第2章 神殿で奉仕活動してるけど、なんだか大変みたいです。
やあ、どうも俺です。
佐藤慶太郎、30歳独身、恋人いない歴生まれてから。
この度山中で事故りまして、宇宙人と名乗るちっさいおじさんにモルモットにされました。
で、惑星エニウェアって星に放り出されまして、宗教裁判にかけられましたが試練をクリアしまして自由の身です。
今は暇つぶしに神殿に通う毎日です。
――……――……――……――
ザワザワ。
何だろ、騎士団の人が揉めてんなぁ。
もしもーし、何かあったんですか?
はぁ、ワームが出たが、討伐隊の編成に困っている?
”ワームというとあの大型爬虫類ですね。”
そうねワニの怪物。
なんでもいつでも暖かい温泉地にでたんだってさ。
ただそこの村って貧乏だから、予算が立たずに討伐隊が編成できないらしい。
”なかなか危険な生物だったと思いますが、どうして身支度を整えているんです?”
そこに温泉があるから。
”なんですと?”
温泉があるなら入るのが日本人の本能です。
”しかし自ら危険を冒して入浴するほどのことでしょうか。”
一度倒したしなんとかなるでしょ?
”まぁ同じスペックの生物でしたら、85%程度の確率で無傷で倒せると思いますが。”
よしよし、それじゃ歩いて2日程度らしいし、みんなに挨拶してでかけましょ。
――……――……――……――
やって来ました、ハイセ・クヴィレ村。
おお、ここが噂の温泉街か~
いかにも湯治場って感じで鄙びてていいね!
”鄙びているというより寂れていますね。”
ここ10年前まではそこそこ栄えてたって聞いたよ。
その頃にワームってワニのバケモノが住み着いて、お客が来なくなったそうでさ。
今ではほそぼそと農作物作ってんだってさ。
”爬虫類は生きれば生きるほど大きくなりますから、洗礼の洞窟のワームくらいのサイズだと相当に寿命も長いと思われます。”
実際どのくらい生きてるんだろうな?
お、第一村人発見。
すいませ~ん、ここでワームが出たって聞いたんですけど。
あ、いえいえ冒険者じゃないです。
押し売りでもないです。
ちょっと神殿の方から来ました。
え、長老さんのおうちに案内してくれる?
ああ、これはありがとうございます。
”~~の方から来たというのは、詐欺師の定番文句ですよ。”
嘘はついてないからいいじゃん。
――……――……――……――
え、もう神殿から騎士が来たんですか?
若い騎士さんが一人?
そんな話聞いてないけどなぁ……
”詐欺師でしょうか?”
わかんね。
ま、良いや。
行ってみてみよう。
もしその騎士さんが倒してるなら、俺は風呂入って帰ればいいしさ。
楽ちん楽ちん。
”しかし詐欺師、もしくは実力不足でしたら?”
その時は予定通り、ワニの化物狩ってお風呂に入ります。
肉体労働の後の風呂はまた格別なのです。
”どうあっても風呂に入る気ですか……”
――……――……――……――
というわけでやって来ました、温泉場。
オーやってるやってる……ってでかいな。
”15mくらいはありますよ。予想ガイデス。”
そういう芸はいらんと言うに。
だけどそうね、人間なら丸呑みされるかも。
こりゃ、予算なし、人員なしでは放置されますわ。
”これは任務放棄もやむなしでは?”
バカモン、あそこには何がある!
温泉だぞ、温泉!
しかも洗礼の洞窟と違って曲がりなりにも整備された温泉だ!
大体2日も歩いてきたんだ、一風呂浴びないと来た甲斐がない!
”そこまで温泉に執着するあなたの情熱はどこから来るのですか?
さっきからホルモン調整やってるのに、アドレナリンのほうがドンドコ出てくるし。”
ホルモン調整はやめろと言っておろうが。
うーん、ノソノソよたよた動いてるけど、騎士さんの方も必死だな。
そりゃあんな重そうな鎧着てりゃ、動くの大変だろうけどさ。
”ワームの攻撃力に比して鎧の防御力はたかが知れていますから脱いだほうが良いでしょうね。”
俺みたいに布の服とかね。
……あれ、あのボコボコに傷ついた鎧には見覚えあるような。
”ああ、洗礼の洞窟で転んでたので、声をかけた騎士ですね。”
縁があるねぇ。
あ、また転んだ。
――……――……――……――
しまった!
とそう思った時にはすでに遅かった。
私は、濡れた石に足を取られ、無様に転んでしまう。
先程からこの巨大な怪物に一太刀すら与えていないというのに。
衆生の窮地を知り、勇んで討伐に赴いたものの、まさかこれほどの強敵とは……
もっとよく調べておくべきだった、もっと装備を考えるべきだった、もっと、もっと……
そんな思いが胸をよぎる。
ああ、これではあの方に会わせる顔がない。
せめて最期に、あの方のお名前を聞きたかった……
そう観念し、己を一飲する化物を見上げた時、閃光が走った。
――……――……――……――
「バイロキネシス!」
ヴーッ、ブンッ!
ドゥーン!!
”着弾確認、対象は混乱している様子です。”
おおいい感じ、いい感じ!
この剣てば、こんな隠し機能が付いてるとはね。
”サイコメトリーによる情報では、こうやって超能力を増幅するのが本来の用途のようですね。”
あれだね、格ゲーの溜め技。
ちょっと集中する時間がいるけど、その分ダメージが大きい技が使える、みたいな?
