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西日本特別諜報班 NST 影の特命  作者: スパイク


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34/73

欠けた隊列、増える影

玲奈の行方は、掴めない。


港湾監視カメラは切り取られ、物流記録は改竄され、倉庫の出入口は最初から“無かったこと”にされていた。

痕跡が残らないのではない。最初から残すつもりがない。


NSTは、追っている相手の格が変わったことを悟った。


ヒロ室西日本分室。

大阪府内の雑居ビル。表札も出さない部屋。


彩香は地図の上に指を置いたまま動かない。


「ここまで消されるか……」


澄香は無言でログを回し、澪香は端末の画面を見つめている。

あかりは椅子の背を握り潰しそうな勢いで、落ち着きなく貧乏ゆすり。


「警察は動かへんの?」


あかりが言う。


彩香は答えない。答えは分かっているからだ。


玲奈は“警部補へ昇進した”。

表向きは、警察学校での研修中。

箝口令が敷かれた。


それが真実であるはずがないとNSTは知っている。

だが、その嘘は盾になる。


玲奈が消えたことを“事件”にした瞬間、

敵にとっては狙い通りの騒ぎになる。

誰が味方で誰が内通者かも分からない。


だから、隠す。

捜索も、隠す。


彩香は椅子から立ち上がった。


「隊列を組み直す。」


「……どういうこと?」


澄香が聞く。


「玲奈が戻るまで、臨時リーダーは私。

でも一人足りへん。補充する。」


澪香が視線を上げる。


「誰?」


彩香は即答した。


「紀伊ハンターから一人呼ぶ。春日美咲。」


その名に、あかりが反応する。


「奈良のおっとりした子や。」


彩香は頷く。


美咲は凡庸。

突出した武器はない。

だが欠点も少ない。


オールラウンダー。


しかも鹿みたいに大人しく、上品で、真面目。

口が軽くない。


極秘任務に最適。


彩香は電話を取った。短い連絡だけで済ませる。


「来て。今すぐ。

理由は後で説明する。」


数時間後。


ドアが開き、美咲が頭を下げた。


「お呼びでしょうか。」


声は細いが、姿勢は真っ直ぐだ。


彩香は彼女を見た。


派手さはない。

だが、目が揺れていない。


「ここから先は、聞いたら戻れへん。

一歩踏み込んだら、君の“普通”は終わる。」


美咲は一拍置いて、静かに言った。


「……分かりました。

私は、必要なら……やります。」


あかりが横で腕組みしながら言う。


「美咲、うちら今めっちゃヤバいことしてるで。」


美咲は小さく頷く。


「覚悟は、します。」


彩香は短く説明した。


玲奈が消えたこと。

ポートアイランド。

薬物密輸と人身売買。

元県知事一派の影。


そして、兵庫県を守るという任務が続いていること。


「捜索と並行して、次の任務に入る。

敵は待ってくれへん。」


澄香が地図を指す。


「次の輸送。日付だけ出てる。場所が不明。」


澪香が補足する。


「港湾じゃない可能性。内陸へ流す。」


彩香が言う。


「だから美咲。

君は“目立たない目”として動いてもらう。

気配を消して、情報を拾う。」


美咲は真面目に頷いた。


「はい。」


結束が固まる。

部屋の空気が硬くなる。

息が揃う。


その瞬間。


ドアがまた開く。


「おーい!さつき!ここやここ!」


美月の声。


「お邪魔しまーす!」


さつきが続く。


最悪のタイミング。


美月は紙袋を掲げていた。


「差し入れ!なんか空気重いから、甘いもん買ってきたで!」


彩香の眉がピクリと動く。


澄香と澪香は無表情のまま、目だけで“来た”と言う。

あかりは口を押さえて笑いをこらえる。


さつきが首をかしげる。


「なんか……みんな、顔怖ない?」


美月がさらに踏み込む。


「なぁ彩香、最近あんた機嫌悪すぎやで。

またカレー甘口中辛の戦争でもしてるん?」


彩香は低く言った。


「……今、忙しいねん。」


美月は気にしない。


「忙しい?なんの?」


彩香の背中に冷たい汗が浮く。


“河内のスピーカー”。


ここで口を滑らせたら終わる。


美咲が小さく前へ出た。


「今日は……作戦会議です。」


さつきが目を丸くする。


「え、誰?」


美月が即答する。


「春日美咲。奈良出身の子や。さつきとは初めまして…やな。」


彩香が視線で釘を刺す。


美咲は上品に微笑む。


「春日美咲です。よろしくお願いします。」


美月が袋を開ける。


「ほな食べよ!

会議って腹減るし!」


澄香がぼそっと言う。


「……ここ、極秘基地なんだけど。」


美月は聞いてない。


さつきが苦笑する。


「美月、静かにしよ。」


美月は小声になったつもりで大声で言う。


「なぁ、NSTって何なん?

さっき机にメモ落ちてたで。」


全員の動きが止まる。


彩香の背筋が凍る。


澄香と澪香が同時に目を閉じる。


あかりが変な声を漏らす。


「え、うそ……」


美月は無邪気だ。


「なんかのテレビ局?新潟の?」


彩香は、瞬時に決めた。


「……そうや。」


さつきが首を傾げる。


「新潟?」


彩香は平然と続ける。


「“西日本、旅、取材”の略や。

西日本取材班。略してNST。」


でたらめだが、通った。


美月が納得する。


「あー!なるほど!

ほな今度新潟行くん?」


彩香は即答した。


「行かへん。」


美月が不満そうに言う。


「ええやん新潟。米うまいで。」


彩香は低く呟く。


「……頼むから黙って食え。」


その瞬間、あかりが机の上の菓子を掴んで口に放り込む。


「美味しい~」


緊張が少しだけ崩れる。


だが彩香は笑わない。


玲奈はまだ戻らない。

敵は動き続ける。


欠けた隊列。

増える影。


それでもNSTは止まらない。


彩香は美咲に視線を向けた。


「行くで。

玲奈を探して、兵庫を守る。」


美咲は小さく、しかし確かに頷いた。


「はい。守ります。」


その隣で美月が言う。


「なぁ彩香、ほんまに新潟行かんの?

私行きたいわ~」


彩香のこめかみが痙攣する。


「……後でな。」


影の仕事は、

今日も騒がしい。

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