「恋って何なのかしら」
【星空を見上げるウサギたちの絵はがきに、丁寧ではあるけれど下書きを消し忘れた文字で文章は綴られている】
グーズ姉さんへ
ミルキーウェイで書いています。先日のお手紙で誤解が解けたようで何よりです。クランが何を言ったのかは知らないけれど、あの子はいつも大袈裟なのであまり本気にしないでくださいね。
それはそうと、先日のお手紙で書き忘れたのですが、ブラック兄さんに関するお話をいくつか聞きました。ある劇場の看板娘の踊り子さんによれば、兄さんは各町で由緒ある家柄の二足歩行の動物たちに接触しているみたいです。何が目的かは分からないけれど、怪物探しと一緒に、大昔のドラゴンや勇者様の伝説にまつわる家を訪ねているみたい。怪物退治でも考えているのかしら。
私はこれまで通り、各町で兄さんへの伝言を頼んで回っているのですが、その後、お手紙などは来ましたか?
ところで、踊り子さんと言えば、その人、もうすぐ結婚するそうなのですが、兄さんに片思いをしてしまったみたい。たしかに兄さんは顔だけはよかったって姉さんも言っていたものね。お父さんとはあまり似ていないけれど、お父さんの方のお祖父さんによく似ていたんだっけ。それはともかく、踊り子さんとその恋人がなんだか可哀想です。恋人さんは私の店にも来店して、キュービッドベリーが欲しいって言ってきたんです。そういえば、死んだお祖母ちゃんは若い頃赤毛の魔女と呼ばれていて、惚れ薬を作っては売り捌いていたとしてお役人に怒られたんでしたっけ。もちろん、今の時代だと怒られるどころじゃないので、恋人さんには悪いけれど、売買は慎重に判断しました。だから、安心してください。
それにしても、恋って奇妙だよね。姉さんは恋ってしたことがありますか? 私の記憶の限り、トワイライトには姉さんに釣り合うようなまともな男性がいた覚えがないのだけれど、姉さん本人からそういう話を聞いた覚えもなかった気がします。父さんと母さんはどうやって知り合ったのかは覚えています。旅先で知り合って仲良くなったけれど、父さんがベリー家の男だからって、お祖母ちゃんに猛反対されて、それでも、諦めずに説得したんだって。それで私たちが生まれたのだから、奇跡みたいなものよね。
お祖母ちゃんはどうして反対したのだったかしら。忘れちゃったけれど、今では父さんの悪口なんて一切言わないし、ちょっと迷信深いけれど私たちには優しいから、信じられない話でもあるの。
姉さんもいい人が現れて結婚する日がくるのかしら。そして、私やクランにもいい人が現れるのかな。その頃には、兄さんも一緒にトワイライトの我が家で祝福できたらいいなっていつも思います。……兄さんにも、好きな人とかいるのかな。
おかしいですよね。ミルキーウェイでは、いつもは深く考えないような恋人や結婚のことをつい考えてしまうみたい。町全体が夢や魔法のような世界で、住人のほとんどはウサギ族で、本当にオススメの町だから、母さんがもうちょっと元気になったら、皆でミルキーウェイに行きましょう。その時は、私やクランがオススメの劇場やお店に案内します。
それでは、この辺で。スノーブリッジに着いたらまたお手紙を書きます。
追伸・仕送りはいつも通りです。ミルキーベリーが余ったので同封します。
※ 手紙を書き終わって読み返したラズは、スノーブリッジまで同行するライオネルのことについて一切触れていないことに気づいたが、また変な誤解をされてしまいそうだと判断し、そのまま投函した。




