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深夜メール。






title:《深夜メール。》







お天気が混乱していた。


月の光でフィルムみたいに透き通った夜空を見せたと思ったら、

一瞬後には針のような雨粒を降らせる。

それは気候にもいえる事で、

夏の陽射しが照りつけたり色なき風が吹いたりと動きが激しくあわただしい。

世界の舞台装置の設定が秋にシフト変更の為、その操作で忙しく夏の魔人や秋の女神が出たり引っ込んだりしている。


世界裏方秋の大人事異動…?(´ω`)☆★

(市民大運動会みたいだ…町内会かよ)

秋を司る御方の到着が遅れたらしく辞令通りに引継ぎが出来ていない模様。


そのとばっちりを受けたのはエキセントリックガール言霊使いのあちき。

箸よりも重いものを手にしたことがなく羽毛のキルトの下の一粒の真珠にも気付く繊細なあたくし、

(大嘘吐き)はこの季節の変わり目に体調を崩したようでございます。


何か咽喉がおかしいな…?(-_-?)の数時間後には素で面白いくしゃみを連発し咽喉の痛みに苦しむ深夜。

雨の音で目を覚ましそのまま何となく寝付けずにいる。

がらがら声では友達と長電話する訳にもふらふら真夜中のお散歩に行く訳にもいかず今夜は大人しく籠の鳥に甘んじなければならない。




「…暇!暇!ひ~ま~!!!!!」(>□<) (どこが大人しく…?)




そんな深夜のお友達はパソコン君。

この魔法の小箱さえあれば檻の中でも世界を旅する事が出来る。

インターネットでお気に入りスイーツショップの秋のモンブランをチェックしたり、

映画のサイトを覗いたりネイティブアメリカンの伝説を調べたり…★☆とネットサーフィンに興じようかとパソコンを立ち上げたはいいのだが……




「まぁたフリーズしやがった!!!(ー□ー;)きぃぃぃ~~!!!」




アタシのダークグレーとホワイトシルバーの魔法の小箱はとっても気まぐれでご主人様の言う事なんぞ端から歯牙にもかけない。

最近そんな暴挙が激しくブラックアウト、フリーズ、折角繋がったと思ったら次の瞬間オンライン切断とまるでご主人の方が翻弄されている。

しかしこの電脳小悪魔のあまりの所業に忍耐の砦、温厚の乙女と呼ばれた(いつそんな事実が?)アタシの堪忍袋の緒がはちきれた。



……イライラ…。



「☆■$#&△~~~!!!(ー△ー゛)(言葉にならない叫び)」






ばん!!





勢いあまって思わず両手をキーボードに叩きつけるという力技の制裁を下す真夜中。

てへ★

(機械は人間以上に湿気、振動、衝撃等に繊細です。良い子は絶対に真似しないでね☆)




ヘソを曲げたのか、ぶつりとパソコンのディスプレイはブラックアウト。



アタシは沈黙したパソコンの前に座りどうしたもんかと頭を掻いて溜息をついた。



パソコンに齧り付いていたせいで肩が固まってしまっている。

首を左右に振ってそれをほぐし、カフェオレのマグに手を伸ばした。



頭の上で電灯が2、3度瞬きするように点いたり消えたりする。

夜の銀の針のような雨はアタシのいる鳥籠に降り注いでいて窓から見える暗闇もけむっていた。



肌寒い、静かな、夜だ。



真夜中の底はしんとしていて庭のコスモスが霧雨に凍える気配が感じられた。




ぱちん。




その静寂を破ったのは弾ける様な電源の音だった。


突如、鈍い可動音が響きパソコンが起動し始めた。

ファンが回りディスプレイが発光する。

たくさんの文字の羅列が現れては消えを繰り返してそれがどんどんスクロールされていく。

機械関係はすこぶる弱いアタシは動き出したパソコンに「ひぃぃ!!祟り?殴ったから祟りが?!!」と怯え気味で途方に暮れて眺めるばかりだ。

激しく点滅するディスプレイは最後には真っ白になりそこで止まった。



「……つ、ついに壊れた…かしら???」(-_-;)



