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西日本特別諜報班 NST 影の特命  作者: スパイク


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27/38

歓声の外側にある引き金

山に抱かれた球場は、夕暮れの風を受けて静かに呼吸している。


天然芝は深い緑。

外野席の向こうに、ゆるやかな稜線。


ナイトゲーム。

黒いビジターユニフォームの一団がレフトスタンドで波打っている。


「いけぇぇぇ!」


その中心に、美月がいた。


黒いユニフォームに身を包み、手を叩きながら絶叫している。


「今日は絶対勝つで!」


山の球場に応援が反響する。


だがNSTが掴んだ情報は別だ。


山林に潜む狙撃手。

VIP席に座る元県幹部を標的にした“見せしめ”。


撃てば、群衆は混乱する。

混乱すれば、また元県知事の影が世論を操る。


主人公は迫田澄香。


双子の片割れ。

無表情。

感情は必要なときだけ使う。


「山側、第三駐車場裏から侵入。」


イヤーピース越しに彩香の低い声。


「射線は三塁側上段。時間は七回表。」


澄香は黒いキャップを深くかぶり、球場外周を歩く。


そのとき。


「……あれ?」


焼きたてピザの匂いが漂うキッチンカー前。


ピザを買いに来た美月が、立ち止まった。


「なんで澪香が居るん?」


澄香は一瞬だけ目を細める。


「澄香は来てないよ。」


さらっと嘘をつく。


「え?じゃあ澪香?」


「そう。」


適当すぎる会話。


美月は疑わない。


「ここのピザ、石窯で焼いたん、美味いで。

澪香も買った方がええよ!」


任務直前にピザ営業。


澄香は一瞬だけ山側を見やる。


狙撃位置は確実にあそこだ。


「後で買うね。」


淡々と答える。


イヤーピースの向こうで彩香が吐き捨てる。


「美月はピザ食って寝とけや……」


呆れが混じる播州弁。


だが笑う暇はない。


澄香は山道へ消える。


ナイトゲームの照明が、背中を白く照らす。


山林は暗い。


風の音だけ。


だがそこに、金属の匂いがある。


「確認。」


低く呟く。


草むらの奥。

三脚。

長い銃身。


男が息を整えている。


七回表。

観客が立ち上がる。


山からはスタンドが一望できる。


「あと三秒。」


男の指が引き金へ。


その瞬間。


澄香は足音を消して間合いを詰める。


銃口がわずかに揺れる。


肘を叩き、銃を逸らす。


無音の衝突。


土に転がる二人。


銃声は――鳴らない。


澄香がボルトを外し、部品を蹴り散らす。


男の腕を極める。


「終わり。」


冷たい声。


下界から歓声が上がる。


ホームラン。


スタンドが爆発する。


銃声ではなく、歓声。


それが山を震わせる。


澄香は男を拘束し、通信。


「完了。」


彩香の声が落ち着く。


「ご苦労さん。撤収や。」


山を下る途中、また匂いがする。


石窯ピザ。


球場外へ戻ると、美月が手を振っている。


「澪香ー!勝ってるで!」


ピザ片手に満面の笑み。


「食べる?」


澄香は少しだけ考える。


任務は終わった。


山の球場は、銃声を知らない。


「一切れ。」


美月は驚く。


「え、食べるん?」


「後で買う言うたから。」


淡々。


スタンドからまた歓声。


黒いユニフォームが跳ねる。


彩香が無線でぼやく。


「ほんま、あいつら……」


だが声はどこか柔らかい。


山の球場に響くのは、無音の銃声ではない。


白球と歓声。


そして、誰にも知られない影の仕事。


西日本特別諜報班 NST。


歓声の外側で、

引き金は静かに止められる。

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