥府の神と何か関係はあるのだろうか」


「君が読んだ手記にあった通りだろう。天教の教えと相容れなかった神は全て天教の神の下に位置づけられたってことだろう。民間では時が経つにつれてその辺の違いも曖昧になっていっただろうしな。神の世界も強者が力を持つんだから、世知辛いな。」


 この国民のほとんどが天教を崇拝している。フィオレントでは人生の節目節目に、必ず神師に関わる。地域の神館に所属する神師は、その地域にどのような家族がどれだけいるのか把握しており、日常生活の規範も人々に教示する。神の意思を人々に伝える役目を負う神師は、地域社会の中でも尊重される存在だ。神館は祈りを捧げる場所であるだけでなく、貧しい子ども達に読み書きを教える等の慈善事業も行っている。


 そこまで考えて、天教以前の神は宿っている場所が明確では無いことに気付いた。女神ナディヴァーチェや冥府の神だけでなく、神と名の付くものは他にも多数いるが、どこかに祀られている場所があるわけでは無い。女神様の家と呼ばれる祠のような小さなものはあるが、神館の様に人々を教え導く拠点のようなものは天教以前には存在し得なかった。怪しげな(かんなぎ)はいたが、神師のように神学校を出て学識を持っているわけでは無い。


 その上神館では孤児や乱暴な夫から逃げてきた婦女子も匿われる。ここに来ればどうにか救いが得られるという場所なのだ。人々は所在が曖昧な神から、目に見える救いのある神に鞍替えしたのだろう。


 

 そうつらつらと考えていると、ふと目にとまった所に冥府の神とナディヴァーチェが出会った湖畔というのが出てきた。ガラ山にあるマシ湖のほとりで二人は出会った様だ。詳しい事は書いておらず、それ以上の事は分からなかった。


「おっ!これを見てみろ。冥府の神が妻問いをする話がのっているぞ」


 ゼマインも早速見つけた様だ。自分が見つけた箇所も隣に広げた。


「マシ湖で二人は出会ったのか。他のところに何か説明は無いのか?」


「無かったよ。フェンドの地誌はこの薄さだろう?本当に必要最低限の内容しか書かれていないようだよ」


 私はゼマインが見つけた厚みのあるベルニュの地誌に手を伸ばした。そこには冥府の神が馬に乗り、メスティナ川を渡り妻であるナディヴァーチェの元へ通う話が書かれていた。


「この時代の夫婦は別々の家に住んでいたのだったか」


「そうだ。属国時代から帝国文化が色濃く入って来たのを契機にそういった結婚の形も変わっていって今の形となったからな」


 最後に添えられていた文に目が止まる。


 闇に滲む馬を駆りて 君の元へと向かふ

 清瀬の小石を踏み渡れども 君はまだ遠く

 (いや)()す想ひで 君が名を呼ばふ


 恋する人の元へと向かう夜道は余程やきもきさせられた事だろう。神も人もそこは変わらないのだなと微笑ましく思えた。このメスティナ川は馬で越えられる程の浅瀬の川なのだろうかと考えた所でどこにあるのかが気になった。


「そういえばメスティナ川とはどこの川だ?初めて聞くが」


「これはベルニュの地誌だからそこにある川じゃないか?」



 地誌に出てくる地名と地図とを付き合わせてみる。フェンドは王国の北方にあたるカラール地方の中でも特に最北端にある領地だ。ベルニュはフェンドよりも南に下った場所にある。フェンドにある国境には峻厳な山並みのヨゼット山脈が横たわり、一際高いのが夏でも山頂は氷雪に閉ざされるガラ山だ。ガラ山は試練の神パラクーフがいるとされ、山頂に到達するにはパラクーフに認められなければ辿りつかないという。方位磁針もきかないので、隣国へ行く為にはガラ山を大きく迂回していくルートを通るのが普通だ。

