◆◆◆◆ 2
「んっ!いっ…」
目を開いた瞬間、お腹が痛んだ。
あたしは咄嗟にお腹を抑えようとして…
「なに、これ…?」
後ろに一括りに纏められた自分の手に気がついた。
(縛られてる…ってかここは!?)
慌てて辺りを見渡す。
(どこ?ここ…室内?)
壁や床は剥き出しのコンクリートだ。
それにそこそこ広い。
薄暗い中でダンボールがちらばっているところを見ると倉庫のようにも、お店が移転した後のようにも見える。
どちらにしろ周りに人がいなそうだ。
(どうしよう…ってそういえば…)
あたしは辺りを見渡した。
「カラタチはっ…?」
「おう、俺の名前知ってんのかぁ。」
急に聞こえた低い声にあたしはびくりと体を揺らした。カラタチがどこに隠れていたのか前にすっと現れる。
そしてにぃっと口の端を吊り上げた。
「心配しなくてもあのガキにはすぐ会えるさ。」
どこか自信ありげにカラタチは呟いた。
「じゃないと捕まえた意味がねぇからな。」
「…なんで。」
「ああ?」
あたしは恐る恐る尋ねた。
これだけがずっと疑問だったのだ。
「なんで、あたしを人質にとるの?」
あたしをわざわざ人質にとるより、逃げた方が早い。ここで迎え撃つ方がよっぽどリスクが高いように思う。
カラタチはいいとこに気がついたなぁ、と言ってコートの懐に手を入れた。
出てきたのは鉈のような刃物。
それを眺めながら、あたしに言うのでなくまるで独り言のように続ける。
「ここで殺しをやってりゃ必ず彼奴らが出てくると思った。まあ、規則的に彼奴らより先に死刑囚がな。そうなれば俺の好きな命のやり取りができる!」
カラタチの笑みにあたしはゾッとした。
(…この人、狂ってる。)
「それにこっちでも何人か切れたしな。」
「…っ!」
『最近物騒だから気をつけろよ』
最初に出会ったときの血の匂い、その後の救急車のサイレン
『昨日未明、嘉林町住宅街で通り魔事件が発生しました…。』
ニュースキャスターの、声。
ー全部繋がった。
「…いままで通り魔してたのはあなた…?」
「通り魔の意味はしらねぇが路地裏で切りかかったのは、俺だあ。」
やっぱりそうだ。
無意味に人を傷つけてたのは…!
あたしが見るとカラタチが笑みを収めた。
「なんだ、その目は。文句あるのか?」
カラタチが近づいてくる。
(本気だ…!)
あと数歩でカラタチがあたしに届く、その時。
ガッ
鈍い音と共にカラタチが飛びのいた。
コンクリートの床に弾き飛ばされ落ちていたのは小ぶりなナイフだった。
「いい腕だ。」
カラタチが楽しそうに見る方向を見てあたしは目を見開いた。
扉がいつの間にか開いてる。
そこにいたのは…
「はぁっ…あんたにいわれても…嬉しくない。」
息の上がったクロだった。
「クロ!…っ!」
声をかけようとしたあたしに鉈が突きつけられ、あたしは押し黙った。
「おい、通信機器は…?」
「壊してきたよ。おかげで前より時間がなくなっちゃったけどねぇ。」
あたしはハッと首元を見た。
首輪がチカチカと激しく光っている。
イツキさんの声が蘇る。
『逃げ出す、もしくは、期限がきれるとあの首輪から毒が回り、絶命する。』
(嘘…もう毒が…?)
「…何してくれちゃってんのさ。カラタチ。
クロが低く言う。息は荒いままだ。
カラタチはそんなクロをせせら笑った。
「お前、なんでこんな娘気にすんだ?
まあ、どうでもいいか。俺の目的は一つ、あんただからなぁ。」
カラタチはあたしから鉈を引いた。
「殺し合い、始めようぜぇ。」