”集中時間と消費MPによって効果量が異なります。
最適なバランスを模索しますので、いろいろ使ってみてください。”
はいはい。
んじゃま、いくぞー。
ヴーッ、ブンッ!
ドゥーン!!
――……――……――……――
時に雷を思わせる紫の閃光。
時には無数の石つぶて。
砂を巻き上げ化物の視界を塞ぎ、炎の嵐で焼きつくす。
多種多彩な奇跡の技を持って化物を翻弄するのは、あの方、黒衣の剣士だ!
先程から間断なく奇跡を使用されている。
奇跡の使用は尋常ならざる疲労をもたらすというのに、なんという精神力か!
その時だった。
混乱した化物が大きく足を振り上げ、私めがけて踏み降ろそうとしたのは!
――……――……――……――
イライラ
イライラ
”ストレスを感知、どうかしましたか?”
風呂に入りたいです。
こっちがこんな埃っぽい格好をしているというのに、あそこでワニのお化けがのんびり水遊びをしてやがる。
非常にムカつきます。
”いえ、あれは混乱して暴れてるだけかと。”
それでもせっかくの温泉場が台無しじゃないか。
あ、また塀壊しやがった。
くそあれ越しに眺める満月とか最高だろうに。
”あ、またアドレナリンが出て……”
もう我慢できん、接近戦でケリつけてやる。
「セルフPK!フライトォッ!」
ヴーっ!
「化物、そこをどけぇっ!」
――……――……――……――
「化物、そこをどけぇっ!」
黒き矢と化したあの方は、一条の光となってワームへと突っ込んだ。
その隙に私はようやく立ち上がり回避する。
なぜ?
あのまま奇跡を使用していれば押し勝てたというのに……
もしや、私のせいか?
私がここに這いつくばっているがため、危険を押して接近してきたというのか!
私は、私は……あの方の足を引っ張っているのか……
――……――……――……――
クソっかてぇなおい!
洗礼の洞窟で出会った化物の3倍は堅いぞこいつ!
”せいぜい3割増しですよ。堅いのは事実ですが。”
あーくそイライラするなぁ、もう!
どうしてお前は、俺に気持ちよく入浴させないんだ!
”やはり遠隔攻撃のほうが効率よかったですね。”
おのれ、おのれ、おのれ。
だいたいこの鱗があかんのだ。
洗礼の洞窟の石人形よりも堅いこの鱗が!
”しかし鱗がないのは、口の中くらいですよ。”
!
その手があったか!
”いや、いや、いや(汗)”
確かに口の中なら鱗はないし、頭蓋骨まで近い!
流石だな、副脳くん!
”やめましょう、落ち着きましょう、汚いですしきついですし危険です!”
3K怖くて日本のサラリーマンがやってられるかぁ!
往生せいや、化物野郎ォッ!
――……――……――……――
その時私は信じがたいものを見た。
黒衣の剣士が、あの黒衣の剣士が、ワームに一飲にされたのだ!
絶望に立ちすくむ私。
私が、私の存在が、彼を殺したのだ。
あの怜悧で、優しくて、神秘的なあの方を……
この、私が!
だが。
だが、あの方は私の想像以上の存在だった!
――……――……――……――
「バイロキネシス、出力最大ッ!」
ヴゥ――ンッ
「ぶち抜けやぁっ!」
ワームの窮屈な口の中で膝立ちになり、脳天めがけてズブリズブリと真なる栄光を突き立てる。
多少足場がぐにゃぐにゃしようとPKで固定すれば問題はない。
柄まで突き立った段階で発火能力を発動、最大出力で内側から脳を焼く。
気合とともに解き放たれたそれは、赤い火柱となってワームを体内から焼いた。
「ハーハッハッハ……あっつぅ!?」
”そりゃ自分から火刑になったようなもんですよ。さぁ脱出しましょ。”
PKで無理やり口をこじ開け飛び出した俺を、騎士さんが目を剥いて見上げていた。
――……――……――……――
”カポーン。”
フィーいい湯だなァ。
いやいや旅の疲れも、肉体労働の疲れもすっかり吹っ飛びますよ。
このために生きてきたんだなぁって感じ。
”ワームの肉は意外に美味しいですね。
高タンパク低カロリーでヘルシーです。”
塩振って焼いただけなのにね。
これはお酒が欲しくなりますわ~。
え、ある?
どぶろくみたいなもんだけど?
ウンウン、そういうの大好き。
ちょっとでいいから頂戴。
長老さんから嬉しい差し入れがありました。
どぶろくだそうです。
ここ温かいからコメが採れるみたいね。
あ~染みるわぁ……
”精神力が非常に向上しています。
昼間の超能力の連続使用によるものでしょうか。”
温泉効果じゃない?
温泉つかってぬる燗飲んで、ちょっとしたツマミ食ってると極楽だよ。
まぁお行儀はよくないかもしれないけど。
そう言わないで長老さんもやってみてくださいよ、ほれほれ。
……でしょう?
やぁ、飲み過ぎはよくないけど少しだけならかえって健康になるってもんだよ。
ああ、ウン飲み過ぎはよくないけどね。
暴れるのなんて最低。
あ~最高だなぁ、幸せ……
4話完結予定の第2話です。