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日向の君と日陰の僕  作者: からむますたー
7/10

take6 店長と僕と彼女と

「あー、暇だなぁ…」


今日は十二月二十八日で、年末最後のmono+でのアルバイト。mono+は今日で年末の営業を終了する。


「店長、雑貨店なのに、年末のこんな早い時期に店を休業してもいいんですか?」


僕は店長に尋ねた。


「クリスマスシーズンも終わったし、売れるものもあまりないし、早くに閉めてもいいでしょ。あと、僕が明日からスキー旅行に行くからね!」


店長は滑っていると思われるジェスチャーをした。


「スキーですか、いいですね。」

「どうだい、尾上くんも一緒に行かないかい?」

「それって、店長の奢りですか?」

「やだなぁ、自費にきまってるじゃない。」

「それなら行きません。」

「よかった。彼女と旅行だったから、行くって言われたときはどうしようかと思ったよ。」

「なら誘わないでくださいよ!」

「いやぁ、このやり取りを一度やってみたかったんだよ。尾上くんなら、予想通りの反応をしてくれると思ったから。」


と店長は笑っていた。


「尾上くん、実家は遠方じゃなかったっけ。」

「そうですよ。」

「実家に帰らなくていいのかい?」

「うーん、実家に帰ってもやることがないので…」

「会えるうちに会ったほうがいいと思うけどなぁ…」

「…考えておきます。」


僕はうつむきがちに返事をした。実家への帰省はできることなら避けたい…

僕にとって、実家というのは非常に居づらいのである。親に求められたことをこなしていた高校時代。家を継ぐ者として、叩き込まれたのは勉学だけでなく、スポーツや作法、それだけでなく作る友達まで決められていた。自分らしく生きているという感覚がなかった。せっかく掴んだ実家脱出のチャンスなので、できる限り羽根を伸ばしたいのである。


(とはいえ、どうやって年末過ごそうか…親には『バイトと集中講義で年末年始は帰れそうにない』と伝えたが、これでは暇になってしまう)


頼みの綱の友人たちはみな帰省の予定か実家住まいで家の手伝いがあるらしく、一人で過ごすことになりそうだ。


「こういうことなら、店長と一緒にスキーでも行けばよかったかなぁ…」


なんて思ってしまうくらいに困っている。


(まぁ、今日の仕事を終わるまでには何か案を考えよう)


そう思いながら、閉店ぎりぎりまで過ごすのであった。


「尾上くん、もうお店閉めていいよー」

「分かりましたー」


時刻は十八時になる五分前。今年の営業を終えようとしたとき、店内に一人の女性が入ってきた。


「店長、お客さんが来たので、十八時まで店開けますね。」

「おっと、そうか。それなら仕方ない。」


店長は少しがっかりしたような感じだった。

その女性のお客さんで最後なので、僕はその女性の動きを追っていた。大きすぎるサングラスにマスク姿。それらを除けば、いたって普通の女性の格好である。


「なんか、やけに怪しげな格好ですね。」

「もしかしたら、有名人だったりね。ついに僕のお店も有名になっちゃったか。」

「その割には、あまりお客さんが来てませんよね?」

「ソンナコトハナイヨ…」


店長がわざとらしく目を泳がせている。


(この人のことだから、何か独自のルートでもあるんだろうな)


実際、店長のことはmono+の店長であること以外は何も知らない。mono+は通販も行っており、配送のための梱包を手伝ったりすることもある。ただ、宛先は全て店長のみが把握しており、アルバイトの僕らでさえも知らない。


「まぁ、そのおかげで僕らアルバイトは丁寧な接客ができるのが、ありがたいんですけどね。」

「接客業は丁寧な対応が大事だからね。君たちアルバイトにあまり苦労はさせたくないからね。」

「店長が店長らしいことを言っている。これは明日、大雪ですね!」

「大雪だと家から出られなくなるから、やめてほしいね」


店長は冗談交じりに答えた。

最後のお客さんに視線を戻すと、どうやらキッチン用品を探しているようだ。


「ほんと、うちの店は色々置いてありますよね。」

「色々あったほうが、多くのお客さんが足を運んでくれるじゃない。」

「どこからその品物を仕入れてくるんですか…」

「それは秘密だね!」


店長に笑顔で返されてしまった。


「じゃあ、あのお客さんの対応を任せるね。」


と言って、店長はバックヤードに行った

mono+では文房具や日用品といった雑貨をメインに扱ってはいるが、調理器具も置いている珍しい雑貨屋である。しかも、流行に合わせた品物を店長がすぐに仕入れてくるので、流通ルートをどうやって確保しているのか気になるところではある。雑貨の売り上げがメインとはいえ、キッチン用品の売り上げもなかなかに大きい。どうやら、その女性も流行りのキッチン用品を手に取り、レジへとやってきた。


