国道二号、鉄の街に沈む弾丸
第四話「国道二号、鉄の街に沈む弾丸」**
夜の国道二号は、どこか冷たい。
トラックのテールランプが赤く滲み、
アスファルトに長い線を引いていく。
加古川。
鉄の匂いが風に混じる街。
ここで最近、“偶発事故”が続いていた。
大型車同士の衝突。
ブレーキの不具合。
タイヤバースト。
だがNSTの分析は違った。
「偶然やない。」
彩香は低く言った。
事故車両はすべて、ある物流企業の関係車。
輸送していたのは――精密加工部品。
その部品は、国家基幹インフラに使われる。
事故を装った破壊工作。
「弾丸は撃たれてへん。
埋め込まれとる。」
彩香の目が鋭く光る。
鉄の街で育った女だ。
鉄の匂いの違いは、すぐわかる。
昼。
彩香は実家近くの製鉄ラインを訪れる。
高炉の炎。
重機の振動。
父・西川剛史がヘルメット姿で現れる。
「なんや、珍しいな。」
「ちょっと顔見に来ただけや。」
任務のことは言えない。
父は元社会人野球の名外野手。
今は高炉作業員。
剛史は鉄を見て言う。
「最近な、妙な注文増えとる。
加工精度が異様に厳しい。」
彩香は頷く。
「そうなんや。」
それだけで十分だった。
夜。
国道二号のバイパス。
彩香は単独で張り込む。
イヤーピースから玲奈の声。
「ターゲット車両、接近。」
黒いトレーラーが視界に入る。
荷台の中に、細工されたブレーキ制御装置。
遠隔でロック可能。
「やっぱりな。」
彩香はアクセルを踏む。
並走。
窓越しにドライバーを睨む。
男は動揺し、速度を上げる。
「逃がさん。」
鉄の街の女の声は低い。
彩香は車を斜めに入れ、逃走経路を塞ぐ。
トレーラーが急ハンドル。
危険な蛇行。
だが彩香は冷静だ。
鉄は曲がるが、折れへん。
父から教わった言葉がよぎる。
衝突寸前で、彩香はタイヤを撃ち抜く。
弾丸は最小限。
確実に制御不能にする。
トレーラーはスピンし、停止。
「通行止めや。」
静かな播州弁。
男を引きずり出す。
「誰の指示や。」
男は黙る。
彩香は冷たく言う。
「この街な、
鉄で食うとる人間が山ほどおるんや。」
夜風が強まる。
遠くで高炉の炎が揺れる。
「それを事故で潰そう思うたら、
覚悟せえや。」
男は視線を逸らす。
証拠は揃った。
遠隔制御ユニット、回収。
物流企業への破壊工作は阻止。
NSTの任務は成功。
翌朝。
二号線は何事もなく車が流れる。
ニュースは、昨夜の“単独事故未遂”を小さく報じるだけ。
彩香は製鉄所の前を通る。
父の姿が遠くに見える。
高炉の炎は、今日も燃えている。
鉄の街は、簡単には倒れない。
玲奈の声が入る。
「よくやった。」
彩香は短く答える。
「当然や。」
そして小さく呟く。
「ここは、守る街や。」
国道二号に埋め込まれた弾丸は、抜かれた。
だが影はまだ動いている。
西日本特別諜報班 NST。
鉄の匂いの中で、
一人の女が存在感を示した夜だった。




