不釣り合いな超能力
トップバッターは黄城晃菜です
これから、青井友哉サイドで書き進めていきます(*^^*)
秋晴れの空を見上げながら、俺は学校に向かっていた。
9月の始めだからまだ昼間は暑いものの、朝の空気は気持ちいい。
高校に入学して5カ月。
授業にも部活にもこの通学路にも慣れてきたところだ。
大きな道路沿いを歩きながら、ここの街路樹が紅葉するのはもう少し先だろうかなんて思ってみる。
ふと目の端で白いものが素早く動いた。
はっと目を向けると、一匹の野良猫が道路を横切ろうと飛び出している。
しかし、そこに大型トラックが・・・
「危ないっ!」
俺はとっさに猫に向かって手を伸ばしていた。
ふわり、と猫がその場で浮き上がる。
浮き上がった猫の鼻先すれすれをトラックがごぉんと通過していった。
我に返って、俺は慌てて手を下ろす。
「使っちゃった・・・」
思わず自分の手を見て呟いてしまう。
それからはっとあたりを素早く見渡したが、自分に注目している人はいない。
とりあえずほっとしながら、複雑な思いにとらわれた。
俺は、俗にいう「超能力者」だ。
でもみんなが思うほどすごいことが出来るわけじゃない。
ほんの少しの間、ものを浮かせるっていうのが俺の能力。
自分で言うのもなんだが、なんとも地味な能力だ。
普通超能力って言ったら、瞬間移動だの未来予知だのを思い浮かべる人は多いと思うし、世間一般人が欲しいと思うのもそれらだろう。
しかも連続でこの能力を使うと、とてつもない疲労に襲われる。
まわりの人は持ってない、この超能力を自分は持っていることに気付いたのは5歳くらいだ。
テレビ番組の超能力特集で、おじさんがトランプのカードをふわりと浮かせるのを見て、タレントやテレビを一緒に見ていた家族がきゃあきゃあ騒いでいた。
え、これぼくもできるよ?って思ったけど、どうやら自分は少数派らしいということが次第にわかってきた。
でも自分にとって能力があることが普通だった。
能力のことを誰かに話したことはないし、あまり使わないようにしている。
特にある出来事以来。
俺は中学からずっとバレー部に所属している。
俺を変えたのは中学3年の引退試合。
相手はこの地区ではなかなか強い学校だったが、俺たちも奮闘し、第1セットと第3セットは奪われたが、第2セットと第4セットは取り返していた。
第5セットは14‐15で相手に1点リードされていた。
あと1点入れられたら負ける。
相手が打ち込んできたボールがコートの右後ろ、誰もいない位置に吸い込まれていく。
バックライトを守っていた仲間が必死に手を伸ばすが、多分間に合わない。
「負けたくない」
この思いが俺を突き動かし、フロントレフトにいた俺はボールに手を伸ばした。
ボールは一瞬浮き上がり、その下にスライディングした仲間の手が入って、ボールは上に飛ぶ。
「ナイス!」
そしてそのボールを別の仲間が相手コートに叩き込んだ。
15‐15。
最後の力を振り絞り、連続でもう1点取った俺たちは勝利を収めた。
試合終了の合図が鳴り、俺たちは歓声を上げて走り寄り、特にバックライトの健闘をたたえた。
満面の笑みを浮かべる仲間たちを見て、俺も心底嬉しかったが、だんだんと罪悪感が広がってきた。
俺は何をしたんだ?
自分の特殊能力を使うなんて、ずるじゃないのか?
もしかしたら、正々堂々と戦って負けた方がまだよかったんじゃないか?
負けて、泣かないように歯を食いしばっている相手チームを見て、ますます胸が痛む。
こんな能力さえなければ、こんな悩みなんて抱えなくて済むのに。
自分の能力も、感情に揺さぶられて能力を使ってしまう自分も、罪悪感に苦しむ自分も、全部嫌になった。
高校でもバレーを続けるかどうかは悩んだが、もっと強くなって能力に頼らず、仲間と一緒に正々堂々戦いたい、という思いで再びバレー部を選んだ。
それからずっと、部活ではもちろん、日常生活でも能力は使わないようにしてきた。
久しぶりに能力を使ってしまったことで、嫌な過去を思い出いながら登校し、席につく。
「友哉、おっす」
同じバレー部で同じクラス(ついでに今は隣の席)の亘が教室に入ってきた。
「おう、亘」
「お前、今日日直だろ? さっき先生に会ってさー、まだ今日の日直が学級日誌取りに来てないから渡しといて、って」
「あ、ごめん、さんきゅ」
「どーしたよ? 今日は元気ないんか?」
「なんでもねーよ、ちょい眠かっただけ」
それから亘とたわいない会話をしていると気分が紛れてくる。
そうだよ、俺は人助け、じゃなくて猫助けをしたんだ。
だってあのままだと、あの猫・・・うん、考えたくない。
なんて無理やり自分を納得させようとしてみる。
「あ、そいでさー、今日の・・・」
亘が何か話そうとしたとき、
教室の扉が勢いよく開かれ、バタバタと女子が駆け込んできた。
「ギリギリセーフ!」
どさっと自分の席に荷物を置きながらニカッと笑う。
「春岡かよ、朝から元気だなぁ、友哉、分けてもらえよ」
亘が笑いながら言った。
春岡一華はクラスで一番活発な女子だ。
遅刻の常習犯だが、今日は間に合ったらしい。
「ついでにお前、今日の日直、春岡と一緒だな」
「あ、ほんとだ」
「青井くんっ!」
「わっ!」
いつの間にか春岡さんがずんっと俺の目の前に立っていた。
「今日の日誌、とってきてくれた?」
「う、うん、あるよ」
「さすがっ、ありがとー! わわ、先生来たっ」
「持ってきたの俺なんだけど」という亘の言葉をかき消し、またバタバタと席に戻っていく。
この元気すぎる春岡さんにはいつも気圧されてしまう。
「お前、そのまま日誌渡して書かせりゃいいのに・・・。多分、1時間後には日直のこと忘れて、黒板消しとかお前が全部やることになるぞ?」
「いや、さっきの会話にそれだけの言葉をはさむ隙はなかったよ。それに日誌書くのも忘れられたら困るし」
「もー、まったく友哉はー」
ふと、思った。
もし、俺が春岡さんみたいな性格だったら。
考えるのは、あの試合。
感情で行動する彼女なら、もちろん俺と同じようにあの場面で能力を使うだろう。
でも、そのあとがきっと違う。
「勝ってよかったーっ」、って笑い、
「超能力だって実力のうちよ! 恨むなら私が敵チームにいたことを恨むのね!」なんて考えそうだ。
ここまですがすがしいほど開き直れる人じゃないと超能力なんて釣り合わないよな。
春岡さんの、短く結んだ髪の毛を見ながら、そんなことを考えていた。
第2話は管野緑茶さん、お願いね!