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西日本特別諜報班 NST 影の特命  作者: スパイク


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織られた沈黙

西脇の朝は静かだ。


播州織の町。

糸の音と機械の律動が、風景に溶けている。

日本のへそと呼ばれるこの土地は、派手さがない。

だからこそ、目立たずに金が流れる。


今回の主役は、あかりだった。


玲奈が消えてから、あかりは前のめりになっていた。

殴り込みたい衝動を抑えきれない。

だが彩香は言った。


「突っ込むな。見るんや。

冷静さが一番の武器や。」


その言葉が、今も耳に残っている。


目の前の繊維工場は、老舗の顔をしている。

暖簾はきちんと整い、見学ルートもある。

だが裏口には、場違いな高級外車が止まる。


あかりは作業着に身を包み、搬入口から滑り込んだ。


機織り機の規則正しい振動。

油の匂い。

糸くずが舞う空気。


帳簿室へ辿り着く。


棚に並ぶファイル。

企業ロゴの下に並ぶ数字。


売上にしては桁が違う。

繊維の利益では説明がつかない金額。


「……マネー・ローンダリングやな。」


裏金が、織物の売上に偽装されている。

県内の資金がここを経由し、再び別口座へ。


玲奈が追っていた線と一致する。


あかりは深呼吸する。


前なら、机を蹴っていただろう。

だが今は違う。


写真を撮る。

データを吸い上げる。

証拠は静かに奪う。


そのとき、床の隅で何かが光った。


糸くずの間に、金色。


あかりはしゃがみ込む。


金ボタン。


磨き込まれた縁。

裏の刻印。


カラーガード隊の制服。


玲奈の胸元に並んでいた金ボタンと同じ型。


手が震える。


「玲奈さん……ここにも……」


ここで拘束され、どこかへ移された。


あの人は最後まで抵抗したはずだ。

その証のように、ボタンが落ちている。


怒りが込み上げる。


だが彩香の声が蘇る。


“冷静に。”


あかりは拳を開く。


「今は取り返す準備や。」


無線が入る。


「外に動きあり。」


澄香の低い声。


あかりは帳簿データを転送し終える。


その瞬間、背後から明るい声。


「あかりちゃん?」


心臓が跳ねる。


振り返ると、さつきが立っていた。


雑誌の撮影用に、上品な装い。

カメラマンと編集者が数歩後ろ。


「こんなところで何してるん?」


最悪のタイミング。


さつきは悪気がない。

本当に偶然だ。


「播州織ファッション特集でね、

この工場、老舗なんやって。」


あかりの背後には帳簿。

足元には金ボタン。


警備員がこちらに視線を向ける。


一瞬で、あかりは笑顔を作る。


「え、あー……その、取材の下見?」


自分でも苦しい。


さつきは首を傾げる。


「え?あかりちゃん、モデルやったっけ?」


編集者がメモを取り始める。


警備員が歩み寄る。


「何の御用ですか。」


空気が張り詰める。


あかりは瞬時に切り替える。


「すみません、

衣装協力の確認で。」


堂々と名乗る。


「西日本特別……」


言いかけて止める。


「……イベント運営の者です。」


警備員は訝しむ。


その間に、あかりは金ボタンをポケットへ滑らせた。


さつきが無邪気に言う。


「この子、知り合いなんです。

すごく真面目なんですよ。」


その一言で、空気が少し緩む。


警備員は渋々引く。


あかりは小声で言う。


「あとで説明する。」


さつきはきょとん。


「え、何の?」


あかりはもう振り向かない。


倉庫の裏口へ抜け、NSTの車両へ飛び込む。


ドアが閉まる。


彩香が前を向いたまま言う。


「証拠は?」


あかりはデータ端末を差し出す。


「全部取った。

あと、これ。」


金ボタンを見せる。


車内が静まり返る。


美咲がそっと言う。


「玲奈さんの……」


あかりは頷く。


「ここに居た。

絶対に。」


怒りはまだ消えていない。

だが暴走はしていない。


冷静さを学んだ。


彩香が短く言う。


「ようやった。」


それだけで十分だった。


車は西脇の田園を抜ける。


機織り機の音が遠ざかる。


糸は織られ、布になる。

だが裏で織られた金の流れは、NSTが断ち切る。


あかりは窓の外を見る。


玲奈はまだどこかで戦っている。


最年長のリーダーに恥じないように。


「次、止めるで。」


声は低く、静かだった。


播州の町は何も知らず、今日も糸を紡ぐ。


だがその沈黙の奥で、

NSTは確実に、闇の織物をほどいていた。

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