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日向の君と日陰の僕  作者: からむますたー
6/10

take5 日向の君が輝くステージと観覧席にいる日陰の僕

時刻は一九時―


「みなさん、本日はルネ・ファンタジアのトークイベントにお集まりいただき、ありがとうございます。」


開会のアナウンスが入ると同時に歓声があがった。


「早速、本日のゲストをご紹介しましょう。主人公の三崎光太役の梶谷裕貴さん、メインヒロインのルネ・エミリア役の白石実歩さんです!」


アナウンサーが二人の名前を告げたとき、「わあああああああああああ!」と歓声が上がった。


(すごいな、この歓声…)


僕はあまりの歓声にたじろいでしまった。


「そして、ルネ・ファンタジアの監督の三島努さんです。」


再び、「わああああああああああ!」と歓声が上がった。受付でもらったパンフレットを読むと、三島監督が手掛けた作品が載っており、ほとんどの作品は自分が見聞きしたことのある作品ばかりである。今回も例にもれず大ヒットしているようだ。


「今回は最終回に向けてルネ・ファンタジアの見所をみなさんと振り返るとともに、トークショーという形で作品についての思いや収録の裏話などをしていきます。みなさま、どうぞお楽しみください。」


こうしてトークショーが始まった。ルネ・ファンタジアは異世界転生もので、主人公の三崎光太が現実世界で大災害に遭遇し、その災害で命を落とした光太が転生した先での冒険譚である。大災害が起きたあの日、光太は自身も被災しているにも関わらず、多くの人を救助しようとしていた。その最中、目の前の小さい子を崩れ落ちる建物から身を呈して守ったときに命を落とし、異世界であるルネ王国に転生する。転生した直後のルネ王国はクーデターに遭っており、目の前で虐殺される人々を救おうと立ち向かう光太。そこで運命的な出会いをする亡国の王女エミリアと光太。二人は協力してその場を脱出し、王国を取り戻すべく奮闘するお話である。大きなスクリーンに放送されたシーンを振り返りつつ、間にトークが挟まれていくという形で進んだ。各話の名シーンが流れたり、制作の裏話が話されたりと、とても密度の濃い内容だった。友達にお願いをして、事前に現在の放送回までを予習しておいてよかったと思う。


「さて、このルネ・ファンタジアでは、主人公の光太とエミリアとの恋がどうなるのかも一つの見どころです。お二人にこの光太とエミリアの見どころを語っていただきましょう。では、エミリア役の白石さんからどうぞ。」

「はーい。もうね、光太はねー、カッコよすぎきて何から話したらいいのか分からないくらいなんですけど。もう初めの出会いがカッコいいんですよね。あのシーンって出せますか?」


白石さんがそう言うと、スタッフの人が一話の戦闘シーンがスクリーンに写し出された。


「あぁ、これです。このシーンです。この世界のことを何も理解していない状況で、襲われているエミリアを助けようと対峙しているシーンがほんとにカッコいいです。ここで、光太の優しさと勇敢さっていうのが伝わるいいシーンだと思います。」

「確かに、何も知らない状況で、自分のほうが大変なのに誰かを救うというのは本当にカッコいいですよね。そこのところ、どうでしょうか。光太役の梶谷さん。」

「そうですね、僕はこういう状況だったら一緒に逃げ出していますね。でも、彼は逃げ出さず、立ち向かうあたりが本当にカッコいいです。」

「ありがとうございます。続いて、ヒロインのエミリアの見どころを梶谷さんから。」

「はい。エミリアの見どころは、ポンコツなところですね。第三話の料理のシーンとか。」


梶谷さんがそう言うと、会場がどっと笑いに包まれた。


(確かに、あのシーンのエミリアはポンコツだった…)


と僕も思わず、思い出し笑いをしてしまった。


「でも、そんなエミリアが、話が進むごとにポンコツじゃなくなっていく姿も彼女の魅力だと思います。」


おぉ…と会場から感嘆の声があがる。料理で露呈したポンコツさをなんとかしようと、必死に頑張る姿も魅力的なのだ。王女という立場に甘んぜず、果敢にチャレンジしていく姿に光太や周りの人々が賛同し、協力者が増えていくのだ。


「中でも、九話で光太のためにスープを作るシーンは感動ものでしたね。」


と梶谷さんは言った。そう、九話でエミリアをかばった光太が毒に侵される。そこで、エミリアは毒を治療するためのスープの具材を集めて、調理をするというお話なのだ。


「あのとき、意識がもうろうとしている光太に話しかけるシーンでの白石さんが迫真の演技過ぎて、僕、思わず次の台詞を言い忘れちゃったんですけどね。」


「あのときの梶谷さん、ほんとピクリとも動かなかったので、びっくりしたんですよ。後から聞いたら、『迫真の演技過ぎて何も言えなかったわ』だって。」


梶谷さんと白石さんのトークで会場が再び笑いに包まれた。


(梶谷さんと白石さん、ほんとにトークがうまいなぁ)


