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やっちゃったよ

で、今もお仕事中です。お偉いさん方の食事会みたいなもんがあるので食器の準備をしてるとこ。

ヘタな毒物とか混入されないようにお目付け役もいるけど空気が悪くなることはない。

結構おしゃべりもしちゃってるし。ほんとにこんなで良いのか?と思ったのは最初の頃だけ。順応する生き物なんです私。




「ルリィはどこかのご令嬢だったのかしら」

今もなーんてことを言われてるとこだし。

「いやいや、しがない平民です」

先輩が見習いに話しかけて来るなんて珍しいな。普段は先輩たちは先輩たち同士。私たち見習いは見習い同士おしゃべりするからね。あっ、この皿ブランド物だ。めちゃくちゃ高いんだよね。

「そう?それにしては作法も完璧だしやけにいろんなことできるわよね?」

まぁ、ドアがきしむっていうから少し無駄だったところを削ったり油さしたりしたけど…それぐらいだし。

「お茶の入れ方も手馴れてたわよね」

褒められるのは悪くない。

「そうですか?そう言っていただけると嬉しいです」

さすが先輩。お茶入れは私の得意分野なのだよ。自称だけどね。それにしてもよく見ているな。油断ならないと言うべきか。今は、素直な見習いさんだからな。素直に尊敬してます!!キラキラみたいな表情をした方が良いんだろうか。

思わず悩んでしまった私に珍しいことは続く。

「やっぱり上流階級の娘さんでしょ」

上流階級だと!それは自分でもまったく思いもよらないものでしたな!てか、雇ってる人の情報を知らされてないのか?個人情報の保護なんて考えは城にはないと思ってたんだけど。

「そんなふうに見えます?」

私はひたすらごまかし続けた。

「えぇ。どこかで習ってきた感じはするわねぇ」

ちょっと冷や汗がでた。誰かにじゃなくてどこかで?


「こらっ」

私に話しかけてた先輩は他の先輩に何故か注意されてた。それもこっそり。

何でですか?と言う意味を込めて見つめてみたら注意した先輩は曖昧な表情を浮かべながら

「話声が五月蠅いって注意を受けたのよ」

と言っていた。注意された先輩もバツが悪そうな顔をして黙り込んでしまっていた。


「だけど、私の知っている国特有のくせがないんだもの」

「しっ」

ふてくされたように呟いた注意された先輩の声を聞いてどきっとした。

礼儀作法はいろんな国に共通しているものを習得しているつもりだが、習った国の場所によって些細な癖がある。それに気付くのはよほどの観察眼が無ければ成されない様な偉業なのだが…ここの使用人は自然とやってのけるらしい。私は注意力が足りなかったことを胸に刻んだ。

「先輩ってすごい観察眼をお持ちなんですね!」

私は尊敬でいっぱいですというきらきらした瞳で先輩を見つめる。先輩は相変わらずバツの悪い顔のまま無理やり笑顔を作って向けて下さった。……なんだってんだ。


なんかまずったって感じだったけど。








それからは考えを改めて、先輩たちの様子に注意を払いながら仕事に励んでいたよ。




変わったことねぇ。特にはなかったかな?


あぁ!だけど、一度魔力を秘めた石のスプーンを拭かされたことはあったよ。魔力が秘められたものってめちゃくちゃ貴重だからそんなおいそれと触れるようなものじゃないんだけどね。でもそれぐらいだなぁ。










――――――それから数日後。雇用期間の最後の日。気付きたくなかったけど気付かないとヤバいことに気付いたんだ。回りくどい?気のせいだよ。

なんか巧妙に隠されていたんだけど、本当に些細な先輩たちの行動をひたすら観察してたらピーンときちゃったんですねー。




思った通り先輩たちは皆が皆ハイスペックな方々なんですよ。正しくは、私達の先輩たちだけが異常に。っていうのが付くけど。






ほんと手遅れ。



この人達って使用人としてじゃなくてそれ以外の何かの目的のために集められて私の先輩としていたんじゃないかな。なーんて考えが浮かんで来たんだ。



と言うのも――――――









「ルリィ。ちょっと重い荷物があるから運ぶの手伝ってもらえる?」

「はい。今行きます」

私は素直に返事をして先輩の後ろにしずしずと付き従った。今のところ噂のくわしい情報とかは得られていない。ガセネタだったかも、と思い始めてる。


先輩は訳の分からないものから超高級品まで分類をどうやってしているのかわからないが整頓されているらしいとは先輩談。ともかくそんな、カオスな倉庫に連れてこられた。

「ちょっとまっててね」

そう言って先輩は中から玉を取り出して私の前に掲げた。

…水晶だろうか?いや、もっと違う神聖なイメージを持たせるような不思議な輝きを宿してる。


「綺麗よね~。で、これと一緒に他のものも取りに行かないといけないの。ちょっとこれ持っててくれるかしら」

YES以外に答えられることなんて無いからな。私は素直に玉を受け取る。


もう一度付いて来てと言って私を付き従える。少し顔がこわばっていた気がしたけど気のせいか?


次に私が連れてこられたのは精密な彫り物が施されている扉の前。

先輩は突然止まるとポンと手を打ってこちらに振り向いた。

「ごめん。先に中に入って待ってて。ここらへんを管理してる人に許可もらうの忘れてたわ。申し訳ないんだけど、ちょっと急いで許可もらってくるからこれ持ってて待ってて…あぁ、ココの通路は偉い方々も通るから部屋の中で待っててね」


そう言いながら少しあわただしい様子で私を置いて駆けていった。





ん?



