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西日本特別諜報班 NST 影の特命  作者: スパイク


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静寂の住宅街、消えない信号

三田の夜は、静かすぎる。


ニュータウンの整った街路樹。

均一に並ぶ家々。

子どもの自転車が玄関先に倒れたまま、風も鳴らない。


神戸と大阪の間にある、穏やかなベッドタウン。

その地下に、県を揺らす信号が流れている。


今回、前に立ったのは美咲だった。


春日美咲。奈良市出身。

派手さはない。

能力は平均的。

だが均整が取れている。

目立たないことが、最大の武器。


彩香は短く言った。


「この町で騒いだら終わりや。

美咲、任せる。」


美咲は頷いた。


「了解です。」


地下駐車場の奥。

一見すると空き家のガレージ。

だが外壁に走る微かな熱源。

通信の波が微弱に揺れている。


ここが中継拠点。


玲奈が失踪した直後から活発化した通信。


県警の内部通信を盗聴し、

NSTの動きも解析している可能性。


美咲は物音ひとつ立てずに裏口へ回る。

鍵の構造は単純。

焦らない。

呼吸を整える。


“急ぐな。確実に。”


ドアが開く。


地下室へ続く階段。

冷たい空気。


サーバーラックが並ぶ。

LEDが青く瞬く。


澄香が囁く。


「警備なし。自動化。」


あかりが眉をひそめる。


「罠くさいな。」


美咲は首を振る。


「静かな場所ほど、油断します。」


サーバー端末へ接続。

データ吸出し開始。


ログの列が走る。


数字、英字、暗号化された羅列。


美咲の目が止まる。


「……これ。」


海外IP。

通常の経由地ではない。


国交のない権威主義国家。

公式な通信は存在しないはずのルート。


暗号文の一部。


“FG-01 Transfer / Coastal Departure / Phase Delta”


FG-01。


玲奈のコードネーム。


空気が凍る。


あかりが低く言う。


「……海外移送?」


彩香は画面を見つめたまま答えない。


確証はない。

だが符合が多すぎる。


“Coastal Departure”


港から出る。


高砂、明石、西脇。


線が一本になる。


美咲は解析を続ける。


「時刻は……未定。

ただ“準備完了次第”と。」


彩香が拳を握る。


「くそ……。」


玲奈は、兵庫から連れ出されるかもしれない。


最年長で、誰よりも背中で示してきたリーダー。


あの人を、国外へ。


美咲が静かに言う。


「今は証拠を確保します。

推測で動けば、逆に消されます。」


その声は穏やかだが、芯があった。


彩香が頷く。


「そうやな。

冷静にや。」


データをコピー。

証拠確保。


サーバーに痕跡を残さず、撤退。


ニュータウンの夜は変わらない。


犬の散歩をする老人。

コンビニの明かり。


だがNSTの胸には、重い影が落ちていた。


車に戻る。


誰も口を開かない。


あかりが低く言う。


「もし……海外やったら。」


彩香は遮る。


「まだ確証はない。」


だがその声にも、震えが混じる。


玲奈を守れなかったかもしれない。


その可能性が、全員の表情を険しくする。


そのとき。


やけに明るい声。


「え、ちょっと待って!」


美月。


振り返ると、住宅街の角。


美月とさつきが、カメラを連れて立っている。


雑誌企画。


「住宅街の三田牛グルメ」。


まさにこの通りの奥に名店があるらしい。


美月が手を振る。


「そない眉間にしわ寄せて揃いも揃って何を難しい顔してるん?」


NST全員、固まる。


さつきが満面の笑み。


「そこの三田牛、めっちゃ美味しかったんや。

なぁ美月。」


「ほんまや!柔らかくてな、口の中で溶けるねん!」


彩香は目を閉じる。


今、この瞬間に三田牛の話か。


あかりのこめかみに青筋が浮かぶ。


「今はそれどころちゃうねん。」


だが言えない。


任務は極秘。


美咲は小さく息を吐く。


「……元気ですね。」


美月は近づく。


「なんや、みんな暗いで?

せっかく美味いもん食べたんやから笑わな!」


さつきも笑う。


「三田は穏やかな町やね。

こんな静かな場所で怖い顔してたら浮くで?」


その言葉が、逆に胸を刺す。


静かな町。


その地下で、玲奈は国外へ送られるかもしれない。


怒りと無力感が、NSTの胸に渦巻く。


美月は気づかない。


無邪気な笑顔。


それが余計に腹立たしい。


あかりが小声で言う。


「空気読めや……。」


彩香が制する。


「やめとけ。」


美咲が一歩前へ出る。


「美味しかったなら、よかったですね。」


その声は穏やかだった。


強がりでもなく、皮肉でもない。


ただ事実として受け止める。


美月はにっこり。


「せやろ!今度一緒行こな!」


NSTの車が動き出す。


住宅街の街灯が流れる。


車内は重い。


だが美咲が言う。


「まだ間に合います。」


全員が顔を上げる。


「確証がない。

だからこそ、止められます。」


地味な彼女の目が、静かに燃えていた。


ニュータウンは静寂を保つ。


だが地下を走る信号は、まだ消えていない。


玲奈はどこかで待っている。


その残響を、NSTは聞き逃さない。


三田の夜は静かだ。


静かすぎるからこそ、戦いは深くなる。

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