短時間で会場のいるファンの心をつかみ、シリアスな雰囲気からおちゃらけた雰囲気まで変えてしまう。


「声優ってすごいなぁ…」


僕は思わず、そう呟いた。外見を見た感じでは、二人と自分の歳はそんなに変わらないと思う。もしかしたら、歳下かもしれない。そこらの人と同じ一般人である自分とは住んでいる場所が違うなと感じた。うつむいていた顔を上げて白石さんを見ていると、不意に目が合った。白石さんは怪訝そうな顔をした。きっと今の複雑な自分の顔に気づいたからだろう。


(せっかくのイベントなのに、そんな顔したらまずいよな…)


と後悔し始めたとき、白石さんはニコッとはにかんだ。瞬間、僕は体温が上がるのを感じた。そして、白石さんが口パクをしてきた。


『楽しめてる?』


僕はこのとき、周りの時間が止まったような感覚に囚われた。会場にはたくさんのファンがいるのに、自分と白石さんの二人だけの時間が動いているような感覚。あぁ、これが周りの時間が止まっている感覚なのだなと、僕は人生二十年目にして初めて知った。僕ははにかんだ白石さんに合わせるように


『うん、楽しいよ』


と自分なりの笑顔で、口パクで返した。それで伝わったのだろう、白石さんはもう一度はにかんで、司会者と梶谷さんのほうを向いた。それから先のことはあまり覚えていない。トークが進み、いつしか閉演の時間となったようだ。


「みなさま、名残惜しいですが、これにてトークイベントを閉演いたします。ゲストに来られた主人公の三崎光太役の梶谷裕貴さん、メインヒロインのルネ・エミリア役の白石実歩さん、監督の三島努さん、ありがとうございました。」


こうして、大きな拍手とともにトークイベントは終了した。退出するファンと一緒に、僕は会場を離れた。

今日はクリスマス。冷たい北風が吹く中にも関わらず、僕の身体は火照ったままだった。


実歩side


「ふぅ…」


白石実歩はため息をついた。トークイベントは過去に何回かあったのだが、ここまで大きなイベントは初めてである。しかも、今回はメインヒロインという大役を背負ってのトークイベントである。


「私、ちゃんと喋れるんだろうか。」


ふと、心で考えていたことが声に出てしまった。


「実歩、大丈夫よ。いつものあなたならできるわよ。」


いつの間にか楽屋に居た、マネージャーの深山さんに励まされていた。


「ベテランの梶谷さんや監督の三島さんの足を引っ張らないかって、すごく心配で…」


不安で潰れそうな白石を、深山は抱きしめた。


「大丈夫、あなたは誰よりも努力を積み重ねているんだから。いつものあなたらしくあればいいのよ。だから、こんなにもファンが増えたんじゃない。」


深山は白石に優しく言葉をかけた。


「ありがとう、美穂さん…」


落ち着きを取り戻した白石は台本を再び手に取り、集中して読み始めた。


「あ、そうそう、さっき尾上さんに会ったんだけど」

「えっ?来ているんですか?」


深山の言葉に白石は驚いた。


「花束を届けに来てたわよ。今日のイベント、頑張ってくださいって。」


深山は尾上から受け取った花束を白石に渡した。


「なんて、綺麗な花…」

「ラナンキュラスって言ってたわよ。」

「へぇ、そうなんですか。一瞬、バラかと思った。」

「彼、ガチガチに緊張してたわよ、面白いくらいに。こういうイベントが初めてだって。」

「初めてのイベントなんだぁ。それは楽しんでもらわないとなぁ…そのためにも頑張るぞ。」

「よしよし、その意気よ。出番が来たらまた来るから。」


と言って、深山は楽屋を出た。ラナンキュラスという花に興味をもった白石は、スマホでラナンキュラスについて調べた。


「あっ…」


たまたま、目に入ったのはラナンキュラスの花言葉。一際目立つ、赤色とピンク色のラナンキュラスの花言葉は『あなたは魅力に満ちている』と『飾らない美しさ』とあった。


「魅力に満ちていると飾らない美しさ、か…」


白石はポッと赤くなってしまった。


(いやいやいや、ないない。そんなことは。)

ちょっとした考えが頭をよぎったが、振り払った。


(今日は楽しんでもらいたいな…)


白石は会場で緊張しているであろう誰かさんを思いながら、台本を再び読み始めたのだった。

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