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メタモルフォーゼ  作者: 大橋むつお
14/19

14 倉持健介先輩の家は洋食屋さん

メタモルフォーゼ・14・試食会




「中央大会のビデオ、You tubeに流してもいいかな……」


 これが始まりだった。

 特に断る理由もないし、実際よく撮れていて、単なる上演記録というのではなく、映像作品になっていた。

 でも、それだけが理由じゃない。今や、あたしの心の核になってしまった美優には、よく分かっていた。


 思った通り、こう出てきた。


「今度、店のメニューの一新をするんで、試食に来ないか。自分で言うのもなんだけど、けっこういけるよ」


 そう、倉持健介の家は洋食屋さんで、食べ物屋が少ない街では、割に名前の通った店だ。試食会なら、相手に負担させるお金も気持ちも軽い。うまいアプローチの仕方だと思った。


 さすがに、大正時代から続く洋食屋さんで、何を食べてもおいしかった。

 進二だったころは、食べ物に執着心はなかった。お母さんの水準以下の料理でも満足していた。

 でも、女子になってしまうと、俄然食べ物にうるさくなってきて、すぐ上のレミネエとプータレこともしばしば。

 それで、姉妹で料理を動画サイトとかで研究、お母さんも触発されて美味しいものを作るようになった。渡辺姉妹の女子力のすごさを認識。

「家で、こんなの食べてたら、学校の食堂なんて食べられないでしょ?」

「食堂なんて、デカイ物はたべられないよ」

「アハハ、座布団一枚!」

 進二だったころは、この程度のギャグでは笑わなかった。美優になってから、よく笑う。この反応の良さがクラスのベッピン組のミキたちが友だちにしてくれている理由だと思った。

 でも、相手が男子の場合は、注意しないと間違ったメッセージを送ることになる。かといって、ツンツンもしていられない。どうも美優というのは人あしらいがうまいようだ。


 お店の料理は、革命的に美味しくなったお家料理の何倍も美味しい。

 あちこちに話しが飛ぶ。これも女子になったからかなあ? 進二の感覚ならウザいだけだろうとか思う。思うんだけど、起きて直ぐに夢を忘れるように美優の感覚に支配される。


 そうこうしているうちにスライドショーが始まった。


 お店の90年に近い歴史が要領よくまとめられ、ナレーターも倉持先輩自身がやって、二十人ほどの身内とお得意さん達を感動させた。

「こうして、この店は、兄、健太が四代目の店主になることになりました」

 暖かい拍手が起こる。同時に『ボクは気軽な次男坊』とアピールしているように取るのは、気の回しすぎだろうか……と、思っていたら、それは唐突に始まった。


『ダウンロード』受売うずめ高校演劇部 主演:渡辺美優


 中央大会の作品が5分ほどにまとめられ、画質がいいので部分的には、かなりのアップもあり、コマワリもよく、実際よりも数段上手く見えた。

「この芝居の主演をやったのが、ボクの横にいる渡辺美優さんです」

 前に増した拍手が起こった。


「あんなサプライズがあるなんて、思いもよらなかった(^_^;)」

 健介は、駅まで送ってくれた。

「ああいう演出も、勉強のうち。それに美優は咲き始めた花だ。見てもらうことで、もっと伸びるし、きれいにもなる」

「きれい、あたしが?」

「うん、ミテクレだけじゃない。内面……ほら、今みたいに、驚いたことや嬉しいことに素直で敏感に反応する。居るようで居ないよ。そういうのって、ボクは好きだ。今日はありがとう。良い勉強になった」

「勉強だけ?」


 なんてこと言うんだ!?


「美優に喜んでもらって、とっても嬉しい。美優は、そのままでもステキだけど、驚いたり喜んだりしたとき……その……」

「ありがとう。そんな風に言ってもらえたのは初めて(なんせ進二だったころは影が薄かった)」

 だめだ、雰囲気作っちゃ……と思っても、自然に反応してしまう。

「じゃ、これからもよろしくな」

 駅の改札前で手を出され、自然な握手になった。

「あ、うん。ほんとう、今日はありがとう」


 かろうじて、無難な挨拶を返して改札を潜った。背中の視線に耐えられずに振り返ると、健介が笑顔で手を振った。反射的に、健介と同じくらいの笑顔で小さく手を振る。

 ホームの鏡で顔を見ると、ポッと上気して頬が赤らんでいる。


 なんだ、この反応は。絶対健介は誤解する。美優がとても性悪に思えてきた。あたしは、いったいどこへ行ってしまうんだろう……。


 そして、家へ帰ってお風呂に入る。


「美優、なにかいいことあったでしょう?」

 ミレネエが、入れ違いに言った。姉ながら、女の感覚は怖ろしいと思った。


 寝る前に、メールのチェック。

――明日、大事な相談したいの。放課後よろしく。他の人には言わないでね――


 デコメも何にもない、ぶっきらぼうにさえ見えるそれは、ミキからだった……。


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