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日向の君と日陰の僕  作者: からむますたー
5/10

take4 日陰の僕、人生初めてのライブへ

クリスマスイブ、イベント当日。

僕は着なれない服で身を包んでいた。姉に訳を話して相談したところ


『あんた、どんだけ運がいいのよ。弟のために一肌脱いでやりますか。』


と言って、ノリノリで全身のコーディネートの指南までしてくれた。


『髪も今風のセットをしてきなさい。あんた、相手の子に恥はかかせないようにね。』


と言われ、ちょっとだけぼさぼさの髪を切ってきた。


(これなら、白石さんに会っても大丈夫かな)


僕は家を出る前に鏡で全身を確認してから出かけた。イベント会場は家から一時間以上かかる場所にある。


『泰典、そういう場面なんだから何かしらプレゼントは持っていきなさい。その子、人気の役者さんでしょ。きっと沢山のプレゼントをされるから、埋もれたくなければ…』


僕は途中の駅にある花屋さんに寄った。最近の話では、差し入れのお菓子や飲み物に薬を仕込んで大問題となったケースを聞いた。それを聞いて花にしようと決めたのだ。花を贈るというのは初めての経験であるため、どれにしようかと悩んでいると


「お悩みですか?」


店員さんが優しく声をかけてきた。


「あぁ、ちょっと、プレゼントで。」

「分かりました。予算はどれくらいにいたしましょう。」


予算か…。僕は予算のことを考えていなかった。どれくらいがいいんだろうか。


「もしかして、彼女さんへのプレゼントですか?」

「いえいえ、そうではないです。」


僕は慌てて否定をした。


「大変失礼いたしました。それでは女性へのプレゼントですね。」

「えっと、プレゼントするのはそうなんですけど、役者さんなんです。何がいいのか分からなくて。」

「それでしたら、今日仕入れましたこちらの花はいかがでしょうか。」


そう言って店員さんは赤色をしたバラのような花を示した。


「それは何ですか、バラみたいですが。」

「これはラナンキュラスと言います。お似合いかと思いまして。」


店員さんはにこやかにしているが、僕には“お似合い”という意味が分からなかった。


「プレゼントですと、大体二千円くらいでブーケサイズの花束になります。こんな感じになりますよ。」


店員さんは店頭に並べられていたブーケを手に取っていた。


「それでは、ラナンキュラスでブーケみたいな感じでお願いいたします。」

「かしこまりました。それでは十分ほどお待ちください。」


店員さんは色の違うラナンキュラスを何本かとり、長さを整えていく。店頭に並べられている花を見ていると、冬の花であるポインセチアやクリスマスツリーを模したツリーが多い。


(そうか、今日はクリスマスイブだもんな…)


駅の中を歩く人々。その中に複数のカップルを見た。男の人も女の人もとても楽しそうな雰囲気だ。


(自分にも彼女がいたら、あんな風に楽しいのだろうか…)


年齢=彼女いない歴の自分に彼女ができる見込みはあるのか。年頃の男子なので、やっぱり彼女はほしいと思う。けれど、どうすれば彼女ができるかのは分からない。


(こればっかりは神頼みしかないかなぁ…)


と悲観的になっているところに


「ラナンキュラスの花束をお待ちのお客様。」


と声をかけられた。見ると、赤から白、オレンジ、ピンク色の様々な色合いのラナンキュラスの花束があった。


「綺麗ですね」

「少し、気合を入れてみました。大事な方に会われるんでしょう?」


店員さんはイタズラっ子のような笑みを浮かべて尋ねてきた。


「そ、そうじゃないですよ。」


僕は手をブンブンと振って否定をしながら、お代を支払った。


「ふふふ、今日はクリスマスイブ。これをお渡しになる方と貴方に幸運がありますように、メリークリスマス。」

「ありがとうございます、メリークリスマス。」


僕は花束を受け取って、イベント会場の最寄り駅を目指した。


イベント会場の最寄り駅に着いたとき、たくさんの人に僕は驚いた。


(事前に調べて想定をしていたとはいえ、こんなにすごいイベントだったのか…)


白石さんがヒロインを演じているアニメのキャラが描かれたTシャツやキーホルダーを身に付けた人で、

改札口がごった返していた。時間にはまだ余裕があったので、ホームで少し待ってから改札を通過した。


(さてと、深山さんに連絡をとってみるか。)


周りにファンがいないことを確認した僕はスマートフォンを取り出し、深山さんの連絡先をタップした。


「もしもし、中野プロダクションの深山です。」

「こんばんは、古都大学の尾上です。」

「あ、尾上くん。どうしたの?」

「実は、白石さんに差し入れを持ってきたのですが。」

「ご丁寧にありがとうございます。どのような差し入れでしょうか。」

「実は花なんですけども…」

「花ですね、かしこまりました。会場内で待ち合わせをしてお受け取りいたしますので、会場内に入られてからSMSでメッセージを送ってください。」

「かしこました。よろしくお願いいたします。」


僕は通話を切って、イベント会場の中へ入った。SMSで深山さんにメッセージを送ると


『1階のフロアの関係者立ち入り禁止の前でお願いいたします。』


と返信がきたので、それらしきフロアに移動する。移動する途中で、出待ちをしているようなファンに出会った。


「白石ちゃん、会えないかなぁ。」

「ここで張っていれば、きっと会えると思う。」

「ふふふ、楽しみだなぁ。あの声で罵られたいね。」

「僕も白石ちゃんボイスで怒られたい。」


(これはまずいな…)


僕はすぐさまSMSで


『出待ちしているファンがいます。どうしましょうか。』


とメッセージを送った。すると深山さんから


『出待ちしているファンですか…。それでは、近くにいる会場のスタッフに声をかけてください。中野プロダクションの深山まで案内をしてくださいと伝えてください。』


僕は「分かりました。」と返信をしてから、近くにいるスタッフに声をかけた。


「すみません、私は尾上と申します。中野プロダクションの深山さんにお会いしたいのですが。」

「少々お待ちください。」


声をかけたスタッフはトランシーバーで連絡をとると


「ご案内いたします。」


と言って、関係者の待合室前へ案内してくれた。


「ここでお待ちください。」

「案内していただき、ありがとうございます。」


僕は案内してくれたスタッフにお辞儀をした。すぐに深山さんが来てくれた。


「どうも、尾上さん。今日は来てくださって、ありがとうございます。」

「いえいえ、こちらこそ。招待していただきまして、ありがとうございます。」

「白石のイベントは今日が初めてですか?」

「はい、実はイベント自体が初めてでして…」

「それはぜひ、今日のイベントを楽しんでください。」

「ありがとうございます。あと、これ、白石さんに。」


僕は持っていたラナンキュラスの花束を渡した。


「まぁ、なんて綺麗な花なんでしょう。白石が大変喜ぶかと思います。ありがとうございます。」

「ラナンキュラスっていう花らしいです。綺麗だったので…」

「白石にお伝えしておきますね。すみません、お時間が…」

「いえいえ、お時間をいただきありがとうございました。」

「それでは、今日のイベントを楽しんでくださいね。」


そう言って、僕は深山さんと別れた。来た道を戻って、イベントの会場へ向かう。すでに多くの人でいっぱいだった。グッズのタオルやサイリウムを持った人たち。イベントが始まるのを今か今かと待っているようであった。

時刻は十八時五十五分。あと五分でイベントが始まる。僕はこれから始まる、初めてのイベントに胸を高鳴らせていた


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