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メタモルフォーゼ  作者: 大橋むつお
16/19

16 美優、好きだ……!


『16 美優、好きだ……!』        





 火事場のバカ力だと思った!


 歌も、ダンスも、自己アピールもガンガンできた。

 なんたって、ほんの一分前までは、自分はただの付き添いだと思っていた。

 それが、だまし討ち。あたしも受けることになっていたとは、爪の先ほども思っていなかった。


―― 一人だと、とても受ける勇気がでなくって ――


 あとで、ミキが呟いた言い訳。言われなくても試験会場に入る前の、ミキのゴメンナサイで分かってしまった。

 で、受験生五人が並ぶと、やっぱ張り切ってしまう。美優が……って、自分自身のことだけど、こんなに張り切っちゃう子だとは思わなかった。

 コンクールは、学校の看板をしょっていた。直前にS高のAたちに道具を壊された悔しさがバネになってもいた。

 でも、この神楽坂46のオーディションは、ミキにハメラレたということはあるけど、しょっている物も、悔しさもない。ただ自然に湧いてくる「負けられるか根性」だけ。

「25番の人。アピールするところは?」

「あ、負けられるかって根性です。競争には勝たなきゃ。根拠ないですけど」

 我ながら、正直な答え。でも、やっぱ火事場のバカ力のガンガンだから、ダメだとは思った。


「ごめんね、美優、言わなくって……!」


 会場を出たとたんに、ミキが抱きついてきた。

「いいよ、いいよ、でもよく決心したね……」

 なんだか前田敦子の卒業宣言のあとの大島優子との感動シーンのようになってしまった。

「美優道連れにしてでも、受かりたかったの。美優すごかったよ! うかったら、いっしょにやろうね!」


「うん!」


 元気に返事したのが良くなかった……オーディションに受かってしまった!


 そして、ネットや、マスコミで流れたので、学校では大騒ぎになった。なんちゅうーか……演劇部のときよりもすごいお祭り騒ぎになってしまった。

 地元の新聞社、ローカルテレビ、受売商店街のミニコミ誌も、受売神社とコラボで町おこしの種にして神社の宮司さんを連れてやってきた。


「日本各地に、受売命ウズメノミコトを祀った神社がありますが、うちは年回りもあるんでしょうか、ことのほか霊験あらたかなようです」

 

 宮司さんは鷹揚にに答えた。


 ま、確かに、あたしを進二から美優にしたのにも、ここの神さまがいっちょう噛んでるよーな気もするし、コンクールも次々に最優秀を取らせてくれた。


 テレビ局の演出で、出演者のタレントさんといっしょに神社にお参りに行った。


――ねえ、神さま。これって、いったいなんなんですか?――


 あたしはダメモトで、柏手打ちながら、神さまに聞いた。


――美優 そなたは人の倍の運……を持って生まれてきた。心して生きよ――


 思わぬ声が頭に響いた。三度目なので、声に出して驚くことは無かったけど、表情に出た。


「あ、美優ちゃん、なにかビビッと来たのかな!?」

 MCのお笑いさんが、すかさず聞いてきた。

「あ、なんだか、その頑張りなさいって……聞こえたような」

 で、ごまかしておいた。

 運のあとに間が空いたのが気になった。でも、言わなかった。だって、思わせぶりすぎるもん!


 その日の帰りは夕方になった。テレビのロケ隊も来てるし、あたしのことを知ってる人も居そうだったので、久方ぶりに家まで歩くことにした。


「あ、美優」


 旧集落のあたりを歩いていたら、後ろから声を掛けられた。この声の主は剣持健介だ。


「こないだのDVDありがとうございました」

「そんな改まるなよ、ただでも、今日の美優は声掛けづらかったんだから」

「え、そんな……」

「取り巻きいっぱいいるしさ、なんだか、美優のオーラが、すごくなっていくんだもんな……声かけようと思って、こんなとこまで……俺も気が小さい」

「え、神社から、ず……」

「あ、聞こえにくいんだけど」

 あたしは、顔隠しのマスクをしているのに気がついた。急いで、マスク取ると、溜まっていた息が口からホンワカ出てきて健介の顔にもろに被ってしまった。

 健介の顔が真剣になった……なによ、このマジさは……。


「美優、好きだ……!」


 のしかかるようにハグされ、唇が重なってしまった。数秒そのままで、健介は離れた。


「ごめん……」

「謝るぐらいなら、こんなことしないで……」

「帰り道危ないから……送っていくよ」

「もう、危ない目に遭っちゃったけど」

「いや、もっと危ない奴もいるかもな」


 お尻タッチのオッサンのことを思い出して、おかしくなった。


 あたしは、唇が重なっても、それほどにはときめかなかった。


 心のどこかが、まだ女子に成りきっていないのか、神さまの「運……」が、ひっかかっているのか。


 満月と、宵の明星が、そんなあたしの何かを暗示するように輝いていた……。




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