俺は今日、愛する人をパーティーから追放する。
はじめまして!鬼丸よーくと申します!
来ていただきありがとうございます( ´ ▽ ` )
執筆活動は初めてですので拙い部分は多々あるかと思いますが楽しんでいただけたら幸いです。
「アイシャ、悪いがこのパーティから……」
俺は今日、ずっとパーティーを組んできた幼なじみにパーティーのリーダーとしてある宣告をしなければならない。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
俺の名はアルゴ。勇者であり、俺や幼なじみのアイシャは勇者パーティーとして魔王を討伐するため旅をしている。
俺とアイシャは元々同じ村で暮らしていた。
年が近かった俺たちはいつも一緒にいた。
いつもと同じようにアイシャと牛の世話の手伝いをしたり家の周りを走り回って遊んでいると、王都から国王直属の騎士達が村に訪れた。
彼らは神からの神託を受け、俺を魔王を討つ勇者として迎えに来たという。
俺はアイシャと一緒なら、と騎士達と共に村を出て王都に来た。
それから数年間王都で鍛錬を重ねた俺とアイシャはタンクのドルトン、魔法使いのニーナ、回復魔法に長ける聖女のエリステラを加え、遂に魔王討伐の旅に出た。
旅は順調に進んでいた。互いの長所を活かし連携も上手くできていた。
だが、それがいつまでも続くことはなかった──。
ある日、俺たちは上位の魔物と戦っていた。
上位の魔物と言っても俺たちなら何事もなく倒せるはずの魔物だった。
しかし、俺たちは思わぬ苦戦を強いられていた。
「どけ! アイシャ! タンクの俺の前に出るなッ!」
「アイシャ! そこにいたら魔法が撃てないわ!」
アイシャを中心として連携が取れなくなっていたことが原因だった。
なんとか魔物を倒した俺たちに喜びはなく暗い雰囲気が漂っていた。
「みんな、ごめんね……足引っ張っちゃって……。少し向こうで休んでくるね」
アイシャは泣きそうなのを我慢して無理やり笑みを浮かべていた。
アイシャが俺たちの元を離れると、他の三人が俺の元へ集まって来た。
「なあ、アルゴ。やっぱりアイシャはパーティーから抜けてもらうべきだぜ」
「そうですね、嫌な言い方かもしれませんが正直足手まといになってしまっています。このままでは魔王討伐も難しいです」
「彼女を守りながらじゃあなたの身が保たなくなるわ。自分から抜けられないのなら、もういっそのことパーティーから追放すればいいじゃない」
前からこの話は出ていた。今に始まった事ではない。
旅を始めた頃はアイシャは俺と並び、他の三人を引っ張っていけるだけの実力があった。
だが、旅を続けるにつれドルトン達はどんどん力をつけ、それに対しアイシャの力は伸びなくなっていた。
実力が離れ始めた彼女が原因で次第に連携にも乱れが生じ、それに我慢できなくなった三人は度々俺にアイシャのパーティー脱退を提案してきていた。
「俺ができる限りカバーするから! 頼む、もう少しだけ様子を見よう!」
アイシャに好意を抱いていたというのもあるだろう。だがその前に、旅の合間にもアイシャが朝は早くから夜は遅くまで一人で鍛錬しているのを知っていた。だからこそ、パーティーを脱退させるようなことはできなかった。俺もアイシャの成長を願っていた。
俺はいつも必死でみんなを説得してどうにか納得してもらっていた。
だが、それも限界が近づいていた。旅を続け魔王の元へ近づくにつれて魔物たちの強さも上がっていく。アイシャを庇いながらでは戦いきれなくなっていくのも当然だった。
そして遂に恐れていたことが起こった──。
「アイシャッ! 避けろ!」
俺たちは巨大な竜と対峙していた。
竜の標的になってしまったアイシャに死を運ぶ凶爪が振り下ろされる。
重装備に身を包むドルトンでは間に合わない。
