19 そして……あの声が聞こえた
『19 そして……あの声が聞こえた』
年が明けて、成人式の日、メンバー最年長の堀部八重さんが卒業した。
突然の卒業宣言に驚いたけど、八重さんの卒業の言葉で、あたしの人生が変わった。
「KGR46も、もう八年目になります。わたしは二十歳で第一期生になり、もう、今年の春には二十八になります。古いといわれるかもしれませんが、KGRとして、みなさんに夢をお届けするには、少し歳をとってしまったかな……メンバーもそれなりに歳を重ねて、少し大人びた表現をすることも多くなってきました。あ、みんながババアになったって意味じゃありませんので、怒るなよナミミ(KGRのリーダー)ナミミは永遠の少女だよ……て言ったら、今度は泣くだろ。勘弁してよ。わたしは、次のステップにすすみます。一人のアーティストとしてがんばります……で、わたしの後釜のポジションを指名していきます。あとは、チームRの渡辺美優に任せたいと思います!」
一瞬の静寂の後、会場いっぱいの拍手。あたしは実感のないまま、メンバーに背中を押されて八重さんと並んだ。
「美優は、わたしが見込んだんだから、しっかり頼むわよ!」
そういってハグされてやっと八重さんと、そのポジションの重さ。そして、あたしに託された思いが伝わって、涙が溢れてきた。
あたしは、この数ヶ月で、進二(だったと思う)から、美優という演劇部の女子高生になり、県の中央大会で、最優秀をとり、KGRのオーディションに受かってしまい、とうとう八重さんの後釜に指名された。まるでおとぎ話。
高校演劇の関東大会は、急遽武道館に会場が変更された。予定していたS県のホールでは観客が収まらなくなったからだ。
予選のときは、ただの女子部員だったけど、今は、KGRの選抜メンバーだ。で、実行委員長の先生から、こう言われた。
「悪いけど、渡辺さんはプロなので、審査対象から外します」
「は……それは、仕方ないことですね(^_^;)」
「で、君の受売高校の作品は『ダウンロ-ド』……一人芝居だ。で、上演作品そのものを外さなければならない、分かってくれるね。受売の替わりには県で優秀賞をとったM高校に出てもらう」
承知せざるを得なかった。
最初と終わりにKGRの選抜メンバーによるパフォーマンスをやった。そうしないと、観客の九割が受売高校だけを見て帰ってしまうからだ。
会場費は放送局が負担した。そのかわり放映権を獲得し、半分以上あたしの『ダウンロード』に尺を費やした。事実上の渡辺美優の『ダウンロード』と、KGRのライブみたいになった。
なんだか申し訳ない気がしたけど、運営の先生方も気を遣ってくださり、貢献賞という例年にない賞を臨時に作ってくださった。
そして……それが事実上の高校生活の終わりになった。
県立の受売高校では、とても必要な出席日数をこなせず。三年からは芸能人が多く通うH高校に転校して、芸能活動との両立をはかった。
「オレのことなんか、直ぐに忘れてしまうかもしれないけど……これ、受け取ってくれ」
健介が、制服の第二ボタンを外して、あたしにくれた。あたしはカバンで隠してそれを受け取った。どこでスクープされるか分からないからね。
健介は、いろいろ芸能記者や、週刊誌の記者に聞かれたようだけど、第二ボタンの件も含め、ネタになりそうなことは、いっさい喋らなかった。
そして……。
あたしのKGRの活動は、八重さんと同じ二十八才まで続け、卒業した。
卒業し、ピンでの仕事も順調だった。二十九で大河ドラマの主役もやって、主演映画を含め四本の映画に出て、どうやら、女優として生きていくんだ。そう自覚したとき病気になった。
見かけには、あまり変化がないんだけど、内臓が急速に衰えていくという難病。
まるでオーバーヒートしたみたいだと主治医の先生は腕を組んだ。
先生は、医者として原因も有効な治療もできないことを申し訳なく思ってくださった。
でも、なんとなく分かった。
美優としての人生を生き急ぎ過ぎたんだ。
二年間治療しながら、仕事もこなした。
そして……あの声が聞こえた。
「あなたは、二人分の人生と、その運命を背負ってきたの。進二と美優。だから、人生を半分ずつにしなければならなかった。よくがんばったわね」
――受売の神さま……?――
「ごめんね、いろんな思いを背負わせてしまったわ……」
――美優……わたしの名前……――
「おやすみなさい……つぎに目が覚めたら……」
――つぎ……に……――
「教えてあげる……」
――……そう……なんだ――
メタモルフォーゼ第一期……完