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猫と花火と伊達眼鏡。







title:《猫と花火と伊達眼鏡。》







星も月も見えないのに不思議と闇夜には光が溶けていて濃い緑色に輝いている。



水の流れる音。


絶え間無いせせらぎとその流れを石垣に座って眺める。

水辺には青白い蛍が舞っていて、

それが時々アタシの方に彷徨ってくるのをぼんやり何をするでもなく黒の伊達眼鏡のレンズとその奥の瞳に映していた。

隣には相棒の黒猫が鍵尻尾を揺らして静かに寝そべっている。


ひとりと一匹は黙って蛍の景色の中にいた。







「そろそろ帰るわ」


多分この辺りに君臨している彼に軽く挨拶して立ち上がりカーゴパンツについた土を払う。

ポーターのリュックを掴んで石垣から下の広い遊歩道に飛び降りた。

砂利を踏んで着地し、じゃーねん★と手を振ると興味無さそうにアタシを一瞥してとっとと石垣の上を走っていった。

彼は頭が良い。

今まで会ったどんな猫より。別格だ。

賢者のように思慮深く自分のペースは崩さない。

この世界での自分の領分を知っている。



今日のアタシは黒ぶちの伊達眼鏡を掛けていた。

眼鏡はシールドの役割だから。

視覚と第6感というのは連動していて感じたものの情報の欠片やイメージを映すものはネガティヴな時に敏感になりその視界の幅を広げてくれるものだから余計なものも端に映りこむ。

あまり良い方向性のものでないものが。

それを多少緩和するのが眼鏡だ。

まぁ気休めの程度かもしれないが。

つか病は気からだし?(-_-)


ここ最近のアタシは気分が低迷し自虐的で殺伐とした状態だ。

それが定着しつつありヒネクレが酷くなるのを懸念して気分転換に外に出たのだが、

それに付き合ってくれたのがこの黒猫。

別に横にいて鍵尻尾を揺らしていただけだが、

つかず離れずの距離を保ちアタシの視界に居てくれた。

それだけで多少ささくれ立った気分が鎮まるのを彼は分かっているようで。

このお猫様は大抵アタシが眼鏡を掛けている時によってくる。

眼鏡を掛けて外に出てる時は大体が気分が落ちているときだ。

ボスの気質か面倒見が良く、眼鏡を掛けているのが一つの目安だと理解していて寄ってくる。

っていうか明らかお守りされてるよ……(´ω`)★☆

(第一級危険人物が来たっ!!要注意!!見張らなくては…とか思われてる可能性大…)



「さすが町内のボスだな。そこらの阿呆よりよっぽど物を知っている……そこらの阿呆ってもしかしてアタシか…???(-_-;)」



浮いたミリタリーキャップを被りなおしふらふら遊歩道を歩き出した。

今日は乙女の事情で体調はすこぶる悪いわ気分はイラつくわネックレス壊すわで行き詰まりの日だ。(ーー;)

心情としては俺の後ろに立った奴は撃つみたいな?

撃たなくても無駄と判断した奴は飛び蹴り食らわすぞみたいな?

(まぁなんて理不尽…)

ちょっぴりセンチメンタルナーバスなの…☆★

(ちょっぴり?)だからアタシに構わないでねっ………て言ってる側から、




視界に揺らめく影が映りこむ。




ブレる月の光の陽炎を人形に切り取ったみたいな影に見えるが、


実体は多分無い。


感情とか負の力とか大きなエネルギーの集まりを第6感が感じ取り、

脳がそれに仮の形を与えて視界に存在させているだけだ。

影はわさわさ近づいて来てアタシを取り込もうと画策する。




「つーか、虫の居所悪いから容赦しねぇぞ」




低く宣言し素早く自分のルービックジルコニアのピアスを外した。


ぐ、と一度握り込んで紡ぐ言霊を決定する。

手加減など微塵もない。

ただ存在を抹消させるだけの強い一言。


簡素な言葉。

破滅の呪文。




「…散れ」




手のひらの上で言霊を秘めてピアスは煌く。


それを薄く笑って投げつけた。


一瞬の閃光。


光の軌跡を描いて影を打ち抜く。

影はたちまち凍りつき、

奴の胸の辺りをピアスが透過すると跡形も無く闇夜に胡散霧消した。



「……」



影の消滅を見届けて短く息を吐く。



残るのは暗闇の石畳に転がる透明のジルコニア。

キャップのつばを深く下に引いてピアスを拾い歩き出そうとしたら、

湿気の多い夏の夜の風が吹いた。

川の匂いを運んできたが、その中に嫌な気配をも含んでアタシの頬をなぶる。



目を眇める。


見ると向こうから新たな影たちが融合し波の様に押し寄せて来る所だった。



だから水辺は嫌いなんだよ(ーー;)