ニーナも高位魔法の詠唱をしていて、援護は望めないだろう。
「くそっ!」
俺は咄嗟にアイシャの前に割って入った。
しかし、タンクでない俺では巨体から繰り出される攻撃を受け止めることはできず、体を深く切り裂かれた。
「ッがぁ!」
「アルゴ……? 大丈夫? アルゴッ!」
「どいてください、アイシャさん! 今から回復魔法をかけます!」
「っち! おい、ニーナ! まだか! おれ一人じゃもう抑えられねぇぞ!」
「もう少しよ! ……いけるわっ!煉獄の業火にその身を焼かれ灰燼に帰せ!《Purgatory Inferno》!」
竜の体が業火に包まれる。竜が燃え尽きた後にはマグマ状になった地面だけが残っていた。
「あ、相変わらずシャレにならねえな……」
「当然よ! それよりも、エリス! アルゴの状態は!」
「危険な状態です! 多少の傷なら即時回復できますが、これほどの傷は回復魔法をかけても気持ち程度の回復と自己治癒力を高めるくらいしか効果がありませんし……何より出血がひどいです。失った血は回復魔法では戻りませんから……」
「ちっ、時間がねえ! 急いで治療院に連れてくぞ!」
「ぐっ……ア……アイシャ……」
「アルゴ! 大丈夫? ごめんね! ごめんねっ!」
「気にすんな……す、すぐ治るさ……無事で……よかっ……た……」
最後に目に映ったのは涙を零して謝るアイシャの姿だった。そのまま俺は意識を失った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
左手に温かさと柔らかさを感じて目を覚ますと、俺の手を握ったままアイシャがベッドの脇で眠っていた。
「ん……うーん……アルゴ! 目が覚めたんだね! ……ぐすっ……よかっ……う、うぅ、ぐすっ、よかったぁ……」
ぽろぽろと涙を零し始め、終いには号泣しだしたアイシャが俺に抱きつく。
「うぇぇ、よがっだぁ……死んじゃうかと思ったよぉ……」
「泣くなって。大丈夫。死んだりしないから」
号泣するアイシャの背中をぽんぽんと軽く叩きながらなだめる。
ようやくアイシャが落ち着きを取り戻した頃。
「あー……その、お取り込み中悪いんだが……」
「「うわあっ!」」
抱き合ったままだった俺たちは突然の声に驚き急いで離れた。泣き止んだアイシャの顔は羞恥で真っ赤だった。きっと俺の顔も真っ赤になっているだろう。
「な、なんだよドルトン。もうちょっと空気を読んで──」
「国王から勅令が届いた。アルゴ、お前宛だ。アイシャ、悪いが席を外してくれ」
さっきまでの気持ちはどこかへ飛んだ。このタイミングでの勅令。アイシャに席を外せと言ったことからもわかる。おそらくアイシャの処遇についてだ。
彼女もそれを察したのだろう。
「わ、わたし、外に出てるからっ……」
アイシャが出ていった部屋を静寂が包む。
「……それは受け取らなきゃダメか? もうこんなヘマは──」
「お前は勇者だろう。何よりもまず世界を救う使命がある。この使命は世界にとって、アイツよりもずっと大事なことだ」
「ぐっ……それは……。……わかった。手紙を見せてくれ」
俺はドルトンから手紙を受け取り封を開ける。
手紙の一行目には、
『同行者アイシャを追放せよ───』
俺はそれを見た瞬間手紙を握りつぶした。
「……お前の気持ちもわかる。だが、俺たちは世界のために戦わなきゃいけない。この先は戦いが激しくなる。何よりアイツ自身に危険が及ぶ。これ以上は無理だ。……もし、お前が切り出せないなら俺から伝えといてやる」
ドルトンの言う通りこれからは厳しい戦いが待っている。また、こんな事があっては彼女の身が危ない。彼女を危険な目に合わせるわけにはいかない。
「いや……いい。俺が連れてきたんだ。最後は……俺が言うよ」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