ガラ山からは何本か川が流れているが、その一つがメスティナ川だった。地図で見ただけではメスティナ川の幅がどれ程のものかは分からなかった。




 一息付いて、今度はミュラジの地誌を手に取った。ペラペラ頁をめくっているうちに、ナディヴァーチェの出産の話を見つけた。ナディヴァーチェの産屋はこのミュラジにある泉のほとりに建てられていたようだ。


 冥府の神とナディヴァーチェはとても仲の良い夫婦だったが、夫の力が強すぎてしまい、妻が何度妊娠しても子は流れてしまった。

 そこで夫は妻に「私たちの子が無事に産まれる為には私が近くにいてはいけない。私は地の深くに潜ろう。でも忘れないで、私の目の色と同じアランドの花を通して君たちを見守っているよ」そう言って、地の深くに潜ると、二人の子どもは無事に産まれた。その喜びが春になったそうだ。


 その時に生まれたのは男女の双子神で、生殖と豊穣を司る女神のウカーシュ、芸能と芸術の男神マデラーシュだ。ウカーシュは長じて後に古フィオレント王国のグラディウス王に嫁ぎ沢山の子を()したが、マデラーシュは生まれてからすぐに世界の各地をまわり、優れた歌舞音曲を広める旅に出たと書かれていた。


 今度は私がゼマインに声をかけ、見つけた部分を見せる。



「へぇ。冥府の神は妻の出産のために地に潜ったのか。アランドの花色は冥府の神の瞳の色なんだな。そういえば君と奥方の思い出の花もアランドでは無かったか?」


「そうだ。丁度私も同じことを考えたよ。彼女にプロポーズの時に渡した花はアランドなんだ」


 手づから作ったアランドの花束を思い出して、思わず口元が綻んだ。その花は自宅の庭に咲いていたものをクリーム地に刺繍が施されたリボンで束ねたものだった。


「聞いた時は何であんな地味なその辺に生えているような花を贈るんだと思ったが、何か意図があったのか?」


「いやミレーヌは豪華な花束よりも野に咲く花の清らかさの方が似合うと思ったのと、自らの手で作りたかったというただそれだけなんだ。ほら歌でもあるだろう?」


「アランド アランド おまえは見たか ってやつだったか?」


「そうそう。それだ。


 アランド アランド おまえは見たか

 僕の愛しい あの人を

 木々の合間に 跳ねる巻き毛

 散りゆく花弁に 隠れる人を 


 アランド アランド 教えておくれ

 幸せだろうか あの人は

 おまえを摘んで 捧げるならば

 永遠(とわ)を誓ってくれるだろうか

 

 ミレーヌはとっても艶やかなブルネットの巻き毛だったから、この歌がふっと思い浮かんだんだよ」


 この歌は誰でも知っていて誰が作ったのかは分からない昔からあるわらべうたのようなものだ。幼い頃よく母に手を引かれながらこの歌を聞いたことを覚えている。


「うーむ。何だか全部が関係していくような気がするが、こういう時は意識的にこじつけていってるような気もするんだよな」


 ゼマインは顎髭を撫ぜながら、地図をもう一度確認するように見ている。


「だが今は全部が関係するかもしれないと考えながら情報を集めて、後で取捨選択するさ。取りこぼす方が怖いからな」


 ゼマインは私の意見に首肯した後、先程から話題に上った地名をその少し曲がった人差し指で辿っていった。指先で何か考えるようにトントントンと机を叩く音が聞こえる。


「なぁ、ヴァージェンス。先程見つけた冥府の神と女神の話がある地がほぼ一直線になってないか?」


 冥府の神がナディヴァーチェに出会ったというマシ湖から、妻問いをしたフェンドの地を通り、産屋のあったミュラジへ南に向かっている。ミュラジはヌースカの一つ手前の領地になる。


「本当だ。向かう先にはヌースカがあるのか」


「どうせなら実際にヌースカに行ってみればどうだ?あちらにはまだ行ったことがないだろう。古フィオレント王国の全ての始まりはヌースカじゃないか」


 

