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西日本特別諜報班 NST 影の特命  作者: スパイク


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29/72

檻の向こうに潜む静寂

山の麓にある古い公園。

動物園の金網越しに、獣の匂いが漂う。


その隣の球技場では、関西大学連盟のアメリカンフットボールのリーグ戦が行われていた。


秋晴れ。

芝は深く、観客席は学生たちの熱気で揺れている。


「ディーフェンス!ディーフェンス!」


チアリーダーの輪の中心で、美月が声を張り上げる。


白と青のユニフォーム。

ポンポンが陽光を弾く。


彼女は本気だ。

応援は、戦いだと信じている。


激戦。

第四クォーター残り三十秒。


逆転を狙ったパスは、インターセプト。


試合終了の笛。


スタンドにため息が落ちる。


美月は唇を噛む。


「くっそ……!」


悔しさが溢れる。


だがNSTが追っているのは別の試合だ。


動物園再整備に反対するデモ隊。

その中に元県知事派の工作員が紛れている。


狙いは通信妨害装置。

市街地ドローン管制を混乱させる算段。


主人公は迫田澪香。


群衆の中に溶け込み、淡々と標的を探す。


デモのシュプレヒコールが響く。


「再開発反対!」


だが澪香の目は、旗ではなく配線を追っていた。


植え込みの奥、仮設スピーカーの下。


違和感。


そのとき――


「澄香?」


最悪の声。


振り向くと、ポンポンを持った美月が立っている。


まだチア姿のまま。


澪香は一瞬だけ目を伏せる。


「そう。」


それだけ答える。


美月は疑わない。


「なんや、今日も仕事?」


「うん。」


淡々。


イヤーピースから彩香の低い声。


「……なんであいつは毎回おるんや。」


澪香は視線を逸らす。


デモ隊の中心で、工作員が装置を起動しようとしている。


タイミングは最悪。


人が多い。


だが――


「もう一回エール送るわ!」


美月が突然、ポンポンを振り上げる。


「フレー!フレー!」


デモ隊の中央に突入。


学生ノリの全力エール。


デモ参加者が一瞬戸惑う。


リズムに引き込まれ、ざわつく。


シュプレヒコールが乱れる。


工作員の視線が逸れる。


その隙。


澪香が装置に滑り込む。


ケーブルを抜く。


起動ランプが消える。


無音。


混乱は起きない。


デモは、なぜか応援合戦みたいになっている。


「なにこれ!?」


学生とデモ隊がリズムを合わせ始める。


シュプレヒコールは、いつの間にか掛け声に変わっている。


澪香は工作員を制圧。


彩香の声が低く響く。


「完了か。」


「うん。」


公園の檻の中で、ライオンが欠伸をする。


爆発も妨害もない。


代わりに響くのは、なぜか応援のコール。


試合に負けて悔しそうだった美月は、もう笑っている。


「なんや、盛り上がってきたな!」


澪香はポンポンを一瞬見つめる。


偶然。


だが、任務は成功。


彩香が通信越しに吐き捨てる。


「美月……ホンマにエエ加減にせえよ。」


播州弁はヤクザより怖い。


だがどこか呆れが混じる。


澪香は短く言う。


「助かった。」


美月は意味も分からず笑う。


「なんの話?」


檻の向こうで、獣が低く唸る。


人間の檻は、もっと見えにくい。


群衆、思想、憎悪。


その隙間に潜む影を、NSTは静かに潰す。


球技場は静まり、夕日が落ちる。


チアの衣装のまま、美月は肩を落とす。


「次は勝つ。」


澪香は小さく頷く。


「うん。」


動物園の檻の影で、

もう一つの戦いは終わっていた。


爆音は鳴らず、

残ったのは、少しだけ滑稽なエール。


西日本特別諜報班 NST。


群衆のざわめきの奥で、

静寂は守られる。

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