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CUBE!  作者: しば
6/11

◆◆◆ 2

ピンポンピンポーン…

お昼ご飯も食べて一息ついていたところでインターフォンが鳴った。

クロがぴくりと反応する。

「なになにー?」

「誰が来たみたい。」

ピンポンピンポン

そんなやりとりをしているあたしを急かすように鳴らされた。

「はーい今出ます…はい?」

あたしはドアを開けて固まった。

「こんにちはですぅ。」

「失礼する。」

あたしの反応は妥当だと思う。

そこには軍服を纏った青年と女の子がいた。

女の子の方があたしをみてすかさず敬礼をした。

「こんにちはですぅ!」

「あ、えっと、こんにちは…?」

思わず挨拶までもが疑問形になる。

女の子がにっこり笑った。

屈託のない笑顔に少し余裕ができたあたしは改めて2人を見た。

よく見るとどちらもかなり奇抜な格好だ。

青年の方は灰褐色の肩までの髪に同じ色の瞳。

しかも軍服らしき服に日本刀を帯刀している。

女の子は白い髪に前髪を結んでおでこを出しているのだが、その前髪の毛先が瞳と同じエメラルドグリーンだ。

うん、とりあえず日本人でないことは確かだな。

ってかこの世界の人でもないな。

あたしがそう結論づけていると、見られていることに焦れたのか、黙って見ていた青年がおもむろに口を開いた。

「…君がトオノ チサト か。」

「えっ、あ、はい!」

静かな低い声に名前を呼ばれ、飛び上がるように返事をするあたしを男の灰色の目が見つめた。

「…君に話があって来た。」


「粗茶ですが、ど、どうぞ…。」

「すまない。」

「わ、美味しそう!ニホンのせんべいですね!」

(シュール…)

軍服の2人と女子高生と猫耳フードがテーブルを囲んであたしの出したお茶をのんでいる。

青年は話があると言って以来、一言も喋ってない。

いつもへらへらと胡散臭い笑みを浮かべているクロとは対象的にこっちは始終無表情だ。

逆に女の子の方は嬉しげにせんべいを食べている。

クロは…言わずもがな、せんべいをものすごいスピードで食べている。さっき結構食べてたのに。

(…っていうかこの状況、どうすれば…?)

あたしが手持ち無沙汰になっているのを見て、女の子が声を上げた。

「ああ、自己紹介がまだでしたね!

わたしは第8地区隊長補佐のツグミと申しますぅ!」

「えと、ツグミちゃん?」

見た目10歳くらいなのでどうしてもちゃん付けしたくなる。ツグミちゃんはニコニコしながら続けた。

「はい!そして此方は、第8地区隊長の」

「…イツキだ。」

青年が名乗ると、ツグミが続けた。

「あ、言っておきますけどニホン生まれじゃないですよ?隊長刀持ってるから間違えちゃうかもしれないですけどぉ。」

「はぁ…」

(いや、まちがえようもなくあなた達違うセカイの人でしょ。てか今日本人で刀持ってたら捕まるから。)

心の中で呟いて、あたしはイツキと名乗った青年の方を向いた。

「…あの、イツキ…さん。話ってなんですか?」

イツキさんは緑茶の入ったマグカップをコトリと置いてちらりと視線だけクロに向けた。

「そこの02-2について君に話がある。」

「へぇ、そーなんだー。」

我関せず、といった感じだったクロが返事をする。

入った時に、無反応だったからあれ?と思ったがやっぱり知り合いだったんだ、とあたしは一人納得した。

イツキさんはちらりとツグミちゃんを見た。

「ツグミ。」

「了解ですぅ!」

イツキさんに名前を呼ばれてツグミちゃんは立ち上がった。クロの腕を掴むとずんずんと歩いていく。

全然体格が違うのになぜかクロは引きずられていく。

「はい、行きますよぅ。」

「えー、めんど」

ガチャン

クロのセリフがドアの音で途切れた。

(ええっ、出てくのはやっ…!)

2人が出て行った居間は一気に静まり返った。

(ってか気まずい…。)

「えっと…」

「…。」

「…。」

(会話が見つからない〜!)

心の中で焦っているとイツキさんから口を開いた。

「まずは謝罪しよう。すまない。」

「へ?何がですか?」

「いくら誤って君の目の前に落ちたとはいえ、02-2が他人と接触するのは予想外だった。本来起きるはずのない事だ。」

「…はぁ。」

接触するはずがないもなにも…真上に落ちて来たけど…

「あれはツグミの手違いだ。」

(…心読めるんですか!?この人!)

