表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メタモルフォーゼ  作者: 大橋むつお
18/19

18 進二……だれ、それ?

『18 進二……だれ、それ?』        



 あ、そうだ!?


 カオルさんのお葬式の帰り道、思い出してしまった!


 年末には、お父さんもお兄ちゃんも帰ってくる。あたしが女子になったこと、まだ知らない。

 あたしは、もう99%美優になってしまっていて、バカみたいだけどメタモルフォーゼしてから、ちっとも思い至らなかった。


「どうしよう、お母さん。年末には、お父さんも、お兄ちゃんも帰ってくるよ」


「そうよ、近頃は盆と正月だけになっちゃったもんね、楽しみね。でも男なんか三日も一緒に居たらヤになっちゃうだろうな」

「いや、だから……」

「いまや、美優もKGR46のメンバーなんだからさ。胸張ってりゃいいのよ」

「だって、お母さん……進二は?」


「進二…………だれ、それ?」


「あ、あの……」


 あたしは一人称として「ぼく」とは言えなくなってしまっていたので、自分の顔を指した。

「美優……知ってたの……あなたが男の子だったら、その名前になってたこと。うちは女が三人続いたから、最後は男で締めくくろうって思ってたんだけどね。麗美は小さくて分かってなかったけど、留美と美麗は『おちんちんが無いよ!』ってむくれてたわよ」

「あたし、最初っから美優……」

「そうよ、それよりゴマメ炒るの手伝って。お母さんお煮染めしあげなきゃなんないから」

「ダメよ、紅白の練習とかあるし」

「え、美優、紅白出るの!?」

 仕事納めから帰ってきた留美ネエが、耳ざとく玄関で叫んだ。

「うん、三列目だけど……あ、もう行かなくっちゃ!」


 深夜にレッスンから帰ってきて、自分の持ち物を探してみた。


 そこには進二であったころの痕跡は一つも無かった。CDに収まっているはずの進二時代の写真も無かった。

「どういうこと、これ……」

「そういうこと……」

 レミネエが寝言とオナラを同時にカマした。


 二十九日からは、それどころじゃ無くなってきた。レコ大(レコード大賞)と紅白への追い込みが激烈になってきたのだ。

 レコ大は大賞こそAKBに持って行かれたけど、KGRも「最優秀歌唱賞」を獲得。その晩タクシーで家に帰ると……。

「美優、おめでとう! しばらく見ないうちに、ほんとにアイドルらしくなったなあ!」

 お父さんが、赤い顔でハグしてきた。お酒臭さがたまんなかったけど……。

「ごめん、あした紅白。ちょっと寝かせて……」

「おお、そうしろそうしろ」

 進一兄ちゃんが、これまた酒臭い顔で寄ってくる。

「悪いけど、お風呂まで付いてこないでくれる!」

「明日起きたら、サインとかしてくれる?」

 あたしは無言でお風呂に入り、鼻の下までお湯に漬かって考えた。


 いや、考えるのを止めた。


 どうやら、あたしを取り巻く環境ごとメタモルフォーゼしてしまったようだ……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