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月を呑む

作者: 笹門 優
掲載日:2026/09/25

武 頼庵(藤谷 K介)さま主催「木枯らしの風景企画」参加作品になります。



 乾いた風が吹き、紅葉(こうよう)が風に踊る。


 凩(こがらし)、と言う程では無い。

 それでも冷たく成りつつ在る、風。

 そんな風が暑い夏の盛りを通り過ぎ、晩夏を越え、周囲の光景は青藍(せいらん)や翠(みどり)から藤黄(とうおう)や紅(くれない)へ衣替えさせていく。

 黄昏(たそがれ)は其(そ)の様な夏よりも時早く訪れ、夕闇は足早に駆け抜けていった。

 直ぐに様相を現わす夜闇にゆっくりと姿を見せるのは十六夜(いざよい)の朧月(おぼろづき)。


 所謂(いわゆる)「中秋の名月」と呼ばれる月は昨夜のもの。

 とは言え其れに対し、何等(なんら)拘(こだわ)りがある訳もなし。

 所詮(しょせん)は酒の肴(さかな)に過ぎぬ催(もよお)し物。


 天頂に懸(か)かる月とその輝き。

 月に掛かる雲はまるで空を統べる王を護るかの様に揺れながらも、其の光を受け彩雲(さいうん)の如(ごと)く煌(きら)めいている。

 其れを受けているのは雲だけではない。

 黄金の様な彩(いろど)りを見せる薄(すすき)は今時分に実らぬ稲穂の代わり。 代わりとは言え見る分には何の支障も在(あ)りはしない。


 詰まり、酒の肴にするに問題等も在りはしないのだ。


 春は花

 夏時鳥(ほととぎす)

 秋は月

 冬雪さえて冷(すず)しかりけり


 其う詠(よ)んだのは鎌倉時代の道元禅師(どうげんぜんじ)か。


 此(こ)の様な詩(うた)を残し、其れでいて自身は呑まずに悟りを開く等少々信じがたいが、其の様な逸話も今は精々が酒の肴か。


 徳利(とっくり)を傾け、注(そそ)ぐ先には真っ白な盃(さかずき)。

 無色透明の、澄み切った清水(きよみず)に勝る程に透(す)んだ清酒が、小さな器(うつわ)一杯に満ちた。


 生まれたばかりの揺らめく水面(みなも)に、揺れる金の月が浮かぶ。


 ゆらゆらと、ゆらりゆらりと揺れる月はまるで嗤(わら)うかの様に、此方(こちら)を見詰めている。

 其う思ってしまう己が心が可笑(おか)しくて此方の手も震えてしまうのはやむを得まい事か。

 ゆらゆらと揺れる月の嗤いは止まる事なく、振る振る(ふるふる)と震える此方も止まらぬ有様で、益々月の嗤いは止まらずに延々と嗤い続ける悪循環。


 落ち着かぬままの嗤う水月(すいげつ)を、仕方なしに持ち上げるのは目の高さ。

 十五夜と、差して変わらぬ満ちた月が其処には在る。

 ゆらりゆるりと其処に在る。


 金の月

 浮かぶ盃

 酒に満ち

 紫雲(しうん)棚引(たなび)く

 朧(おぼろ)の月夜(つきよ)


 水月に視線を合わせ一句詠む。

 風流でも雅でも在りはしないが、まあ枕では在る。

 何も考えず只呑むよりは旨かろう。


 抄抄抄抄(ざざざざ)


 其の時、乾いた風が吹き、紅葉が空を舞った。


 冷たく成りつつ在る風。

 其れは矢張(やは)り凩なのかと思い直す。


 冷やす風。

 木々を叩き傷めつけ、瑞々しい緑の葉を紅葉へ枯れ葉へと変えていく木枯(こが)らし。


 葉が舞う。


 紅葉が舞い踊る。


 朧の晴れた、淡く月光の揺らめく世界で、黄金(きん)の椛(もみじ)が風に抱かれて演舞する。

 金(ひかり)に、黒(かげ)に、目紛(めまぐる)しく乱舞する様子はまるで百面の如く。


 心奪われそうな其の数瞬の舞台を視野に入れ、無意識に傾ける盃。


 咽咽(ごくり)


 刹那(せつな)、視界に入ったのは十六夜と水月。


 其れでも、風流でも雅でも無く、儂は只、月を呑む。



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木枯らしの風景企画 概要 ←企画概要 ↓作品検索 木枯らしの風景企画 バナー作成/くろくまくん 様
― 新着の感想 ―
道元禅師が酒を飲まずに悟ったのが信じられない、という表現に逆にびっくりいたしました。 たしかに酒を飲んでいるなら、悟るひつようはないのかも。 浅きゆめみし、ゑひもせず。 良きお酒を一献、ありがとうござ…
風流と言いますか、風情があって 素敵な作品なのです。 しかし、語彙力が凄い。Σ(-∀-;) かなりのIQの高さと、ポテンシャルが高い人じゃないと書けないクオリティの高さですん。 (pq゜∀゜*○)おお…
月黄金  追いて追々  老い落の  孤辛し老け場 呑んでいざ酔い  つきこがねおいておいおいおいらくのこがらしこがらしふけばのんでいざよい  m(_ _)m 
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