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西日本特別諜報班 NST 影の特命  作者: スパイク


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39/60

刃物の町に残る白い痕

小野の朝は、霧が低い。


田園の上をゆっくりと流れ、

その向こうに工場の煙突が立つ。

刃物の町。静かで、無駄がない。

よく切れる刃ほど、音を立てない。


今回、前に立ったのはあかりだった。


玲奈が消えてから、あかりは変わった。

以前なら、怒りのまま突っ込んでいた。

今は違う。


彩香は出発前に言った。


「焦るな。

冷静さは、玲奈さんが一番大事にしてたもんや。」


あかりは頷いた。


「分かってる。」


その声は低く、無駄がなかった。


小野市郊外の工場地帯。

老舗刃物メーカーの看板を掲げる倉庫。

表は金属加工。

裏では、通信妨害装置の組立。


県警無線を数分間遮断できる代物。

その“数分”が、玲奈を奪った。


NSTは夜明け前に包囲した。


澄香が監視カメラを沈黙させる。

美咲が裏口を確保。

彩香は外周を押さえる。


あかりが中へ入る。


油と鉄の匂い。

床に落ちた削りカス。

だが奥に進むほど、空気が違う。


倉庫の一角、

簡易的なパーテーションで区切られた小部屋。


鍵は外側。


あかりの指が止まる。


「……ここや。」


扉を開ける。


中は狭い。

折りたたみ椅子。

壁に固定金具。


そして床に、白い擦れ跡。


あかりはしゃがみ込む。


ブーツの先が擦れたような跡。

細い金色の糸屑。


カラーガード隊の制服に使われる装飾糸。


壁には、微かな傷。


縛られたまま動こうとした形跡。


胸が締め付けられる。


「玲奈さん……ここに居たんやな。」


怒りが込み上げる。

だが、あかりは拳を握らない。


代わりに写真を撮る。

傷の角度を測る。

繊維を採取。


「感情は後や。」


自分に言い聞かせる。


そのとき、工場奥から物音。


二人組の男が戻ってきた。


あかりは柱の影へ滑り込む。

呼吸を止める。


以前なら飛び出していた。


今は待つ。


男たちの会話。


「次の搬送は港経由や。」


「人の件も一緒か?」


「Phase-2や。」


心臓が跳ねる。


録音。

静かに、確実に。


その瞬間。


明るい声が倉庫入口から響いた。


「あれ?あかりちゃん?」


最悪のタイミング。


さつき。


地元放送局・神戸放送の情報番組リポーター。

“播磨の伝統工芸特集”でこの工場を取材中。


カメラマンとスタッフが後ろにいる。


「刃物ってすごいんよね~。

あかりちゃん、何してるん?」


倉庫内の男が顔を上げる。


あかりの血が一瞬で冷える。


だが動かない。


静かに、柱の影から出る。


「取材の手伝い。」


平然と言う。


さつきは首を傾げる。


「え?あかりちゃん、いつから?」


男たちが近づく。


「関係者ですか?」


あかりは即座に笑顔。


「イベント連携の確認で。」


堂々と目を合わせる。


男は数秒見つめ、

やがて肩をすくめる。


「見学は表だけでお願いします。」


さつきはにこやかに頷く。


「すみません~!」


男たちが去る。


あかりは小声で言う。


「今すぐ外へ。」


さつきはまだ状況を知らない。


「え、どうしたん?」


「あとで説明する。」


倉庫を出る。


車に戻ると、彩香が見た。


「痕跡は?」


あかりは端末を差し出す。


「監禁部屋。

傷、繊維、録音。

玲奈さんはここを通った。」


車内が静まる。


美咲が小さく言う。


「まだ、近い。」


あかりは続ける。


「搬送は港経由。

Phase-2や。」


彩香の目が鋭くなる。


「線が繋がった。」


あかりは窓の外を見る。


田園の朝。

子どもが通学している。


何も知らない町。


だがこの静かな町の裏で、

リーダーは拘束されていた。


あかりは呟く。


「玲奈さんは、絶対諦めてへん。」


怒りはある。

だがそれに溺れない。


冷静さは、刃物のように研がれている。


そのとき、後方から走ってくる影。


美月ではない。


さつきだ。


息を切らしながら言う。


「ねぇ、あかりちゃん。

さっきの、何かあったん?」


あかりは一瞬迷う。


だが笑う。


「仕事や。」


さつきは真剣な顔になる。


「危ないこと?」


あかりは答えない。


ただ車に乗り込む。


NSTの車が発進する。


小野の町は静かだ。


だが静けさの裏で、刃は磨かれている。


あかりはもう、突っ込むだけの少女ではない。


玲奈の背中に追いつくために、

自分の刃を静かに研いでいる。


次の港で、

必ず捕まえる。


そう決めて、あかりは目を閉じた。

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