「それと…。」

あたしは次の一言で固まった。

「02-2と手を切れ。」

「え…?」

イツキさんはあたしを見ながら淡々と続ける。

「02-2には私から言っておく。あの男が見つかるまでは君に警備を置いて」

「ちょっと待ってください!なんで手を切らなきゃいけないんですか!」

思わず声をあげて遮ったあたしにイツキさんの眉がすこし潜められた。少し口調も鋭い気がする。

「…なんで?逆に私が聞きたいものだ。何故、君は02-2の側にいる?」

「…っそれは。」

イツキさんの視線から逃げるようにあたしは目を伏せた。

「何を思って行っているのかわからないが君に事実を伝えておこう。」

静かな声が部屋に流れた。

「02-2はあいつが追っている男、カラタチと同じ、死刑囚だ。」



分かってた。

クロは危ないんじゃないかってことは。

「死刑…囚…。」

でもその言葉はとても重かった。

「ああ。死刑囚に死刑囚を追わせる。相打ちになればそれはそれで構わないし、死んだところで困る者はいない。なにせ死刑囚だからな。」

説明している声は淡々としていてただ事実として喋っている。

「…もしクロも逃げちゃったらどうするんです?」

「みただろう。奴の首を。」

「あの首輪…?」

チカチカと光る首についた輪。

少しだけ気になっていた。

「逃げ出す、もしくは、期限がきれるとあの首輪から毒が回り、絶命する。」

まあ、逃げ出すといってもたかがしれてるが、とイツキさんが呟く。

(そんな…)

あたしは現実を受け入れるのに精一杯だった。

イツキさんは畳み掛けるように言った。

「だからあいつから離れろ。あいつは君にとって災厄でしかない。」

(災厄…。)

その時浮かんだのは昨日のクロじゃなくて、初めてあったときの、あだ名をつけてあげた時のクロの笑顔だった。

(違う…違うよ)

あたしは顔を上げてイツキさんを見据えた。

「…嫌です。」

「…。」

あたしをイツキさんは無言で見つめてきた。

「クロはたしかに何考えてるかわかんないし、犯罪者なのかもしれないっ!でもっ!」

これだけはいえる。

「てもっ、クロにだっていいところはあるから…あたしはそれを信じたい。」

イツキさんに訴える為の言葉はそのまま自分の胸にすっぽり落ちた。

言葉にして気づいた。

あたしはクロを信じてるんだ。

イツキさんはしばらく黙ってあたしの顔を見つめていたが不意に溜息をついて、立ち上がった。

「?」

戸惑った顔をしているであろうあたしを見ずにイツキさんは言った。

「君が拒んだからには私にはどうすることも出来ないからな。」

「じゃあ…」

「ああ、何も言うまい。君の判断で動くがいい。」

非難するでもなく淡々と告げたイツキさんに、あたしは頷いた。

それを見てから、イツキさんは独り言のように言った。

「行くぞ。ツグミ。」

ガチャン

「はいですぅ。

外には聞こえないはずなのに、呼びかけに答えたツグミちゃんにイツキさんは驚くでもなく出て行く。

「あ、待ってくださいよぅ。あ、チサトさん、センベイ美味しかったですぅ…!」

ごちそうさまでしたぁ、と大きな声で言ってツグミちゃんがせわしなく手を振って出て行った。

「いっちゃった…」

声をかける暇もなくあっという間に誰もいなくなった玄関に入れ違いにクロが入ってくる。

半ば呆然としていたあたしは我に返ってクロを見た。

「っごめん!ずっと外にいたんだよね?

ってか濡れてるし…。」

くろいパーカーで分かりづらいが所々ぽつぽつと黒が濃くなっている。

濡れている袖を掴んだとき、偶然手と手が触れて思わず顔をしかめた。

(…つめたっ…。)

外に出ていたからか冷たくなっている手とずっと部屋にいた自分の手の温度の差にあたしは手を引っ込めた。

「まあね、ちょっと寒かったー。」

そう言って横を通り過ぎたクロの首元に目が行く。

フードを被っていてよく見えない。

あたしは後ろから近寄ってフードを引っ張った。

パサッ

フードを取るとうなじが露わになる。

チカチカとした青白い光は首の真後ろで点滅していた。初めて会ったときは顎の下で光ってた。

つまり…

「…半分…。」

んー?と首だけ向いて、あたしが何についていったのか悟ったらしい。

「あぁ、残り時間?そうだねー。」

クロは笑いながら再びフードを被ってこっちをちらりと見た。

こっちを見た途端、その目が見開かれる。

「チサ…、なんでそんな顔してるの?」

そんな顔ってどんな顔だろう。

分からないままあたしは思ったことを口に出した。

「…クロはなんでそんなヘラヘラしてられるの?死んじゃうんだよ?」

少し驚いた様子のクロは戸惑い気味に口を開いた。

「…だから言ったじゃん。どうでもいいって。俺がしんだって生きてたって結局関係ない。だれも困らないし…」

「バカ、アホ、マヌケっ!」

あたしの突然の罵倒にクロはあたしを見て口をつぐんだ。

あたしはそんなクロを全力で睨みつけた。

「あんたが死んだらっ、私が泣くもん!」

言葉に出したら本当に泣きそうになってあたしは目をつぶった。

と、いきなり手に冷たいものが触れてあたしは目を開けた。

いつの間にかクロがソファの前の床に座り込んであたしの手を握っていた。

下から見上げている目が座ってって言ってるように見ててあたしはクロの隣に座った。

ぎゅっと少しだけあたしの手を握った手に力が込められる。

クロは静かに目を閉じて、柔らかく笑みを浮かべた。

「チサの手、あったかい。」

「…うん。」

クロの手は中に入って時間がたったのに、まだ冷たい。

あたしは何も言わずにクロの手を握り返した。

(…もうこいつから逃げない。クロを、死なせない。)

しばらく部屋の中にはさぁさぁと降りしきる雨の音だけが響いていた。

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