恐々画面に顔を近づけてみる。


白い画面は不思議と奥行きがあってまるで画面の向こうは霧が立ち込めているみたいに透き通った白だった。



『You got mail』



白い画面の真ん中に淡いグレイの字で浮かび上がった。

ぽん、と小さな白い手紙のイラストが横に現れる。

「メール??入ってるメールソフトでも起動したんかな??(-_-?)」とenterを押すと、



画面上の手紙の封が解かれた。

そこから文字が溢れ出たと思ったらその一文はぴょんと何の境界も存在しないかのようにパソコンの画面から飛び出してきた。




「うわ?!」



画面から飛び出した淡く発光するグレイの言葉が宙に浮かんでいる。



『I can show you in the cage out side』



「『籠のなかの君に外の世界を見せてあげよう』…?」



その一文に目を凝らしたまま問いかけるように呟くと、答えるように一文が煌めいて空気に溶けた。

パソコンの画面は何時の間にか映像が映っている。



紅葉や葉の大きな欧州のカエデの木々が立ち並ぶ何処かの森の景色だった。

木々に囲まれた広場のような。

それはそれは鮮やかな映像。


木々の葉は黄色から橙、紅と色を変え、地は落ちた葉で紅と黄の天鵞絨の絨毯を敷き詰めたようだ。

秋の茜がかった陽射しが森の全ての木々の葉を輝かせている。

葉自体に光が織り込まれているみたいできらきら目に眩しい。

そんなカエデに囲まれて一脚のベンチが存在していた。



どこの景色だろうと覗き込むと、映像の方がずんずん近づいてきて避ける間も無くぐわっと小さなパソコンの画面から溢れ出る。

枠から仕掛け絵本のように飛び出してきた映像に真夜中の底に沈んだ鳥籠にいたアタシはたちまち飲み込まれた。




































陽射しで暖められた風が吹く。



乾いたカエデがかさかさと踊るように舞った。




アタシは今や画面の中の鮮やかな景色の中に立っていた。


天も地も、

目に焼きつき空気から浮いているような錯覚を起こす。

紅や金と月の光を混ぜた優しい黄色で埋め尽くされてその世界の限界までの美しさにアタシの感覚は飽和状態で眩暈がした。



世界は綺麗だ。


そこにあるがままに。


誰の目があろうとも無かろうとも。



あまりの世界の在り様の綺麗さに自分の感覚の許容量を越えて立っていられなくなったアタシはベンチに寝転がる。

どちらが上でどちらが下か分からなくなって高い空を仰いだ。

降り注ぐ陽は柔らかい。

ベンチに広がる髪が秋の陽射しに栗色に輝いている。


足元は定まらないがこの浮遊感は悪くないのだ。

浮かんでいても包まれているみたいに安心感がある。


暫く、自分の感覚をいっぱいにすることを忘れていたな、と思う。

意識を外して自分も世界の一部であることを感じる時間が不足していた。

前にある日常や笑いや楽しさを謳歌するのは良い。

ただアタシはとっても不器用でそれだけではヴァランスが崩れるのだ。

自分の背後にある属する世界を顧みたり確認しないと暗闇の中に立っているみたいに時々とても不安になる。

綺麗で厳しい根底のこの世界が変らずそこにあることを、

自分もその世界に含まれていることを感じないと生きていけない。




何も考えずこの景色に溶け込むように目を瞑る。



そうすると冷たい川をゆったり流れているみたいに気分が良い。

自然に対しては無理をするのも自分を作る事も偽る術も必要ない。

どんなアタシも受け入れてくれる。



とても楽、だ。



暫くそうして自然に溶けるように意識を解放してから起き上がった。

猫脚のベンチに座りなおした。

両手いっぱいにその世界を彩る破片を抱え一気に空に離す。

葉が擦れ合う細かなノイズの様な音がアタシの耳を支配して乾いたカエデは目の前で散っていく。




「籠の外は、こんなにも綺麗なんだな…」




小さく呟いて笑ったが、

アタシの呟きは落ち葉の鳴る音に掻き消された。



この景色をなるべく長く瞳に映していたくて、

それからなるべく忘れないように焼き付けたくてゆっくり、ゆっくり目を瞑った。








瞼の裏にはまだ鮮やかな景色がそこに存在していたが、

もう一度瞳を開けた時にはそこは森でも広場でもなく電源の切れたパソコンの前だった。

液晶画面は発光する事も無く暗い。



窓の外は雨はもう止んでいて雲が流れていた。






混線しているんだ。

間違って出された信号に気まぐれなパソコンが応じて普段は絶対に繋がらない、

繋げられるはずも無いラインが開通した。

だからアタシに届くはずの無いメールも深夜にどこからかやってきた。



日付が、季節が、世界の舞台が変る時で色々入り混じってしまっている。

もう少したらこの慌しさも落ち着いてこんな楽しい混乱も収束するだろう。




「これだから、このパソコンを修理に出すのが惜しく思われるんだよなぁ……」





アタシの苦笑交じりの言葉にパソコンの画面が悪戯っぽく一瞬笑ったみたいに光った…ように思えた。











2×××年/10月6日/不思議な箱を覗きながら。









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