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西日本特別諜報班 NST 影の特命  作者: スパイク


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202/242

境界の霧、二つで一つの影 ― 新温泉ツイン・ミラーライン

新温泉町。

兵庫県北西、日本海に面した静かな町。名の通り温泉が湧き、白い湯気が朝夕を問わず立ち上る。だがこの町の本質は、その“曖昧さ”にある。海と山に挟まれ、霧が出れば視界は数メートルで途切れる。音は近く聞こえても、距離は狂う。見えるものも、聞こえるものも信用できない――そんな場所だった。


黒鷹は、その曖昧さを利用していた。


同一貨物を二系統に分けて同時に動かす“ミラーライン”。

片方は囮、片方が本命。さらに温泉の蒸気と霧で熱源と視界を撹乱する。追う側は必ず判断を誤る。どちらを追っても、正解は半分しか掴めない。


その作戦に対し、玲奈は一言だけ告げた。


「……ツインズで割る」


迫田澄香、迫田澪香。

瓜二つの双子。

同じ顔、同じ声、同じ動き。


だが、その中身は違う。


「右、軽い」


澄香が言う。


「左、重い」


澪香が返す。


同時に見て、同時に違う視点を持つ。

その二つを重ねた時だけ、“本物”が浮かび上がる。


今回の任務は、彼女たちでしか成立しない。


霧が濃くなる。


視界が消える。


足音すら、どこから来るのか分からない。


「……見えへん」


あかりが小声で呟く。


「見んでええ」


澄香が返す。


「感じる」


澪香が続ける。


温泉の湯気が、わずかに揺れる。

人の動きが、空気を変える。


(……左)


(……左やね)


二人の判断が揃う。


その瞬間――


「うわー!めっちゃ霧やん!」


場違いな声が、霧を裂いた。


赤嶺美月。

完全にプライベートの温泉巡り。

そして、いつも通りの無邪気さ。


「これテンション上がるやつや!」


声が響く。

位置がバレる。


黒鷹側も気づく。


ラインが揺れる。


「……あのアホ」


彩香の声が低くなる。


さらに悪いことに――


「おーい!誰かおるー?」


完全にアウトだった。


(崩れる)


誰もがそう思った。


だが。


「……使う」


玲奈の声が、静かに落ちる。


「音を動かせ」


「あかり」


「了解!」


即座に動く。


「美月さん!」


笑顔で駆け寄る。


「こっち、めっちゃええ温泉ありますよ!」


「ほんま!?」


単純だった。


「源泉かけ流しで、めっちゃレアなんです!」


「行く!」


そのまま、音の発生源が移動する。


霧の中で、“目立つ存在”が動く。

黒鷹の注意も、自然と引き寄せられる。


音が囮になる。


「……今や」


澄香が動く。


「詰める」


澪香が重なる。


二人が同時に切り込む。


霧の中、左右から。


完全なシンクロ。


逃げ道はない。


制圧。


音は消える。


霧は変わらない。


温泉の湯気が、静かに立ち上る。


何も起きていないように見える。

だが、すべては終わっていた。


撤収後。


彩香の怒りは収まっていなかった。


「……あのツインテール、ホンマええ加減にせえよ」


声が低い。


完全に危険域。


「今度邪魔しよったらなぁ――」


間。


「後ろ手に縛って温泉の湯舟に首まで浸けて、“ええ湯やろ?”って一時間説教したるわ、コラ」


あかりが真顔で聞く。


「それ……普通に気持ちよくないですか?」


「ちゃうわドアホ!」


即答。


「逃げ場ゼロで延々説教やぞ!精神的にくるやつや!」


理屈は一応成立していた。


あかりが「なるほど……」と妙に納得する。


そのやり取りを、少し離れて見ていた玲奈が――


ほんの一瞬だけ、口元を緩めた。


誰も気づかないほどの変化。


だが確かに、笑っていた。


新温泉の霧は、また流れる。


見えるものは信用できない。

だが、見えないものは、確実に存在する。


二つで一つの影。


迫田ツインズ。


揃えば外さない。


そして今日も、誰にも知られないまま――

任務は終わる。

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