表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
西日本特別諜報班 NST 影の特命  作者: スパイク


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/42

赤灯は海に沈まず

高砂の夜は、鉄と塩の匂いがする。


瀬戸内の波は穏やかだが、工場群の煙突は無機質に空を切り裂く。

赤い警告灯が等間隔で瞬く。

まるで海に浮かぶ血の点滅。


NSTが掴んだのは、化学原料として搬入されるコンテナの一群。

名目は樹脂添加剤。

だが成分は違う。

薬物精製の前駆物質。


資金源。


元県知事一派は、港を握ることで県を締め上げるつもりだ。


臨時リーダー、西川彩香。


鉄の街・姫路で育った女は、無駄を嫌う。


「搬出は二十三時三十分。

潮位が上がるタイミング。」


澄香の報告。


「監視カメラの死角は三か所。」


澪香が続ける。


彩香は頷く。


「ここで止める。

玲奈の線もここや。」


ポートアイランドで消えたコンテナと、同じ業者。

同じ輸送コード。


港は繋がっている。


夜の高砂港。

クレーンが静かに動く。


彩香は作業員に紛れ、コンテナ列を追う。


そのとき。


「映像、来た。」


あかりがタブレットを差し出す。


粗い監視カメラ映像。

ポートアイランド倉庫内。


ノイズ。

ブレ。


そして――


白。


白いロングブーツ。


濃紺のジャケット。


両腕を背後で拘束され、引き立てられる後ろ姿。


カラーガード隊員の衣装。


顔は見えない。


だが、あの立ち姿。


「……玲奈さんや。」


彩香の喉が乾く。


画質は荒い。

確証はない。


それでも、分かる。


旗を掲げていた背中。


市民の憧れだった後ろ姿。


あれが――拘束されている。


一瞬、世界の音が消える。


あかりが言う。


「彩香さん……」


彩香は画面を閉じる。


「生きとる。」


短く。


「なら、取り返す。」


目はもう揺れていない。


その直後、無線。


「搬出開始。」


コンテナがトレーラーに載せられる。


NSTは動く。


澄香が後方を遮断。

澪香がドライバーを制圧。

あかりが荷台へ飛び乗る。


彩香は先頭車両へ。


運転席の男がナイフを抜く。


「ジャマスルナ。」


低い、カタコトの日本語。


彩香は踏み込む。


肘打ち。

膝蹴り。

ドアを叩き開け、男を引きずり出す。


鉄の街で育った女の動きは鋭い。


コンテナ内部。


薬品タンク。


その奥、もう一つの空間。


人を運べるサイズ。


「……くそ。」


玲奈は、ここを通った。


遅れた。


そのとき。


海側から、やたら明るい音楽。


軽快なBGM。


観光クルーズ船。


甲板から声が響く。


「彩香ぁぁぁー!!」


最悪だ。


CS旅番組「工場夜景クルーズ特集」。


美月。


船の上で手を振っている。


ライトに照らされ、丸見え。


「何してんのー!?夜景好きやったっけー!?」


港湾作業員も警備員も振り向く。


彩香は天を仰ぐ。


澄香が小声で言う。


「目立ちすぎ。」


あかりが吹き出す。


「うわ、バレる。」


彩香は歯を食いしばる。


「……後で覚えとけ。」


だがその混乱が、逆に功を奏する。


作業員の視線が一斉に海へ。


その隙にNSTは証拠を確保し、輸送を止める。


トレーラーは動かない。


薬物原料は押収。


資金源の一角を潰した。


クルーズ船はゆっくり遠ざかる。


美月はまだ手を振っている。


「夜景サイコー!」


彩香は小さく呟く。


「ほんま、サイコーやな……」


だが目は、海ではなくコンテナを見ている。


粗い映像の後ろ姿。


白いブーツ。


赤い警告灯が海面に反射する。


玲奈はまだどこかにいる。


彩香は夜空を見上げる。


煙突の赤灯は消えない。


沈まない。


「次行くで。」


NSTは再び影に溶ける。


高砂の海に、赤い航跡が残る。


それは血ではない。


覚悟だ。


西日本特別諜報班 NST。


リーダー不在。


だが旗は、まだ海に沈んでいない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