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西日本特別諜報班 NST 影の特命  作者: スパイク


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鳴らない汽笛の向こう側

淡路島の港町は、朝が早い。


漁船が戻り、氷の匂いが風に混じる。

市場には鯛とタコ、そして山のような玉ねぎ。

海と土が、ここでは隣り合って生きている。


その日も、港は賑わっていた。


「淡路島の玉ねぎ、甘さが罪やでぇぇ!」


マイク片手に大声を上げる美月。


CS放送のグルメ旅番組。

今日は海鮮と玉ねぎの特集だ。


「この鯛、身がぷりっぷりや!

玉ねぎと一緒に食べたら優勝や!」


カメラが回り、スタッフが笑う。


だがその港の奥、制御塔では別の“静けさ”が進行していた。


防災警報システムの改ざん。


津波や高潮の警報が、緊急時に鳴らないよう細工されている。


鳴るべき汽笛が、鳴らない。


それは街を無防備にする。


「制御塔内部、侵入可能。」


玲奈の声がイヤーピースに落ちる。


「時間ないで。」


彩香が短く言う。


今回の主人公は、山本あかり。


そして今回も、指示を待たない女だ。


「了解っ!」


言った瞬間、すでに走り出している。


制御塔の外階段を駆け上がる。


「待て言うてへんやろな!」


彩香の声が飛ぶ。


「大丈夫やって!」


大丈夫の根拠は、いつもない。


制御室のドアを蹴る。


中には制御盤と監視モニター。


不自然な増設ケーブル。


「やっぱりな。」


その瞬間――


下から声。


「あかりぃぃぃ!」


最悪のタイミング。


あかりは窓から覗く。


下に美月。


両手を振っている。


「何してんのぉぉ?」


港中に響きそうな声。


「仕事ぉぉ!」


あかりも叫び返す。


「何のぉぉ?」


「玉ねぎの研究ぉぉ!」


適当すぎる。


制御室の中、男が振り向く。


実行犯。


遠隔で警報制御を書き換え中。


あかりは一瞬で距離を詰める。


男がナイフを抜く。


「待て!」


だがあかりは止まらない。


机を蹴り上げ、体当たり。


二人が床に転がる。


下からまた声。


「危ないでぇぇ!」


美月、状況が分かっていない。


男の手からナイフを叩き落とす。


肘打ち、制圧。


制御盤へ飛びつく。


「コード逆転やろこれ。」


配線を切り、再起動。


警報システムを手動へ戻す。


その時、港の汽笛が一瞬、試験音を鳴らす。


低い音。


正常だ。


「完了!」


イヤーピースに報告。


「無茶すな言うとるやろが!」


彩香の怒声。


「でも止まったやろ?」


あかりは息を整えながら笑う。


下では――


「なに今の音?演出?」


美月がスタッフに聞いている。


「さぁ……」


何も知らない。


あかりは階段を降りる。


「ほんま何してたん?」


美月が覗き込む。


「玉ねぎの未来守ってた。」


「意味わからんわ。」


だが深くは追わない。


「ほら、玉ねぎスープ飲みぃ!」


紙コップを差し出す。


あかりは受け取る。


甘い。


淡路の玉ねぎは、本当に甘い。


夕方。


グルメイベントは成功。


放送用カメラが夕陽を映す。


海は穏やかだ。


誰も知らない。


もし改ざんが成功していれば、

非常時に鳴るはずの警報が沈黙していたことを。


汽笛は鳴るべき時に鳴る。


それでいい。


美月は最後まで笑っている。


「あかり、次はタコやで!」


「了解っ!」


何も学んでいない。


彩香は遠くから頭を抱える。


「ほんま胃がもたんわ……」


だが安堵も混じる。


無鉄砲でも、生きている。


港町に鳴らないはずだった汽笛は、

静かに息を取り戻した。


西日本特別諜報班 NST。


海と玉ねぎの匂いの中で、

また一つ影が消えた。

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