色んなものが溶けて雑じって流れてくる。

それに付随してマイナスの要素を持つものも集まってくるのだ。

奴らは川の流れを追いかける。

海へ出るために。

海で浄化されるために。

それだけ汚れている力の塊たちだ。


舌打ちをしてポーターの鞄からペットボトルを引き抜く。

未開封だった水色の蓋を回し開け自分の足元の石畳に道の端までミネラルウォーターの一本線を引いた。



境界線。



奴らはアタシの眼前、線の向こう側でぴたりとその行進を止めた。

こうやって線引きをしてやると奴らは線のこちら側には来れない。

本来アタシと住まう世界の違うもの。

そいつらにとって不可侵の領域が有ることを分からせるためのいわば術だ。



「こんな大量に相手してられるかっつーの」



やれやれと肩を竦めた時だった。



突然、灯りが道を照らす。


接触が悪く普段は点いていない街灯が運悪く点灯した。

灯りが点いた事でアタシのキャップを被った影が姿を現し、それが「境界線」を越えた。

途端に奴らは動き出す。

アタシの方が自ら作り出したテリトリーからはみ出し線の向こうと道を繋いでしまった為奴らは気付いたのだ。



まずい。



僅かの間躊躇したが、

かけていた眼鏡を囮に境界線の向こうに放り投げる。

アタシは反対側の石垣に飛んだ。

右足を積み上げた石の途中に掛けてそれを軸に駆け上がる。

アタシの気配が移った眼鏡に群がる奴らの横をすり抜けた。



ヴォルヴィックは全部開けちゃうしあの眼鏡は黒ぶちにしてはアタシに珍しく似合うやつだったのに!!

とんだ災難だよ!!!!!!!(@_@;)




闇の津波が追いかけてくる中走る走る走る。




後ろを振り向けば即座に取り込まれる。



前に、

進むしかないのだ。


アタシが力尽きるか

影が飲み込むのが早いか。



背中に冷たい汗が流れる。

ギリギリで疾走して前に橋が見えてきた。

このまま行くと車道に出られる。

そこに辿り着ければ。

打開策が見えて安堵したその時、後ろから足元に何かが飛び出してきた。



それを避けたはいいがバランスを失い勢いあまって石畳に転がった。

振り向くとすぐそこまで押し寄せてきている。



しまった。



追いつかれる、と転げたまま唇を噛み目を瞑った。


















































すると、どぉんと身体に響く大音量が鳴り響く。

まるで合図のみたく衣擦れのような音をさせて追いかけてきた津波が停止した。


重低の破裂音に影の津波は強張る。



「え?」



影たちは即座に撤退し始めた。

ざわついて散っていきその姿は空気に溶けていく。

そして誰も居なくなった。


はっと気付いて夜空を見上げる。


ひゅるると高い音がして夜空に大輪の花が咲いた。

赤と緑の菊や牡丹。

金の色柳。



「花火だ…」



色とりどりのその輝きにアタシは見蕩れる。

石畳に脚を投げ出して座り込んだまま夜空を。


そうか、奴らは火が怖いんだ。

炎は問答無用で全てを綺麗に焼き尽くし浄化する。

何も無くしてしまう。

誰にでも使える最大の祓う手段。


その夜空に咲いた圧倒的な花はその力を見せ付けて刹那で消えていった。

そういえば向こう側の河川敷でやる花火大会があったはずだ。

それにかぶったのか?

予行練習か???何にせよ助かった。

田舎の町内会万歳…!!!!☆★

エロそうとか言ってごめん町内会長…(笑)




力尽きて両手を挙げて石畳に寝転がる。

足元で猫の鳴き声がした。



「? 」



そこに居たのは賢き黒猫。

さっきアタシが避けたはコイツだ。追いかけてきたらしい。

座った膝の近くにちょこんと来てアタシを眺めていた。

何か運んできたらしく揃えた脚の前に置いてある。



何かの虫かネズミか…?と恐々確かめると、



「アタシの眼鏡!?………セイレム!!!(勝手に命名)お前天才!!!」



NHKの某魔女っ子海外ドラマに出てくる黒猫の名前で呼ばれた彼は心底嫌そうにふしゅっと鼻を鳴らした。



「あははは」



アタシの笑い声が大輪の花咲く夜空に響く。






もう暫く気分転換を続けるか。






いつの間にか楽しくなってるアタシは黒猫と並んで夜空を見上

げた。












2×××年/7月9日/大輪の夜空の花を見上げて。









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