表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
西日本特別諜報班 NST 影の特命  作者: スパイク


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/42

白いタイルの下を走る影

地下は、いつだって正直だ。


地上がどれだけ華やかでも、

その下では無機質な風が吹いている。


神戸市営地下鉄。

白いタイルの壁、整然としたホーム。


昼下がり。


「本日は神戸の地下を、ぶらり途中下車していきます。」


さつきが穏やかに微笑む。


CS旅番組の乗車レポート。


将来は女子アナ志望。

声のトーンは安定し、言葉は上品に整えられている。


「この路線は、山と海を結ぶ大動脈。

車窓は地下ですが、街の鼓動を感じられますね。」


完璧だ。


カメラマンも頷く。


だがNSTが掴んだ情報は、別の鼓動だ。


地下トンネル内に設置された信号妨害装置。

列車を非常停止させ、群衆を混乱に陥れる計画。


黒幕は、例の元県知事。


今回の任務担当は西川彩香。


播州育ちの鋼の女。


「装置は三宮―新神戸間の保守区画。」


イヤーピース越しの指示。


「列車間隔六分。

作業時間は四分以内。」


彩香は作業員風の帽子を深く被る。


工具バッグ。

視線は低い。


地下は湿った空気が漂う。


そのとき。


「あれ?」


階段を上がった先のコンコースで、さつきが足を止める。


「あれ、彩香やない?」


彩香は凍る。


カメラも一緒だ。


「彩香、何しよん?」


緩い阿波弁。


柔らかいが、確実に聞こえる。


彩香は振り向く。


「今、忙しいねん。」


素っ気ない。


いつも通り。


さつきは笑う。


「ほうなん?

相変わらずやなあ。」


気にしない。


カメラに向き直る。


「こちらは地下鉄の保守通路。

普段は入れない特別な場所ですね。」


最悪だ。


偶然にも核心に近づく。


彩香は低く呟く。


「ほんま、タイミング悪すぎやろ……」


イヤーピースで仲間が息を呑む。


さつきは無邪気だ。


「地下って、なんやワクワクしますよね。」


完璧な笑顔。


上品なレポート。


その背後で、彩香は保守扉を開ける。


薄暗いトンネル。


信号ケーブルに取り付けられた黒い装置。


点滅。


列車接近音が遠くから響く。


さつきの声が地上で流れる。


「神戸の地下は、整然としていて美しいですね。」


美しい、か。


彩香は工具を握る。


配線を見極める。


誤れば列車は止まる。


四分。


列車通過まで残り二分半。


汗が一滴落ちる。


地上ではさつきが改札を抜ける。


「次は途中下車して、街を散策します。」


軽やか。


人生は明るい。


地下は暗い。


彩香は配線を切る。


装置のランプが消える。


列車が轟音を立てて通過。


正常。


「解除完了。」


短く報告。


イヤーピース越しに安堵の息。


コンコースへ戻ると、さつきが待っている。


「終わったん?」


「仕事や。」


「ほうなんや。

地下、冷えるけん気ぃつけなよ。」


優しい。


何も知らない。


カメラが回る。


「神戸の地下鉄は、人の流れを支える大切な存在。

日々の安心は、こうした見えない努力で守られています。」


偶然だが、真実に近い。


彩香は一瞬だけ、さつきを見る。


「努力、な。」


地下は静かだ。


妨害装置はもうない。


白いタイルの上を、乗客が歩く。


さつきは最後に微笑む。


「地下の旅も、ええもんですね。」


その言葉の裏で、彩香は思う。


地下には光はない。


だが、走らせ続ける影がいる。


西日本特別諜報班 NST。


白いタイルの下で、

影は今日も列車を守る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