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西日本特別諜報班 NST 影の特命  作者: スパイク


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鋼鉄の煙は西へ流れる

尼崎の空は、いつも少しだけ灰色だ。


高く伸びる煙突。

溶鉱炉の熱。

港に並ぶ巨大クレーン。


鉄と油の匂いが、街の体温を決めている。


昼――


県警音楽隊の演奏が、臨海エリアの防災イベントに響く。

ブラスの音色に合わせて、白いパレードブーツが軽やかに跳ねる。


玲奈は、凛としたカラーガード隊員の姿で旗を翻す。


白とネイビーの制服。

まっすぐに伸びた背筋。

風を裂くフラッグの軌跡は、煙突よりも高く空を切り裂く。


観客は拍手する。

子どもたちは目を輝かせる。


だが玲奈の視線は、遠くのコンビナートに向いていた。


煙突の煙。

風向き。

港湾倉庫の搬入車両。


今日のイベントは“偶然”ここで開かれたわけではない。


NSTが掴んだ情報。

排煙データの改ざん。

だが本命は別にある。


演奏が終わる。


玲奈は関係者として堂々と工場敷地へ足を踏み入れる。

警察の広報イベントだ。

誰も疑わない。


「カラーガードのお嬢さん、暑いでしょう。」


工場幹部が笑う。


玲奈も微笑む。


「平気です。尼崎の熱気には負けません。」


柔らかい声。

完璧な広報の顔。


だがその目は、煙突の基部を観察している。

排煙監視装置の配線が、通常とは違うルートを通っている。


港側の倉庫へ視線を滑らせる。

重機が運び込んでいる鋼材。


橋梁用と書かれたラベル。

だが鋼の厚みが異常だ。


(軍事転用……)


昼のうちに、全体構造を頭に叩き込む。

動線、監視カメラ、警備交代時間。


白いブーツのまま、堂々と歩く。

それが一番怪しまれない。


夕方。


玲奈はヒロ室へ戻る。


彩香が低く言う。


「本命は港湾倉庫やな。」


「煙は目くらまし。」


迫田ツインズが同時に解析データを表示する。


「鋼材、輸出先不明。」


玲奈は短く答える。


「今夜、行く。」


夜――


同じ場所が、別の顔を見せる。


煙は薄く、灯りは少ない。

港湾倉庫の影は長い。


黒い装いの玲奈が、静かにフェンスを越える。


昼に覚えた死角をなぞるように進む。


白いブーツは履いていない。

だがあの昼の姿が、全てを可能にした。


倉庫内。


鋼材の間を抜ける。


巨大な梁の影に隠れ、コンテナの番号を確認する。


海外向け偽装貨物。

中身は、特殊合金フレーム。


橋ではない。

兵器の基礎構造材。


背後で足音。


「誰だ。」


警備員が振り向く。


玲奈は一瞬で距離を詰める。

音を立てず、肘で喉元を打ち、崩す。


床に倒れた男をロープで拘束。


「煙は、上に昇る。」


小さく呟く。


制御室へ侵入。


コンテナの出荷データをコピー。

輸送ルートを遮断。


外ではクレーンが動く。

夜の作業は止まらない。


だが出荷命令は、今この瞬間、無効化された。


倉庫の屋上へ上がる。


尼崎の夜景。

赤い警告灯が点滅する。


昼に旗を振った場所が、遠くに見える。


表の顔。

拍手と笑顔。


裏の顔。

沈黙と証拠。


無線が入る。


「リーダー、回収完了。」


「撤収する。」


静かな声。


翌朝。


ニュースには何も流れない。

イベントは成功だったとだけ報じられる。


県警音楽隊のカラーガードが市民と触れ合う映像が流れる。


その中に、玲奈がいる。


白いパレードブーツで、凛々しく旗を振る姿。


誰も知らない。


あの同じ日、同じ場所で、

国家転覆級の密輸が止められたことを。


彩香が言う。


「昼の顔があるからこそ、夜が生きる。」


玲奈は微かに笑う。


「光は目を奪う。

影は、それを守る。」


尼崎の煙は、今日も西へ流れる。


だがその煙の下で動く影は、

誰の目にも映らない。


西日本特別諜報班 NST。


鋼の街で、また一つ罪を沈めた。

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