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西日本特別諜報班 NST 影の特命  作者: スパイク


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山峡に消えた弾痕

宍粟の山は、音を飲み込む。


杉林が空を覆い、谷は深く、風の流れさえ読みにくい。

林業の街。木と水と火薬の匂いが混じる土地。


NSTが掴んだのは、山奥に設けられた“試射場”。


林業作業小屋に偽装された施設で、

違法弾道テストが行われている。


新型狙撃弾。

痕跡が残らない特殊加工。


「弾丸は撃たれてへん。消えとる。」


彩香は低く呟く。


鉄の街で育った女だ。

金属の匂いには敏感だ。


「単独で入る。」


玲奈の声がイヤーピースに落ちる。


「了解。」


彩香は山道を進む。


地面の踏み跡。

不自然に整地された一角。


狙撃用の土盛り。


その時――


「うわぁぁ空気うまっ!!」


山に似つかわしくない大声。


彩香は凍りつく。


振り向くと、ピンクのタオルを首に巻いた美月。


「彩香ぁぁぁ!」


森林セラピーイベントのゼッケンを付けている。


よりによって。


「何しとんねんお前!」


低く、重く、播州弁が炸裂する。


「山歩きや!森林セラピーやで!」


「帰れ!!」


「え?なんで?」


まったく悪気がない。


「ここ危ないねん!」


「熊おるん?」


「熊よりタチ悪いのがおるわ!」


美月はきょとん。


「彩香、顔怖いで?」


その瞬間、山奥で微かな金属音。


彩香は美月の肩を掴み、木陰へ引き込む。


「じっとしとれ。」


「なに?なんなん?」


林の奥に小屋。


窓から銃身が覗く。


弾丸が発射される。


乾いた音が、すぐに森に吸い込まれる。


木の幹に小さな穴。


痕跡が目立たない特殊弾。


「やっぱりな。」


彩香は低く呟く。


「お前は動くな。」


「なんで?」


「黙っとれ言うとるやろが!!」


ヤクザより恐ろしい怒声。


だが美月は平然。


「いつものやん。」


慣れている。


その隙に彩香は前へ出る。


地形を利用し、谷を横断。


足音を消す。


射撃手は再装填中。


彩香は背後へ回り込む。


一瞬で銃を叩き落とす。


関節を極め、地面に伏せさせる。


もう一人が小屋から飛び出す。


美月が大声で叫ぶ。


「彩香うしろ!」


彩香は振り向きざまに蹴りを入れる。


男は崩れる。


静寂。


森は何事もなかったように風を鳴らす。


彩香は銃を分解し、弾を確認する。


特殊合金芯。


「やっぱり鉄や。」


山の中で、金属の匂いは浮く。


イヤーピースから玲奈。


「制圧完了か。」


「終わりや。」


「美月は?」


彩香はため息。


「セラピーしとる。」


美月は木に抱きついている。


「癒やされるわぁ〜!」


「お前な……」


彩香は額を押さえる。


「ほんま、寿命縮むわ。」


「なんかあったん?」


「何もない。」


低く言い切る。


弾道テストは止まった。


違法試射場は押収。


山峡に刻まれた弾痕は、誰にも気づかれないまま消える。


帰り道。


美月は満足げ。


「彩香、森林セラピー最高やな!」


「……ああ。」


「今度一緒に来よな!」


「来んでええ。」


冷たい返事。


だがその横顔は、少し安堵している。


仲間が無事であること。


それが一番だ。


宍粟の山は、今日も静かだ。


だが森は知っている。


弾痕が消えた夜を。


西日本特別諜報班 NST。


影は木々の間を抜け、

何もなかったように街へ戻る。

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