 ヌースカに向かうとなると、また1週間程は移動にかかる。安易に決断できるような距離では無い。



「考えておこう。今年は少し厳しい年になりそうだからな」


 そう言うと、ゼマインも難しげに眉を顰めた。今年の日照りによる不作は王都でも食料品価格の高騰によってじわじわと人々の生活を圧迫している。


「来年はどうなりそうだ。持ち直せるか?」


「難しいな。果樹なんかは樹自体が枯れてしまったものも多い。隣のサンサーンでは大規模な山火事まであったそうだ。森の恵も少ない為に多数の獣たちも畑を狙っている。日照りが続いた年の作物は虫にも弱い。来年もし天候が例年通りだったとしても、すぐに収穫を例年通りに戻すことは難しいだろう」



 二人の間に沈黙が落ちる。私は努めて手元に集中しようとした。


 

 


 その後、結局カラール地方とその両隣の地方の地誌も確認したが、他の地域ではナディヴァーチェに関する話はあれど、冥府の神が出てくる話は見つからなかった。



 調べれば調べるほどヌースカが気になっていく。冥府の神が地に潜った場所もミュラジにあるようだし、頭の中ではヌースカで資料を調べた後、ミュラジに向かうのもいいなと考え始めたところで心は決まった。


 ゼマインの知り合いがヌースカの図書館にいると言うので、紹介状も書いてもらう。


「ヴァージェンス、幸運を祈る」


 そう言ってゼマインは親指と小指を立てた。私も応えるように指で同じ形を作り微笑んだ。





 現在のフィオレント王国の前身である古フィオレント王国時代の王都は、現在の王都ブリュンヒルから北にあるカラール地方のヌースカだった。四方を山地に囲まれたヌースカは今でもカラール地方一の人口を誇る街だ。ヌースカの北西にあるポトーシャ山からは銀が豊富に産出する。古来ヌースカはこの銀による交易で栄える鉱山街から出発した。



 私がヌースカへと向かっている頃、北のヨゼット山脈の麓から始まったマーリー風邪は通常の風邪に混じりつつ静かに広がっていた。私がその事を知ったのはカラール地方に入ってすぐの街での宿屋で聞いた噂だった。


 北方では今年は凶作で食糧価格も高騰し、悪い風邪が流行っているらしいからそちらに行くのは今はやめた方がいい。冥府の国の蓋が開いて沢山の人々の死を飲み込んでいっている。冥府の神は生贄を欲しているようだ―と。



 行商をしているという年配の男の大袈裟な言い回しだったのかもしれないが、その冥府の神という言葉に私は無視できないものを感じた。勿論そんな場所にのこのこと行くなんて馬鹿げているのは分かっているし、様々な人に止められたが、結局何かに焚きつけられるように予定通りに旅程を進めた。


 とはいえジョシュアには、さすがに命の保証もしてやれないから領地へ帰ってもいいと伝えた。彼は今まで本当によく仕えてくれた。こんな所でむざむざ命を捨てるのは惜しいと思いそう伝えたが、彼は笑って「ここまで来たのですから最後までお供しますよ。私はヴァージェンス様がかの地で何を見るのかを確認したいのです。それにヴァージェンス様を置いて帰ったら屋敷の者達に叱られてしまうじゃないですか」と言い、家族の者に一度手紙を書くことも勧められた。




 ヌースカに近づく程、治安が悪化しているのがひりつくような肌の感覚で分かった。人の顔は仄暗く荒んでいて、宿屋も安全性を考えてかなり上等な所を選び、日が落ちると外には出ない様にした。小さな村の子ども達の頬は()け、満足に食べられていない様子が窺える。旅の合間に出会った人からは飢えた農民達が追い剥ぎの様なことをしている場所があるという話も聞いた。


