港は眠らない
港の夜は、何も語らない。
赤いコンテナは既に分解され、装置は部品単位で保管庫へ運ばれていた。公式記録には残らない。押収品という扱いすら存在しない。
止めた事実だけが、NSTの中に残る。
ヒロ室西日本分室。地下会議室。
玲奈は回収データを机に並べた。
「装置は試験型。量産前段階。通信遮断範囲は半径二キロ。」
彩香が腕を組む。
「都市機能の“点”を止める実験。」
迫田姉妹が同時に頷く。
「本命は“線”です。」
物流。電源。通信。
線を断てば、都市は崩れる。
波田顧問が椅子を軋ませる。
「へっ、舐められたもんだ。兵庫を実験場にするたぁな。」
玲奈は視線を落とさない。
「これは挨拶や。向こうは様子を見ただけ。」
「で?」
「こちらも、見た。」
沈黙。
「敵は確実に港湾ルートに触れとる。元知事周辺企業は間違いない。」
「だが証拠は足りねぇ。」
波田が吐き捨てる。
「政治は動かねぇ。」
玲奈は静かに言う。
「動かんでええ。」
全員が彼女を見る。
「表は動かん。それでええ。
動くのは、うちらや。」
彩香の目が光る。
「NST。」
あかりが拳を握る。
「うち、もっと役に立ちます!」
彩香が軽く頭を小突く。
「まずは無線の声量を下げろ。」
小さな笑いが漏れる。ほんの一瞬だけ、空気が緩む。
だが次の瞬間、玲奈の声が引き締める。
「任務は継続。港湾、再開発、警備契約。全部洗う。」
迫田姉妹が端末を閉じる。
「了解。」
波田が立ち上がる。
「いいか。これは外伝だ。
ヒロインの物語とは別だ。
誰にも言うな。墓まで持ってけ。」
「承知。」
即答だった。
会議は終わる。
外に出ると、神戸の夜景が広がっていた。
ポートタワーの赤は、変わらず灯っている。
玲奈はしばらく海を見つめた。
「街は、何も知らん。」
彩香が隣に立つ。
「知らんでええ。守る側が知っとけばええ。」
風が吹く。
あかりが振り返る。
「でも、向こうも次を仕掛けてきますよね?」
玲奈は頷く。
「来る。もっと静かに。もっと深く。」
湾岸線の向こうで、貨物船が汽笛を鳴らす。
その音は、警告のようにも、始まりの合図のようにも聞こえた。
黒塗りの車がゆっくりと走り出す。
一般車両。誰も気に留めない。
だがその中には、
カラーガード隊員でも、戦隊ヒロインでもない顔がある。
西日本特別諜報班 NST。
存在しない部隊。
赤いコンテナは止めた。
都市は守られた。
だが、影は消えていない。
玲奈はハンドルを握りながら、小さく呟く。
「兵庫は、渡さへん。」
車は夜に溶ける。
港は眠らない。
そして――
影の特命は、まだ続く。