――――――――――――いやいや、え?ちょっと。マジで放置ですか……。





私は扉の前でひんやりとした滑らかな感触を指で楽しみつつ唖然と先輩を見送った。



これは城の中を好き勝手歩き回っていいって許可?


覚悟を決めるって言い方も大げさだけど…今、頭の中で警報なってんだよね。

この状況はなんかあんまよろしくないフラグ立ってますよーって。


扉開けたくないなぁ。だけど私に頼まれたのはこの玉を持って部屋の中で待機すること。てか…この玉ってなにで出来てるんだろ。この輝き方ってガラスとは違うしなぁ。

玉をそっと頭の上にあげて見上げれば、通路にある窓から差し込む光をそのまま私の目へと送ってくる。水晶では…ない。目の前に持ってきても玉があるというのはわかるが薄い硝子を前にしているような感じだ。ガラス製だったら景色は歪むはずだしね。ほんとなんなんだろこれ。魔力感じるし。まぁ、それに気付くってのもおかしいからわかんないふりしたけどさぁ。魔力が感じられるものってことはかなり貴重な物のはずなんだけどな。そんなものを、ただのと言っちゃ失礼だけどただの使用人の手の届くところには置いとかないよなぁ。


私は何度目になるのかわからないため息をはきつつ玉の表面に指を滑らせる。無色透明としか言いようのないその玉は引っ掛かることなく、ただ滑らかさだけを伝えて来る。ひんやりとしていて気持ち良いがいつまでもそれを味わっているわけにもいかない。



仕方ない。


ここで部屋に入ってなくても先輩に怒られて、ヘタしたら何かしたのではないかと怪しまれてしまうかもしれない。そうなってしまう選択肢も相当まずいだろう。それならもう、どっちを取ったって良いじゃないか。


投げやりな気分でありながらも部屋の扉を丁寧にあける。






不思議な香りがふわりと香った。

「…?これは…高価な香木の匂いか?」

流石は城…





では片付かないよ。これは。



花と違って基本的には好まれる匂いでもないからね。物好きもいないわけではないけどこれを焚きたがるのは―――圧倒的に少数だ。間違っても城の中の部屋で焚くようなものではない。





ぶっちゃけこれの使用目的なんて限られる。




大がかりな魔術の補助

または、成りたて魔術師が導入や失敗をしたくない時の際も補助として使う



この臭いとも言い難い匂いは精神を安定させチャンネルにアクセスしやすくする効果があるからだ。






中は美しい寄木細工のような不思議な模様が描かれていた。魔法陣に見えないこともない。


私は扉の内側を見てダッシュで部屋に飛び込んだ。


扉の内側には開かれてから2秒以内に閉じられなければ警報が鳴る魔法がかかっていたからだ。ご丁寧にも一目見ただけで解読できるようになってたよ。


いったい私が何をしたってんだよ。

そりゃ、お城の重要機密とかをぼろぼろお外に流してはいるけど、まだ王様を殺しちゃいないぞ?



 なんて、面倒な魔法を。しかも解除がしにくくなっているためどうしても2秒じゃ間に合わない。仕方なしに飛びこんだ。










って待ってよ。


普通の人は魔法がかかってるなんて気付かないんだから…ココは普通に入って、扉をゆっくり閉めて、先輩を緊張しつつ待つって言うのが正しい状況なんじゃ――――――――――――
















あ……。やっちゃいましたね、これは。











がっちゃん













繊細な彫り物がされているくせにしまる音は無駄に重い。


しかも、閉まると同時に扉は壁と一体化して消えてしまった。これも魔法だ。外からしかとけないもので、中から解くこともできるが色々と準備が必要となる作業なので無理。仕組まれていたってことかな?



つまりは閉じ込められてしまったらしい。密室とか、小説の中だけで十分なんだけど。



これは気付かない振りをするのが正解だよなぁ。

自ら墓穴を掘ったことに気付いた。

今から振りをするのもありかな?


今の私の状況は、先輩から部屋に入っているように言われて、扉が開いたとたん部屋の中に駆けこんだ。で、今に至ると。


やってみるかねぇ?


「な、何で閉じたんだろ…?」

私の声を誰かが聞いてないとこれやる意味ないんだけどね。すっげーむなしい。

あたふたしているように視線を辺りに向ける。ほんとに何も無い。あっ、でもカーテンが閉まってるけど窓はあるのか?普通ならソファとか机とかあっても良いのにね。家具が一つもないとか、ふざけんなよな。サービス精神足りねぇよ。私がパニクルのに飽きたら座りたかったのに。城のやつなら座り心地も最高だろうしね。


さて。もし、ここにいるのが一般人だったら……。


扉があったはずの場所を触る。継ぎ目がないか探す。その流れで壁を叩いてみる。


パニックに陥ってる感じ出てるかなぁ?


改めて部屋を見渡す。窓に今気付いた感じでかけよる。カーテンを勢いよく開ける。鍵は…かかってない。そもそも窓じゃないな。窓かと思われた物も魔術でそう見えるだけだ。空気的には外は曇りのはずなのに偽りの窓から見える天気は晴天。半永久的に動き続ける絵画を壁にそのまま描いたって感じか。誰だよ、こんなに見るからに暇人アピールしてる魔術組み立てたの。

こういう半永久的な魔術は酷く難しい。才能の無駄遣いってこういうのを言うのか。



偽りの窓に手を伸ばせば、ぱちっと音をたてて弾かれる。触らせるぐらいいいだろ。




完璧にはめられたな。この部屋は対魔術師用の檻として使われてんのか。見た目は豪奢な暇人によって創り上げられた籠って雰囲気だな。


全く、どうしてくれようか。

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