 これらを踏まえ、ヌースカではジョシュアの知人宅にある離れにお世話になることにした。ヌースカでも治安のいい区画にあり、知人も信頼できる人柄だから、宿を取るよりも安全だろうということで決めた。



 王都でヌースカに旅立つ事を決めてから、世話になる予定の屋敷に商人を通じてイグルートン産小麦を一冬分届けさせていた。経験から北は食糧事情が南よりも段違いに緊迫するだろうと言うことが想定できていたからだ。


 ヌースカ周辺では気候が寒冷な為に黒麦が栽培されているが、こちらもまた夏の日照りで収穫量が激減し、市場にすら出回っていないらしい。



 その為到着した際に出迎えてくれた屋敷の主人には大層感謝された。聞くとやはり今年の収穫はスズメの涙程で、小麦粉の価格は高騰し、街のパン屋もいくつかは店を畳んだという。貧困層では疫病と食糧難で多数の死者が出ているらしい。


 貧民区画では特にマーリー風邪が猛威を奮っており、出来る限り近づかないようにと注意を受けた。


 普段ならば時間の許す限りうろついてそこに住んでいる人に直接話を聞きに行くが、流行病(はやりやまい)はやはり怖いので、今回はお世話になっている家の使用人や出入りの商人達に話を聞かせてもらうことにした。


 

 

 するといくつか面白い話を集めることが出来た。


 食料品を持ってきてくれる小太りの商人からは、この辺りの女神様の家の話が聞けた。


「女神様の家の中身はご存知ですかい?祭りの時ですら中身は開かないので知らない人も多いでしょうね。その中には冥府の神とナディヴァーチェの二体の神像が納められているそうですよ。知り合いの大工屋が教えてくれたんですがね。そいつは何度か女神様の家を修繕したことがあるらしいんです。二人は夫婦神ですからね。言うなればあそこは二人の愛の巣ですかね。へっへっ」


 その商人は人好きのする顔で肉厚の掌で自分の頭を撫でつけながら話してくれた。


 南部や王都では聞いたことが無かった二人は夫婦神だったという話はこの辺りでは誰でも知っていることのようだ。その商人には話をして、その大工屋から直接話を聞くことができるよう連絡をとってもらうことにした。



 今まで女神様の家の中身なんて考えたことも無かったので、この話には驚いた。ふと我が家に伝わる女神様の家も二体の神像が入っているのではないかという考えが浮かんだ。イグルートン家にある女神様の家は何代か前に降嫁した王女が作ったそうだ。王家に伝わる形式で作ったものだとミレーヌも言っていたと思う。女神様の家の管理は女性がするものだ。帰ったら現在の管理者であるユーラとサラに聞いてみなければと心に留めた。



 年配の掃除婦からは、こちらの地方の春訪祭の様子が聞けた。



「私の故郷はミュラジとの領境にある農村なんですけどね。そこでは春訪祭の日には細い枝を集めて作った二体の人形を朝日が一番始めに当たる部屋に飾るんです。もちろんそれは女の役目ですよ。ナディヴァーチェ様は生命の始まりの神であり、暁を支配する神ですから。もう一体の人形は誰かって?もちろん夫神の冥府の神ですよ。この二体の人形は春訪祭の最終日の夕方に村の真ん中で燃やしてしまいます。冥府の神は生命の終わり、黄昏時を支配する冥府の神ですからね」

 

 同じように準備をする所は多いようで、他の使用人からも同様の話を聞くことができた。


 ナディヴァーチェと冥府の神は夫婦の神として人々から崇められていたというのは間違いがないようだ。そして、南方の方では廃れてしまった風習もこのヌースカ周辺ではまだまだ色濃く残っているようだ。フィオレント王国全体で見ると非常に保守的な人物が多いとされる北方だからこそ、先祖からの教えを大事に守り伝えているのだろう。



 

 

若い子が全然出てこない(笑)



幸運を祈る時のジェスチャーは普通人差し指と中指を絡ませます。この世界では親指と小指を立ててみました。電話…笑

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