◆◆◆…
「おっはよー。」
「はよー」
「休み明けとか学校超面倒いし。」
そんな声が聞こえる中、あたしは一人ぼんやりと窓の外を見ていた。
…あの後、クロはイツキさんの部下達に運ばれて行った。
『解毒しますから大丈夫だと思うですぅ…。』
ツグミちゃんがあたしに声をかけてくれたような気がしたけど、今となってはそれも曖昧だ。
結局、なんの跡も残さずに彼等は帰ってしまった…もとのセカイに。
あんまりに何も残らなくって。
あたし一人家に帰るときなんか全部夢だったのかなって思ったり。
と、突然あたしの肩を誰かが叩いた。
「はよっ!千里!」
「…おはよう。」
美由紀だ。美由紀は相変わらずのハイテンションであたしの顔を覗き込んだ。
「なになに?休みボケ?」
「別にそんなんじゃ、ないけど…。」
「じゃ、なんでそんなテンション低いのよ…。
あ、もしかして彼となんかあった?」
「彼…?」
意外な言葉に美由紀を見返す。
「うん。私見たよ?駅の近くで。
黒いパーカーきた人と一緒にいたでしょ?」
ドクンッ
心臓が跳ね上がった気がした。
「あんたもとうとう彼氏出来たんだねぇ…って千里!?」
「へ?」
美由紀が信じられない、といった様子でこっちを見た。
「あんた、なんで泣いてんの。」
「泣いて、る?」
言われて気づいた。
確かに暖かいものが頬を伝っている。
美由紀はあわあわとあたしを見た。
「も、もしかして彼となんかあった?わ、別れたとか…?今の話地雷…?」
「ごめん…ちょっと私、授業抜けるっ…!」
「あ、千里!」
いたたまれなくて呼び止められるのにも構わず、あたしは教室を飛び出した。
走って無意識に辿り着いたのは図書室だった。
授業が始まる少し前。勿論、人っ子1人いない。
私はふらふらと奥の棚まで歩いて行った。
天井を見上げる。
やっぱりシミなんてどこにもないまっさらな天井だった。
ほんとは期待してたのかもしれない。
クロがこっちにいたっていう跡を。
「…っ。」
(なんであたしここに来ちゃったんだろ。)
ここにいても辛いだけだ。
あたしは踵を返した。
その時、不意にあたしの手に何か触れた。
確かめる間も無く、あたしの手がそれに包まれる。
少しだけ冷たい誰かの手。
その手の冷たさと共に、後ろから声が聞こえた。
「やっぱ、あったかいね、チサの手。」
この声、この手、…全部知ってる。
それにこの呼び方をする人は今までに1人しかいない。
「うそっ…」
あたしが確かめる前に後ろから強く抱きしめられた。
身体と身体がくっつく。
トクン…トクン…
あたしは胸の前に回された腕をぎゅっと握った。
「心臓の音…聞こえるよ。」
「そーだねー。」
「生き…てる?」
「うん。生きてる。」
驚いた時にとまった涙がぽろりと零れた。
クロが後ろで密やかに笑う。
「チサっていっつも泣いてんだね。」
「しょ、うがないでしょ!?嬉しいしっ!」
あたしが涙を拭いていると、クロが体を離した。
振り向くと、確かにいた。
「なんかあの隊長って奴が直々に上に申し出たらしくってさぁ、俺、死刑じゃなくなったんだよねー。あんたを助けたの見られてたらしくて更生の余地があるってさー。おかげで今8地区の見習いやってるー。」
「じゃ、じゃあっ!」
「うん。俺はもう死刑囚じゃない。」
「…っ!よかったっ…!」
また涙を零すあたしを見てクロはやれやれと呟いた。
「俺が死んだって生きてたってチサは泣くんだね。」
おどけたようにクロがいう。
「じゃ、生きててチサをその倍は笑わせないと。
大変じゃん?チサはすぐ泣くから。」
「ううん。もう泣かない。」
涙を拭いてあたしはクロを見た。
「クロがいるから。」
多分、あたし今、笑ってる。




