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西日本特別諜報班 NST 影の特命  作者: スパイク


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鋼殻の中の無音

相生の朝は、潮の匂いで始まる。


瀬戸内の海は穏やかだが、造船所の中は別世界だ。

巨大な船体が骨格のまま横たわり、鋼板が重なり、火花が散る。

人の手で、海に浮かぶ都市を作る場所。


だが、その鋼の腹の中に“異物”が紛れ込んでいた。


建造中の大型フェリー。

航行データを外部へ送信する違法通信モジュール。

組み込まれれば、海路は丸裸になる。


「船は、喋らせたらあかん。」


迫田澄香は静かに言う。


今回の主人公は澄香。

冷静沈着、誤差ゼロの女。


昼間、作業員に紛れて造船所へ入る。

ヘルメット、作業服、工具バッグ。

完璧な偽装。


巨大な船体の内部へ滑り込む。


溶接音が響く中、澄香は配線経路を確認する。

図面にはない増設ケーブル。


「やはり。」


地下二層、制御室近く。


その時――


「うわぁぁ!でっか!」


場違いな声が響く。


澄香は一瞬、凍る。


造船所の外では牡蠣祭り。

地元の名物イベント。


そのゲストが、よりによって。


赤嶺美月。


「船で写真撮ろ!」


立入禁止区域に踏み込んでくる。


澄香は直前に“立入禁止”の看板を外していた。

警戒を緩めさせるためだ。


その結果がこれだ。


美月は船体を背景に自撮りを試み、

内部へ入り込む。


そして、ばったり遭遇。


「澪香?」


澄香は一瞬、無表情。


「澄香です。」


冷静な訂正。


「え、どっち?」


「澄香です。」


「そっか。ほな写真撮って!」


「今は無理です。」


背後で微かな電子音。


不審モジュールが起動準備。


澄香は即座に美月の肩を掴む。


「ここは危険です。」


「え?なんで?」


「鋼板が落ちます。」


嘘ではない。

可能性はある。


美月は素直に下がる。


だが完全には離れない。


「なんか怪しいなぁ。」


澄香は無視。


制御室へ進む。


船の内部は迷路だ。


配線の束。

冷たい鋼の匂い。


モジュールは船底近くに仕込まれている。


データ送信アンテナは外板と一体化。


巧妙だ。


「海は、静かやからな。」


澄香は呟く。


静かな場所ほど、情報はよく流れる。


装置を分解。


基板を取り出す。


その時、足音。


関係者に偽装した男。


「誰だ。」


澄香は即座に間合いを詰める。


工具を滑らせ、腕を制圧。


音を立てない。


男は崩れ落ちる。


外では――


「澄香ー!牡蠣食べよー!」


美月の声。


空気が台無しだ。


澄香は端末を破壊。


送信機能を停止。


イヤーピースに玲奈。


「完了か。」


「終わりました。」


「美月は?」


「牡蠣です。」


沈黙。


外に出る。


造船所のクレーンがゆっくり動く。


巨大な船体は何も知らない。


「何してたん?」


美月が牡蠣を片手に聞く。


「散歩です。」


「船の中で?」


「はい。」


「変わってるなぁ。」


澄香は微かに笑う。


「海は静かでなければいけません。」


「ふーん。」


牡蠣の殻がカチリと鳴る。


夕方。


牡蠣祭りは大盛況。


観光客の笑い声。


焼き牡蠣の香り。


誰も知らない。


船の腹から“声”が消されたことを。


澄香は港を見つめる。


静かな海。


航路は守られた。


美月が横で言う。


「今度は澪香も呼ぼな。」


「澄香です。」


即答。


相生の夕陽が、鋼板を赤く染める。


西日本特別諜報班 NST。


鋼殻の中で鳴りかけた音は、

再び沈黙した。

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