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第1章 一般市民になったけど、なにか仕事がしたいです。

やあ、どうも俺です。

佐藤慶太郎、30歳独身、恋人いない歴生まれてから。

この度山中で事故りまして、宇宙人と名乗るちっさいおじさんにモルモットにされました。

で、惑星エニウェアって星の山中に放り出されまして、宗教裁判にかけられるものの、無事試練をクリアしまして自由の身です。


――……――……――……――


銀貨4枚。

一泊二食付きの宿屋の代価がこれです。

昼食で贅沢しても銀貨5枚。

一日の生活費がこれだけです。

俺の所持金は金貨100枚、銀貨にして1,000枚なので200日ほど生活できることになります、わーい。

暇だ。


”余暇を楽しむことは、心身の健康に良いそうですよ。”


余暇と言ったってテレビもないし、ゲームもネットもないじゃないですか。

ツーリング行こうにもバイクはないし、馬は金貨5,000枚もするんですよ。

洗礼の洞窟に潜らせてもらって温泉使ってこようか。


”普通処刑に使うものを容易に利用させるとは思えません。”


それもそうだね。

しかし暇だ。

仕事したい。


”ワーカホリックですね。”


だって大学出てから仕事漬けの毎日ですよ。

それ以外の時間の潰し方なんて、TVとネットとゲームだけしか知らないし。

趣味だって、ツーリングと温泉だけですぞ。


”普通ホームシックが先に出ると思うのですが、重症ですね。”


なにか適当なアルバイトでもないかな。

宿屋のおやっさんにでも聞いてみよう。


――……――……――……――


下働きの仕事がなくなるからやめてくださいって、やんわり断られました。


”良心的な反応だと思います。”


そうだよなぁ。

でも俺は暇なんだ。

あ、バイトがダメならボランティアで行こう。


”それでも働く気ですか。”


余暇をどう過ごそうがいいじゃない。

神殿で掃除でもしてくるか。


――……――……――……――


クラウディア高司祭は困惑し、また感激した。

先日背教者の疑いをかけられ、試練を超えたばかりの若者が神殿を訪れ、なにか奉仕活動をしたいと申し出てきたのだ。

本来であれば、善行に対する過酷な仕打ちに対し、反感を抱きあるいは神殿を憎んでも良いはずの若者である。

それが誰から言うでもなく、自ら申し出て神殿に奉仕しているのである。

しかも彼は、ただ試練を超えたのみならず、聖遺物を獲得し、神殿騎士団を窮地から救った英雄でもあるというのに、ただの入信者と混じって掃除などというつらい仕事に従事している。

なるほど彼は神の教えを知らなかったかもしれない。

だがその精神は尊く、これほどまでに善良であるのだ。

クラウディア高司祭は、自らの人を見る目のなさを恥じ、彼の善性を伸ばしていこうと誓うのであった。


――……――……――……――


ふういやぁ働いた働いた。

掃除っていうのもたまにはいいものですな。

自分が綺麗にした後を見ると達成感がわきます。


”昔の職場では、時間外に出勤し掃除するよう、強制されていたはずです。”


1年目は嫌で仕方なかったけど、2年目には慣れ、3年目には体のリズムになったからねぇ。

やっぱりこういう肉体労働をしないと、働いたって気にならないねぇ。

でも、なんか疲れないんで、物足りないんだけど。


”ナノマシンで肉体が強化されましたから、さして疲労してませんね。”


つまらん。

もっと仕事はないものか。

あ、あそこでブラブラしてるのは騎士団の人じゃん。

なんか仕事もらおうっと。


”まだまだ働く気ですか。”


――……――……――……――


ダーフィト騎士団長は困惑し、また感激した。

先日リザードマンからの襲撃を退け、自分たちの潰走の危機と不名誉から救った黒衣の剣士が、ともに訓練をと申し出てきたのだ。

彼は聖遺物を手にした英雄であり、自分たちとは格の違う剣士である。

あるいは先日の失態を叱責されても不思議ではない。

それがまるで自分たちに教えを請うがごとく、礼を尽くし、訓練を申し出てきたのだ。

これは我々の権威を尊重しながらも、鍛えなおす機会を与えてくれたのだろう。

なんと寛大で、武人の誇りを知る御仁であることか。

話によれば神の教えに触れることなき辺境の出とのことだが、傑物とは生まれいでた時より完成されているのだなと思い至ったのである。


――……――……――……――


ふんふんふ~ん♪


”ご機嫌ですね。”


ようやく働いたぁって実感が湧いたからね。

こう心地よい疲労ってやつが良いんですよ。

体から余計な力が抜けて、少し眠くなって。

さぁ事務仕事でも頑張ろうかなって気になる。


”掃除の後は倉庫整理、その後出荷処理でしたね。営業もそれからだったようです。”


そうそう、9時までに終わらせなきゃいけなかったから大変だったんだよね。

じゃないと営業に行く暇ないし、営業行かないと容赦なく給料下げられるしさ。


”常識的に考えてひどい環境だと思います。”


でも俺はまだましだよ。

月に一度は2日休みだし、ボーナスも年2回出てたし。


”残業代とか時間外手当は?”


何それ?