「お預かりしますね。」

「すみません、これラッピングをお願いします。」

「かしこまりま…」


僕はその声を聴いて、ドキッとした。なぜなら、そこにいたのは先日のライブにいた人だったからだ。


「どうして、こちらに?」


僕はとっさに尋ねていた。


「どうしてって?前に一度、行ってみたいという話をしたので…」

「あぁ、あのときですか…」


そういえば、ホームでたまたま出会ったときにそんな話をしていたなぁと思いだした。


「ご迷惑…でした?」

「いえいえ、そんなことないですよ!」


僕は全力で否定した。


「なら、よかった」


白石さんはマスクをしていたけれども、僕には彼女が笑顔になったことが分かった。


「もしかして、こちらのプレゼントは深山さんにですか?」


僕は白石さんに尋ねた。


「えぇ、なぜ分かったんですか?」

「何となく、勘ですね。」

「勘でも当てるなんて、すごいです。」

「いやぁ、そんなことないですよ。」


僕と白石さんは笑った。何も特別なことはなく、交わされる言葉。僕はとても居心地がよかった。そんな空気の中、ラッピングのための手を動かしていく。やがて


「ラッピングは大体終わりましたよ。リボンの色はいかがいたしましょうか?」

「それでは、このピンク色でお願いいたします。」

「かしこまりました。」


今までに何度もやってきたことだ、慣れた手つきで僕はピンクのリボンを巻いていく。


「はい、出来上がりました。」

「ありがとうございます。」

「お代はラッピング込みで7980円になります。」


僕は代金を告げると、白石さんはお金を差し出した。


「お釣りの20円です。」


ありがとうございます、と言って白石さんはお釣りを受け取って、その場を去ろうとした。


「おやおや、尾上くんも隅に置けないねぇ。」


店長がバックヤードから現れた。


「ちょ、店長!?」

「この子、知り合いなんでしょ?暗いし、駅まで送っていってあげなさいな。」

「ええっ!?」


僕は思わず声をあげていた。内心はとても嬉しい。有名女性声優の白石さんと一緒に帰れるなんて、一生分の運を使い果たすくらいの出来後なんじゃないかと。


「夜道を女の子一人で歩かせるもんじゃないぞ。ねぇ、そこのお嬢さんはどうだい?」


店長がいつもの軽い口調で白石さんに話しかける。


「えっと…」


白石さんは困惑している。それは無理もないだろう。ファンや関係者に見られてしまったら、何かと大変なことになるはずだ。恐らく、店長はこの女性が声優の白石実歩だということを知らない。


「店長、実は…」


僕が説明しようとしたとき


「…お、お願いします。」

「ええっ!?」


僕は間抜けな声を出してしまった。


「店長、この人は…」

「世間じゃ有名な人なんでしょ?それくらい、外見で分かるさ。だからこそ、カモフラージュというものが必要なんじゃない。」

「いや、それは…」


僕は店長の言葉を否定しきれなかった。確かに、今の白石さんは目立つ。それは彼女のもつ雰囲気がそうさせているのかもしれない。とはいえ、有名女性声優だ。何かがあっては困る。


「店長、僕は店を閉める作業が必要ですから。まだ、仕事がありますから。」


僕は手をあたふたさせながら言った。


「あぁ、それなら僕がやっておくよ。若者の邪魔はしたくないからね。」


満面の笑みで、しかもウィンクまで決めてくる店長。


(店長、あとで覚えておいてくださいよ…)


と思いながら、僕は覚悟を決めた。


「ということなので、ちょっと待っていただけますか?駅までお送りします。」

「わ、わかりました!」


白石さんは勢いよく返事をした。

僕は急いでバックヤードに行き、店を出る支度を始めた。

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