おいしい恋のレシピ(後編)
「ふう、今日も、疲れた〜」
それにしても、と里佳子は思う。
結局、あの後、「速水もこみち」が席を立った時に顔を確認したが、良く見れば、「速見もこみち」似のただのハンサムだった。
そういうわけで、里佳子は「およそもこみち」の事は忘れ、いつものようにスタバに向かった。
!?
また、いた!!
また、里佳子の指定席に座っている!
イラっ・・・・・
里佳子は、いつものエスプレッソを頼むと、仕方なしに別の席に座った。
もう、別に、「およそもこみち」を確認する必要もないので、ゆったりしたソファー席にした。
次の日。
イライラっ・・・・
またいやがる。
お、およそ、こ、殺す・・・・
それにしても、「およそもこみち」を良く見ると、ため息ばかりついている。
・・・・・営業途中なのかな?
・・・・・いいサボり場所を見つけたと思っているのかな?
と、里佳子は思うと、別にその席譲ってあげてもいいかな?とも思った。私は、ただ帰る途中だし、とも。
そのまた、次の日。
今日は「およそもこみち」は、その席にいなかった。
里佳子は、やっぱこの席安らぐなぁ〜と思いながら、いつもの人間観察を楽しんでいた。
!?
「およそもこみち!?」
あの男が、スタバに向かって歩いてくる。
やっぱり、疲れた雰囲気だ。
中に入ってきた。
・・・・・私、充分、安らいだし、譲ってあげようかな?
あの男は、カウンターで注文を済ませ、里佳子の存在を確認すると、別の席に向かって行った。
充分、安らいだしね・・・・と里佳子は思うと、スッと席を立ち、店を後にした。
店から出た後、さっきまで座っていた席を見ると、すでに「およそもこみち」が座っていた。
・・・・・・そこの席、いいでしょ?と里佳子は思い、おうちに帰った。
そのまた次の日もまたまた次の日も、里佳子が先にその席に座っている時に、あの男が後からスタバに来ると、里佳子は席を譲ってあげた。必ず、「およそもこみち」はその席に座る。
ある日。その日は、「およそもこみち」が先に座っていた。
里佳子が別の席に座ろうと、席を探していると「およそもこみち」はスッと立ち上がり、店を出て行った。
里佳子は、ラッキーと思い、いつもの指定席に座ろうとすると、「およそもこみち」は紙ナフキンをテーブルに置いたままだった。
・・・・イラっ。
里佳子がそれを、捨てようと、手を伸ばすと、紙ナフキンに何かが書かれていた。
“いつもありがとう。ここの席にあなたが座っているのを初めて見た時、なんだか、すごく幸せそうに外を見ていたから、私も座ってみました。いい席ですね。元気が出ます。”
と書かれていた。
里佳子はすぐに窓の外を見ると、「およそもこみち」が、こちらを向いて、すこし笑っていた。
笑顔は「もこみち以上」だ。
次の日。
里佳子は、いつもの指定席のすぐ隣の席に座って外を見ていた。
すると、後から、「もこみち以上」がやってきて、隣の指定席に座った。
二人は静かに並んで窓の外の行き交う人々を眺めた。
時々、顔を見合わせ、すこし微笑み合いながら。