その一言が、全部バレる ― 河内のスピーカー潜入未遂線
神戸の街は、今日も何事もなかった顔をしている。
港は静かに動き、山は何も語らず、光だけが街を飾る。
だが――
その裏で走る“線”は、確実に存在していた。
そして今、その線に一番近づいてはいけない存在が、
一番近くまで来ていた。
赤嶺美月。
通称――河内のスピーカー。
「……絶対なんかある」
神戸のカフェで、美月はコーヒーを前に唸っていた。
(港、山、地下、医療……全部繋がっとるやろこれ)
あかりの“うっかり発言”は小さかった。
だが、美月にとっては十分すぎるヒントだった。
(彩香……何隠しとんねん)
その目は、もう完全に“狩る側”だった。
まず向かったのは、白浜麻衣。
「まいやーん」
「美月さん!」
ぱっと顔が明るくなる。
美月を慕う妹分そのものだった。
「最近どうなん?」
「普通ですよ」
柔らかい。
だが隙がない。
「なんか裏で動いてるやろ」
軽く踏み込む。
「……え?」
一瞬だけ、間。
(来た)
だが――
「子どもたちのイベント、増えてますね」
完全に逸らす。
しかも自然に。
「いやそういう話ちゃうねん」
「この前も公園で――」
話題を上書きされる。
(……強い)
この子、見た目に反して防御力が高すぎる。
しかも悪気ゼロ。
「美月さん、今度一緒に子どもイベント来ます?」
「いやそれ今ちゃうねん!」
完全に主導権を取られた。
次は、美咲。
綾乃の妹分。
奈良の静寂。
「美咲」
「はい」
「なんか隠してるやろ」
「いえ」
即答。
「絶対あるやろ」
「ないです」
顔色一つ変わらない。
(これ、尋問してる側が疲れるタイプや……)
「彩香、なんかやってるやろ」
「さあ」
はんなりと、完全防御。
(……終わりや)
そして本命。
迫田ツインズ。
同じ大学。
距離も近い。
「なあ、澪香」
「澄香やで」
「どっちでもええわ」
「よくないやろ」
軽くツッコまれる。
だがそのまま流される。
いつも通りだった。
「なんか最近、裏で動いてるやろ」
「知らんけど」
澄香。
「気のせいちゃう?」
澪香。
「いや絶対あるって」
「そうなん?」
「そうなんやろ」
会話が噛み合わない。
しかも――
どっちがどっちか分からないまま進む。
「で、さっきの話な」
「さっきってどっちの?」
「いや、えーと……」
(あかん、分からん)
二人とも同じ顔で笑っている。
(これ、わざとやろ……)
結局、情報ゼロ。
だが疲労だけは倍増。
最後の砦。
山本あかり。
彩香の妹分。
そして――最大の突破口。
「美月さん!」
素直に笑う。
(ここや)
「なあ、あかり」
「はい!」
「最近、彩香なんか変なことしてへん?」
一瞬、止まる。
(来た)
「いや、その……」
視線が泳ぐ。
(絶対や)
「なんかあるやろ」
「あの……」
踏み込む。
「正直に言うてみ」
あかりは、耐える。
彩香の言葉が頭にある。
“絶対に喋るな”
(あかん……でも……)
「別に大したことじゃ……」
(出た)
美月の目が光る。
「ほらな!」
「いや違うんです!」
焦る。
そして――
やってしまう。
「ちょっと港の方で、変な流れが――」
「あっ」
沈黙。
完全にやらかした顔。
美月はゆっくり頷く。
「なるほどな」
ピースがはまる。
「……ありがとうな」
あかり、顔面蒼白。
(終わった……)
その頃。
彩香は、すでに察していた。
「……あのアホ」
低い声。
「絶対やらかしたな」
玲奈が静かに言う。
「致命傷やない」
「せやけど入口は開いたで」
「想定内や」
その一言で、全員が理解する。
一方の美月。
神戸の夜景を見ながら、にやりと笑う。
「港、山、地下……」
「全部繋がっとるやん」
まだ全貌は見えていない。
だが、確実に近づいている。
「彩香……隠しても無駄やで」
その声に、悪意はない。
ただの――
好奇心。
神戸の夜は、何も変わらない。
だがその裏で。
知られてはいけない線に、
最も近づいてはいけない女が、
一歩ずつ近づいている。
そして――
その一言で、全部がバレる日が、
静かに近づいていた。




