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メロディー・ドロップ  作者: ショコラ*
番外編Short Story
6/9

スペシャリスト

前書き:これより先の番外編SSは、本サイトの10万打記念企画の際に書いた、ハワイが舞台の話となっております。

少しでもお楽しみ頂ければ幸いです。


番外編SS『スペシャリスト』

Thema:成田空港



「玲奈先輩、一本ちょうだい」


 スカイライナーに乗って、窓からぼんやりと夜景を眺めていたら、不意に声を掛けられた。

 隣に座って微笑んでいるのは、一つ年下の彼氏である優。

 私はポッキーを取り出すと、ハイと差し出した。

 ……ら、優は私の手ごと掴んで自分の方へ向けさせ、口を開く。


「……」

「ありがと」


 してやったり、みたいな顔をしながらにこりと笑う彼に、私は一つため息をついた。

 今更、優のベタな行動に驚いたりはしない。


「先輩とこれからずっと二人きりなんて、夢みたいだな」

「二人っきりじゃないけどね」

「……あぁ、今俺の中では完全に二人きり設定だったのにー」


 後ろの座席に並んでいるはずの従兄と親友カップルの事を言えば、優は顔をしかめて拗ねる。

 ……そう、今回従兄であるカナメの両親からの勧めで、彼とその彼女はハワイ旅行に同行することになったのだ。

 そこまでは、何の不思議も無い話だったんだけど……

 その彼女と私が親友だと知った要の両親は、私もぜひと誘ってきて。

 人数的に半端だから、彼氏さんもどうぞだなんて……自分の親戚ながら、金持ちというのは羽振りが良いと思う。

 かくして私は優と、初旅行に行く事となった。


「夜だとやっぱり、結構空いてるなぁ」

「平日だしね」

「あー、超楽しみ」

「ちょっと」


 よっぽど嬉しいのか、優は猫のように私の肩に頭を凭せ掛けてくる。

 さらりと柔らかい髪が首筋に触れ、ちょっとくすぐったい。


「先輩、いっぱい思い出作ろ」


 優はそう言いながら、私の右手に自分の左手を絡めてきて、ぎゅうっと握った。

 私たちの膝の前には、大きなスーツケースが二つ。

 ……あぁ、ホントにこれからしばらくは優と一緒なんだな。

 どうしても性格上、素直に感情を顔に出したり出来ないけれど……私だって、本当はかなり楽しみにしていた。

 優の隣は、すごくホッとする。

 何かと気を張りがちな私だけれど、優はそんな私の扱いに慣れているし……意地っ張りな所も込みで好きでいてくれるから。


「先輩」

「ん?」

「俺から離れちゃダメだよ、すぐナンパされそう」

「……されないって」

「無自覚!」

「いや、それを言うなら優の方が――」

「俺は、先輩にベッタリくっついてる予定だから大丈夫」

「……」

「……ふ、照れた?」


 一瞬身体を離して顔を覗き込まれ、私は思わず窓の方に視線を逸らした。

 少しだけ、頬が熱い。

 しばらくすると車内に到着アナウンスが流れ、ゆっくりと速度が落ちていく音が響き渡る。

 手荷物を纏めて立ち上がると、先に通路に出ていた優が振り返り、私の姿を確認してから歩き出した。

 後ろから賑やかな親友カップルの声を聞きつつ、私たちもゆっくりと空港へ向かって進んで行く。

 ガラガラと響くスーツケースの音も、ここではそれ程珍しくは無い。


「先輩、気を付けて」

「ありがと」


 エスカレーターに乗る際、スーツケースをぐっと持ち上げようとすれば、既に乗っていた優が先に掴んでひょいと乗せてくれた。

 持てない重さではないものの、さすがに一週間分に近い荷物が入ったスーツケースは結構重い。

 ぱっと見細身の優だけれど、こういう何気ない時にやっぱり男なんだよなーと感心してしまう。

 最も優は元ヤンだし、実はかなり筋肉質なんだけどね。

 初めてその筋肉を目の当たりにした時なんか、詐欺だと思ったくらいだ。

 ……まぁ、良い意味でだけど。

 チェックインをしに、出発ロビーへと真っ直ぐに向かう。

 海外へ行くのは二度目だけれど、ここに来るとようやく空港に来たんだなぁ……と実感する。

 列に並びながら、優にならってパスポートを取り出した。


「先輩、飛行機乗るまでちょっと時間あるね」

「うん」

「お店見て回ろ。あとデッキ行きたい」

「いいけど、何すんの?」

「先輩と、出発前の記念撮影」

「……ふっ」


 終始ご機嫌な優がまるで子どもみたいで、私は思わず笑ってしまった。

 そんな私につられて、優も笑い出す。


「だって初旅行でハワイだよ? ハネムーンみたいじゃん」

「うん、まぁね」

「ハネムーンは違う所がいい? それともまたハワイにする?」

「……気が早い」


 バシッと腕を叩いても、優はにこにこしていた。


「先輩、写真撮りまくろうね」

「任せる」

「うん、先輩の写真集作る勢いで撮るから」

「……」


 まだ、日本を出てすらいないけれど。

 優の笑顔を見ながら、きっとこの旅行は良いものになるだろうな……という予感がした。

 だって、君は。

 いつだって私を喜ばせる、スペシャリストだから。



fin.

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