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2.初春の花


…ねえ、……て、………。



なんだ…、一体誰だよ…。



…ってば、"しゅう"




…あぁ、お前なのか。

こんなときに…

くそっ…最悪だな。



…はあ、もうっ、"しゅうくん"は変わんないのね。



やめろよ…

もう、そんな風に俺を呼ぶなよ…。

やめろっ、

麗華っ…


「…ねえ、しゅうく」



「起きてるよ。」


俺がいきなり目覚めたもんだから、驚いているんだろう。

麗華の両手は胸の高さで止まっていた。



今最も逢いたくなくて

今最も逢いたかった麗華を目の前にし、ついさきほど、嫌な夢をみていた今の俺は

さらに最悪な目覚めを迎えた。



俺のそんな表情を読み取ったのだろう

麗華は少し口を尖らせ


「…なんで不機嫌なのよ。」


と俺にあったった



じゃあ

そういうお前は

なんでそんなに機嫌がいいんだ。


なんて言うはずもなく


「…どうでもいいだろ、そんなことは。…で、なんの用だよ。毎度のごとく不法侵入してきやがって。」



そう

こいつとは

隣家の幼馴染み。

だから、ほぼ毎朝こうして俺を起こしに来る。



「何の用って…、私は、いっつも起こしに来てるじゃない。」

なに言ってんの?と、そういう。



「お前、いつもならもっと遅いだろ。」



いつもなら

俺を起こしにくるのは八時過ぎ。

今は…七時。



「…お前、なんかあった?」


冗談で聞くわけではない。

俺は、こいつの前だけでは俺だから。




「…ん。ちょっと…ね、変な夢…みちゃって。」


今までニコニコしていた表情が、今の質問で一変した。

聞いてしまってから、

踏み込みすぎたと、そう後悔した。




変な夢。

そう聞いたとき、その夢がなんなのか分かった気がした。

それはきっと、俺がみた


嫌な夢。




「もうっ!早くしてよっ、遅刻するよ!?」


焦った表情の麗華はみていてなかなか楽しい。



「そもそもだけどさあ…」



「…なによ??」



ここでようやく

今までずっと疑問に思っていたことを口にする



「俺たち早起きしたじゃん?」



と、まあ

当たり前のことだ



「…っ。」



ははは

次は顔が引きつってやがる

見てて飽きないよな ほんと




「だから、いつもみたいに焦る必要なくない??」


どうだっ




「わ、わたし今日、朝、部活なの!」



「そっかあ…でも、今日は朝LHRじゃん?」




「…」




みるみる顔を赤らめていく麗華

そんな麗華に対しても、まだからかってしまう俺

結構意地悪だなって

そう思う。



「だから―」



「わ、わたし、もういくからっ」



って

ちょーい 待ってって!



「待てよ、麗華っ!」



そういうやいなや

俺は麗華の手を掴んでいた。


まあ

よくあるよね?

こういうこと。



だから、俺は



「一緒に行こうよ。麗華。」






花見市

それが俺達の住む街


四季折々の花が咲くことから

この名がついたという


中でも夏には

あたり一面に咲く向日葵畑を目的に全国から観光客が訪れる


しかし

この街に住んでしまうと

あまり向日葵畑も観に行かなくなってしまう。




「まあ、近すぎて逆に疎遠になるって言うしな。」



「なにをぶつぶつ言っているのよ。」




折角人が感慨深くもの思いに耽っていたのものを

お前は空気を読めないのか空気を




「空気読めよ」



「は?」




「すみません」




まあ、そうだよね

そうなるよね。


しばし沈黙。






「麗華はさ、なんの花が一番好き?」


聞いておいて

なにを聞いているんだ、と自分で突っ込みたくなる


「花?なんで?」



まあ当然

疑問に思うわな



「いや、そういや、俺達の街って花で有名じゃん?だからさ。少し気になって。」


俺の言葉を聞いて少し首をひねり考えこんでいる麗華




「いやいや、そんな真剣に考えるなよ。」



「うーん…。私はね、私は―。」






「私は向日葵かな。」




ああ

麗華は

やっぱり"れいちゃん"なんだとそう思った。




「そういうしゅうは、なにが好きなの?」



麗華は俺のほうなどみずに

前に続く縁石の上を両手をひろげ バランスをとりながら歩いている。




「あぶないぞー。」




「大丈夫よ、このくらい。小学生でもないのに。」



馬鹿にしないでよ。

と拗ねながらまだ縁石を歩く。




「で、結局なにが好きなの?」



そんなに知りたいようなことなのかは、はなはだ疑問だが、聞かれたからには答えよう。



「おれは、俺が好きなのは―」



一瞬 向日葵 と 言いそうになる


しかし

俺は唯一の自分をみせられる麗華に対しても

この時、嘘をついてしまった。

それがどうしてなのかは分からない。

けど、きっと自分の気持ちを認めたくなかったのだと思う。



だから


「俺は、朝顔が好きだ」


嘘をついた。




このとき

嘘をつかなければ、と

今なら思う。



人は後悔を繰り返す生き物らしいが

それもうなずけてしまう。



悲しいかな

このときの俺は

この後の苦しみを知らなかったのだから。




「ふーん…。」



麗華はなんだか不満そうにそう呟いた。



やべえ

なにか違う話ふらなきゃっ



「あ、あの」



「あのさあ。」



自分が話しかけようと思ってたもんだから

逆に話をふられて拍子抜けしてしまった。




「うっ…えっ?なに!?」



「しゅうは、彼女 とか作らないの?」

思春期真っただ中の男子高校生になにを聞いてるんだよ!




「いや、別に、作ら、作らないわけじゃ!?ただ、そういう機会がないだけで!?」



もう

しどろもどろだっつーの!

「でも、しゅうは、中学校でも彼女いなかったよね?」



いなかったけどさ

いなかったけどさ!



「俺が、彼女を作るかどうかなんて、勝手だろ!」




「そりゃ、そうよ」



じゃあ

なんで聞いたんだよ!




「でも、しゅう、モテるじゃない。結構、てかかなり。なのに…ねえ?」


そんな疑わしい感じの目を向けるなよ。

恥ずかしいじゃんか…っじゃなくてよ!




「俺は―」




「もしかして、好きな子、いるの?」


こいつは

常に俺の思考を読んでるんじゃないかってくらい

一手先で話を進めていく

味方のときはいいけど

相手となるとかなりやりにくい。


いまだって 完全に話を持っていかれた。



普段の麗奈とは思えないほどの真剣なまなざしを 今 俺に向けている



そんな視線に俺は絶えきれず



「い…、る、ねえよ!お前こそどうなんだよ!」



なんて、わけの分からない答えを返していた。


しかし、そんな返しに麗奈が納得するはずもなく。



「はあ…、結局、優柔不断ってことね。」




とバッサリ切られてしまった。



俺の気持ちしょぼんぬ。


「しょぼーん。」



「なに?ぶつぶつ言って。」



「いえ、なんでもないです。すみません。」








いつもと変わらない朝だった。

いつまでも、こんな日常が続くと思っていた。

もしかしたら、こんな日常を壊すのが怖かったのかも知れない。

でも、壊しはしなくとも、壊されることはある。

でも、そんな危機感 持つはずもなかった。



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