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メタモルフォーゼ  作者: 大橋むつお
13/19

13 祝県中央大会優勝!

『13 祝県中央大会優勝!』



 信じられない話だけど、中央大会でも最優秀になっちゃった!


 本番は、予選の一週間後で、稽古は勘を忘れない程度に軽く流すだけにしていた。それでも、クラスのみんなや、友だちは気を遣ってくれて、稽古に集中できるようにしてくれた。


 祝勝会は拡大した……って、ややオヤジギャグ。だってシュクショウでカクダイ。分かんない人はいいです(笑)


 校長先生が感激して、会議室を貸してくださり、紅白の幕に『祝県中央大会優勝!』の横断幕。

 学食のオッチャンも奮発してビュッフェ形式で、見た目にも豪華なお料理がずらり。よく見ると、お昼のランチの揚げ物や唐揚げが主体。業務用の冷凍物だということは食堂裏の空き箱で生徒には常識。

 でも、こうやって大皿にデコレーションされて並んじゃうと雰囲気~!


「本校は、開校以来、県レベルでの優勝がありませんでした。それが、このように演劇部によってもたらされたのは、まことに学校の栄誉であり、他の生徒に及ぼす好影響大なるものが……」

 校長先生の長ったらしい挨拶の最中に、ひそひそ話が聞こえてきた。

「あの犯人、みんな家裁送りだって……」

「知ってる。S高のAなんか、こないだのハーパンの件もあるから、少年院確定だってさ」

「どうなるんだろうね、うちの中本なんか?」


 中本は、ちょっとカワイソウな気もした。もとはあたしのことに興味を持ってスマホに撮った。好意をもって見ているのは動画を見ても分かったし。道具を壊したのもAに言われて断れなかったんだろう……って、なんで同情してんだろ。あの時は死んでも許さない気持ちだったのに。


 これが、女心とナントカなんだろうか。あたしも県でトップになって余裕なのかな……そこで、会議室の電話が鳴り、校長先生のスピーチも、ひそひそ話も止まってしまった。


「マスコミだったら、ボクが出るから」


 電話に駆け寄った秋元先生の背中に、校長先生が言った。

「はい、会議室です。外線……はい、校長先生に替わります」

 会議室に喜びの緊張が走る。

「はい、校長ですが……」

 校長先生がよそ行きの声を出した。

「……なんだ、おまえか。今夜は演劇部の祝勝会なんだ、晩飯はいらん。何年オレのカミさんしてんだ!」

 そう言って、校長先生は電話を切ってしまった。

「校長先生、県レベルじゃ取材は無いと思います」

「だって、野球なら、地方版のトップに出るよ!」

「は……演劇部ってのは、なんというか、そういうもんなんです」


 祝勝会が、お通夜のようになってしまった。なんとかしなくっちゃ。


「大丈夫です、校長先生、みんなも。全国大会で最優秀獲ったら、新聞もテレビも来ます。NHKだってBSだけど全国ネットで中継してくれます!」

「そうだ、そうよ。美優なら獲れるわよ。みんな、それまでに女を磨いておきましょ!」

「男もな!」

 ミキが景気をつけてくれて、それを受けて盛り上げたのは……学校一イケメンの倉持先輩だった。


「あの……これ、予選と中央大会のDVD。おれ、放送関係志望だから、そこそこ上手く撮れてると思う。みんなの前じゃ渡しづらくってさ。関東大会の、いや全国大会の参考にしてくれよ」

 倉持先輩が、下足室を出て一人になったところで、声をかけてきた。

「あ、あ……どうもありがとうございました!」

「いいって、いいって、美優……渡辺、才能あると思うよ。じゃあ」

 あたしは、倉持先輩が、校門のところで振り返るような気がして、そのまま見ていた。

 振り返った先輩。あたしはとびきりの笑顔で手を振った。


 好き……というんじゃなくて、あたしの中の女子が、そうしろと言っていた。


「恋愛成就もやっとるからね、うちの神社は……」

 突っ立っていたあたしを追い越しながら、受売神社の神主さんが呟いた。そのあとを普段着の巫女さんがウィンクしていった。


 あたしは真っ赤になった。でも、好きとか、そういう気持ちではなかった。


 そういう反応をする自分にドギマギしている別の自分が居るんだ……。


 つづく 



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