俺とアイシャは二人きりで宿の一室にいた。他の三人には席を外してもらった。
外から朝の街全体を包む喧騒が聞こえてくる。
「アイシャ、悪いがこのパーティーから……パーティーから……」
その先が告げられない。口が縫いとめられてしまったかのように。
それでも彼女は何も言わない。ただ、おれが続きを話すのを静かに待っている。
おれは意を決して話した。
「……このパーティーから……抜けてくれ」
「……うん……わかった。……今までごめんね。迷惑ばっかかけちゃって。いつも……助けてくれてありがとう。こんなときに言うことじゃないのかもしれないけど、一緒に旅ができて嬉しかったっ。……本当は……本当はもっと……一緒に居たかった。……なんて言っちゃダメだよね。これ以上は迷惑かけられないもん。これから先もみんなで頑張ってね。無事を祈ってるから。……今までありがとう」
視線を上げてアイシャの顔を見た。
彼女は目に溜めた涙を零すまいと明らかに無理して笑っていた。
俺はこのとき初めて、最近のアイシャが無理して笑ってばかりだったことに気がついた。
心臓を握り潰される思いがした。
「……ドルトンたち待ってるんでしょ? わたし、まだ荷物まとめてないからさ……先に行って……」
嘘だ。
俺たちは基本的に普段から荷物をまとめておくようにしている。いつでも出られるようにするために。
俺がどうするべきか迷っていると、アイシャが部屋の扉を開けて俺の方を向いた。
「ほら、旅の遅れを取り戻すんだから。早く行かなきゃ。……アルゴとはここでお別れだね」
アイシャがここまで言っているのに、追放を言い渡した俺がいつまでもここに留まることはできない。
おれは彼女の言葉通り先に部屋を出た。
ドルトンたちの元へ行こうと重い足を引きずり廊下を歩いていると、後ろから微かに声が聞こえてきた。
「う、うぅ……ぐすっ、うわああぁっ! アルゴ……アルゴぉ……」
それはアイシャの泣き声だった。ずっと我慢していたのだろう。
俺は今すぐアイシャの元へ戻って、抱きしめたかった。
一緒に行こう、と言ってやりたかった。
だが、戻ることはできない。俺は勇者だ。魔王を討伐しなければいけない。
今は勇者という肩書きが俺を縛る呪いに思えた──。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
未だ晴れぬ俺の気持ちとは裏腹に四人となった俺たちの旅はこれまでと段違いの早さで進んでいき、あれから一年が経った。
我ながら女々しいことだが、今でもあの時のことを引きずっている。最近では夢まで見るようになった。悪夢だ。
夢の中でアイシャが知らぬ男と結婚し、子供も出来、明るい家庭を築いているのである。
現実にアイシャは幸せな家庭を築いているかもしれない。だが、俺にはどうしようもない。
たとえ今もアイシャのことが好きでも。
旅は厳しさを増していたがそんなことは関係なかった。
俺はこのどうにもならない気持ちを剣に乗せ、魔物たちを次々と斬り伏せていった。
魔物を、魔王を倒すこと以外何もなくなった俺はただひたすらに戦い続け、前とは比べ物にならない力をつけていた。
そして、とうとう魔王の元へたどり着いた。
が、
「フハハハハッ! よく来た勇者よ! 我こそは大魔王ゾーm……ギャアアァァアッ……」
瞬殺である。
これだけの強さがあればアイシャを追放しなくても、と考えたがそれは無理だと思い直した。
アイシャを追放し何もなくなってしまったからこそ、ここまで強くなれたのだから。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
俺は国王からの叙勲や褒美の話をシカト……もといドルトン達三人に感謝の念と共に押し付けて故郷の村へと帰った。
ずっと付いてきてくれた三人には本当に感謝している。