”……駄目だこの人、早く何とかしないと。”


事務仕事って言ってもこっちの文字知らないしなぁ。

高司祭さんに相談して文字とか教えてもらわないと。


”どれだけ働く気ですか。”


――……――……――……――


アンネマリーは困惑し、また感激した。

先日リザードマンからの自分たちを救いながらも、背教者の嫌疑をかけられ、洗礼の洞窟へと送られたケイタロウとともに神学を学ぶこととなったからだ。

彼は天賦の奇跡を身につけながらも、神殿騎士団を凌ぐ剣士であり、あの緑の悪魔を15体も切り滅ぼしたという。

洗礼の洞窟を超えたものは十名に一人しかいない苛酷さで、それを超えたものの中には須く神を憎むとまで言われるというのに、己の身を悲しむでもなく、神を恨むでもなく、真摯に教えを請う高潔さ。

なんと素晴らしい人だろう。

この地方では見かけない黒い髪に黒い瞳も神秘的ながら、その感情を見せない律せられた表情、時折見せる純粋な笑顔。

アンネマリーはこの辺境の剣士に惹かれる自分を自覚し、己のはしたなさをそっと恥じた。


――……――……――……――


あっさり字が覚えられたので、研修を受けてきました。


”サイコメトリーが使えますから、学習は容易ですね。”


驚いたのは、結構この世界天文学が発達してたんですよ。

で、地動説が主流なの。


”元々はよくある多神教が主流だったようですが、天体観測の結果、太陽を中心に大地が楕円軌道を描いたほうが合理的ということになったようですね。”


そう。だからこれまで主流な神様だった大地とか惑星とかが精霊に格下げになって、不動なる太陽神が唯一神ってことになったみたいね。

ちなみに太陽神を唯一神と崇めてるのが新教、これまで通り多神教なのが旧教、全て精霊として扱ってて、神は自分の祖先のみってのが蛮族らしいです。


”旧教は田舎宗教とバカにされつつも尊重されてますが、蛮族は背教者として攻撃の対象、と。”


やっぱブディズムって答えときゃよかった……

ところで話は変わるがね、副脳くん。

なんかみんなが俺を見る目が変でない?


”皆から尊敬の感情を感じます。”


おお、なんかみんなこっち見てヒソヒソしてるから、変人だと思われてるのかと。


”好き好んで仕事を求める姿は、変ですね。

誤解を解いておきましょうか。”


う~ん、いいや。

尊敬されてるほうが気持ちいいし。

でもただ仕事求めてるだけなのにねぇ。


――……――……――……――


日が暮れたなぁ。


”暮れましたね。神殿の人々も帰宅しています。”


うーん。

これからが本番な気がするんだけど。


”定時は17時30分との契約だったはずですが。”


でも営業終えて事務仕事始めるのは終業の鐘がなってからだったよ。


”……ちなみに就業後の時間外手当は?”


何それ?


”……”


なにかないかなぁ、仕事。

お、研修で一緒だったお嬢さんがいる。

送ってこうか、暇だし。


――……――……――……――


アンネマリーは、己の高鳴る胸の鼓動がケイタロウに聞こえはしないかと心配になった。

神殿から聖職者の宿舎までわずか30分、いろいろと聞いてみたいことはあれど、その神秘的な黒い瞳に見つめられると言葉が口から出てこない。

一言二言尋ねては、息を呑み、そっと胸の高鳴りを抑える。

少し驚いたのは、彼が今年30になるということだった。

30といえば、己の父と3つくらいしか違わないというのに、この若さはなぜだろう。

ケイタロウはトキオという聞いたこともない辺境でずっと働き、暇を貰って旅に出たところ自分たちの危難に巡りあったそうだ。

彼はこの地方のことを全くと言って知らず、それどころか真なる神の教えにも触れてこなかったという。

にも関わらず数学や天体の動きには深い知識を有し、クラウディア高司祭を驚かせた。

理知的で、高潔で、神秘的、ケイタロウはとても不思議な人物で……そしてとても魅力的であった。


――……――……――……――


がーん。


”どうしました?”


いやね、お嬢さんの親父さん33だって。

18で父親になったんだと。


”あー。”


何よ、その納得したって反応は。


”やはり生殖機能は不要ではないかという確信が。”


確信すんなよ、これから必要かもしれんじゃんか!


”そのあてはあるのですか?”


……


”やはり不要では。”


いやわからんし?!

俺の上司は45で初婚だったし!


”虚しい抵抗だと思われます。”


いやほらこっちの世界じゃ早婚かもしれんじゃん!

ほら戦国時代だって10代で結婚が当たり前だったろ!


”だったらなおのこと、30童貞にお呼びはないですね。”


がーん。


――……――……――……――


フィーいい湯だなァ。

やっぱ風呂ですよ、風呂。


”自分で薪買ってきて、自分で割って、自分で焚きましたが。”


その肉体労働の後の風呂が楽しいんじゃないか。

秘湯派って知ってる?

温泉に入るためにわざわざ山に登ったり谷超えるんだぜ。

それに比べりゃ自分で風呂沸かすくらいはなんでもないですよ。


”根っからのワーカホリックですね。”


そうかね?

いやこのくらいは普通だと思うけど。


”ナノマシンの影響で肉体の披露は軽減されていますし、肉体に深刻なダメージも得ていません。

また入浴によって精神力の向上が見られます。”


ほらね。

やっぱ風呂は命の洗濯ですよ。

やっぱ温泉行きたいなぁ。

洗礼の洞窟ダメかなぁ。

ダメだよなぁ。

どっか温泉ないかな。

あした、高司祭さんに聞いてみようっと。

毎週1回程度の頻度で更新予定です。

4話完結予定の第1話。

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