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西日本特別諜報班 NST 影の特命  作者: スパイク


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鉄の娘、覚悟の夜

大阪府内。

ヒロ室西日本分室。


窓の外は雨。


モニターにはポートアイランドの衛星画像。

倉庫群の光点が、冷たく瞬いている。


通信ログは途絶えたまま。


「最終応答、二十三時四分。」


澄香の声は低い。

澪香は無言で地図を睨む。


あかりは壁を拳で叩きたい衝動を抑えている。


玲奈――

絶対的リーダー。


その不在は、空気を重くする。


そのとき。


「彩香、来い。」


波田顧問の声が会議室に響く。


彩香が立ち上がる。


扉が閉まる。


室内は静寂。


波田は真正面から告げる。


「玲奈救出作戦の陣頭指揮を取れ。」


一瞬、呼吸が止まる。


「もし……」


波田は言葉を選ばない。


「玲奈が戻らなかった場合、お前がリーダーだ。

迫田ツインズとあかりを引っ張れ。」


21歳。

女子大生。


重い。


だが逃げ場はない。


「……了解です。」


声は震えない。


だが胸の奥が焼ける。


ヒロ室を出た瞬間、父の声が蘇る。


大日本製鉄広畑。

俊足巧打の名外野手。

日の丸を背負い、五輪銅メダル。


西川剛史。


「覚悟がないなら戦隊ヒロインなんかやるな。」


あの夜、父は言った。


「オマエはもう私の娘やない。

これからは姫路市民50万人、大日本製鉄グループ10万人の代表になる。

オマエの軽はずみの行動は何十万人もの人々の顔に泥を塗ることになる。

それでもええんやな。」


厳しかった。


だがその背中は、常に準備を怠らなかった。


晩年、代打の切り札。


若手に混じって誰よりも走った。


鉄鋼不況で休部の噂が出たときも、

黙ってトレーニングを続けた。


都市対抗野球代表決定戦。

代打で放った殊勲打。


姫路の顔だった父の現役時代は知らない。

だが噂は嫌というほど聞いた。


「常に準備を怠るな。

準備をしてきた者だけが舞台に立つ資格がある。」


彩香は目を閉じる。


愛する姫路。

兵庫。


守る。


逃げない。


会議室に戻る。


澄香、澪香、あかり。


三人の視線が集まる。


「玲奈さんは必ず取り返す。」


短く、鋭く。


「兵庫も守る。

覚悟ない奴は今言え。」


沈黙。


あかりが拳を握る。


「行く。」


澄香が頷く。


「了解。」


澪香も同じ。


空気が変わる。


そのとき。


バタン、と扉が開く。


「551の豚まん買ってきたで~!」


美月。


さつきも後ろで笑っている。


「そない辛気臭い顔せんと、あったかいうち食べようや~」


最悪のタイミング。


彩香と迫田ツインズは同時に言う。


「あとで食べる。」


美月の顔が曇る。


「冷めたら美味くないやん……」


彩香が即答。


「551は冷めても美味いんや。」


戦闘開始。


「いや、蒸したてが至高やろ!」


「味は変わらん!」


「変わるわ!」


ヒロ室名物。


レベルの低すぎる論争。


澄香が小声で言う。


「また始まった。」


さつきが苦笑する。


あかりはその横で、すでに一つ開けている。


「美味しい~」


もぐもぐ。


二つ目。


三つ目。


「あかり!それ私の!」


「え?」


彩香が叫ぶ。


「それ、ウチの分や!」


あかりは口いっぱいに言う。


「準備は大事やろ?先に食べとく。」


沈黙。


一瞬。


そして美月が吹き出す。


さつきも笑う。


澄香が肩を揺らす。


彩香は額を押さえる。


だが、目はもう揺れていない。


「……しゃあない。」


立ち上がる。


「作戦会議や。

玲奈、取り返すで。」


豚まんの湯気が、部屋に立ちのぼる。


覚悟は決まった。


鉄の娘は、もう迷わない。


西日本特別諜報班 NST。


リーダー不在。


だが、隊列は崩れない。


次は、奪還だ。

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