ただ、端的に言って疲れていた。今は何も考えずに休みたかったんだ。
長い間離れていた両親に親孝行しながらゆっくりと過ごそうと考えていた。
久しぶりに帰った村は変わらず、のどかで俺をを安心させてくれた。
「アルゴ! 帰ったのか! よくやってくれたなあ。お前は村の誇りだ!」
「おや、アルゴじゃないか! 男前になったわねぇ! うちの娘を嫁に貰ってくれると嬉しいんだけどねぇ。って、アルゴにはちゃんと相手がいるんだったね」
「ははっ、何言ってんだよ。俺には相手なんていないよ」
その後も俺が通るたびに懐かしい人たちが次々と俺に声をかけてくれる。
しばらく歩き俺の家までたどり着いた。
旅の間は帰る暇なんてなかった。やっと帰ってきたと思うと、感慨深いものがあった。
おれは一つ息を吐いてからドアを開けた。
「父さん、母さん! ただいま!」
「アルゴ! お帰り!」
「お帰りなさい。アルゴ、今までよく頑張ったわね」
父さんと母さんは笑顔で迎えてくれた。
「そうだわ! アルゴ、ちょっと待ってて!」
母さんが何やら嬉しそうに外へと駆けていった。
しばらくして母さんが誰かを連れて戻って来た。
「わわっ、ちょ、ちょっと! おばさんそんなに急いでどうしたの?」
俺はその声を聞いて夢かと思った。
それは聞きなれた声で、一番聞きたかった声で。
あんな別れ方をしたんだ。もう会えないかもしれないと思っていた。
「……アイシャ?」
「え……?アルゴ……なの?」
お互い呆然として立ち尽くした。
先に我に返ったのはアイシャだった。
うちの畑で野菜を採っていたのだろう。手に持っていた籠も落とし、いつかのように号泣しながら俺に抱きついてきた。
「アルゴっ! おか……ぐすっ、おがえりぃ……うえぇ……あいだがったよぉ……」
「……ただいま、アイシャ」
それからしばらく泣き続けるアイシャを俺はひたすらなだめた。
空気を読んだつもりなのだろう、父さんと母さんは気づいたら居なくなっていた。
ようやく泣き止んだアイシャはあの時のことを思い出したのか俺から僅かに距離をとった。
落ち着いた俺たちの間をなんとも言えない空気が漂う。
俺は覚悟を決めてずっと気になっていたことを聞いた。
「なあ、誰かと……結婚……したのか……?」
「え? ……ええっ? してないよ! してないしてない! ……そ、そもそも結婚する相手なんていないし……」
「そ、そっか……」
再び俺たちの間を微妙な空気が漂う。
「「なあ!(ねえ!)」」
「「え?」」
「ア、アイシャからどうぞ」
「ア、アルゴこそ先に話していいよ!」
「「……」」
「……じゃ、じゃあ、俺から話すぞ。あー……その、なんだ……俺と……この先一緒にいてほしい」
「え……? それって、どーゆう……」
「だ、だから、俺と……俺と結婚してくれっ!」
遂に言った。
言ってしまった。
もう後には引けない、一世一代の大勝負。
魔王と対峙した時よりも緊張する……。
というか、魔王と戦った時は緊張する暇もなかったんだった。あはは。
……ん? あれ?
……返事がない。ただのしかばねのようだ。
「あの……アイシャさんや?」
「うぅ……ひっぐ、ぐすっ……」
……泣いていた。
「えっ、ちょっ、なんで泣いて……」
「ぐすっ、う、嬉しくて……わたしも同じこと言おうとしてたからぁ……それをアルゴが言ってくれたから、それで……」
俺は一人でいろいろ悩んでいた。
けど、アイシャはずっと俺のことを待ってくれていた。おれにとってこれほど嬉しいことはなかった。
「な、なんだか締まらないなあ。よし、もう一度言うぞ」
「……アイシャ、俺と結婚してくれ!」
「はいっ」
そこには満開の笑顔を咲かせたアイシャがいた──。
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