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西日本特別諜報班 NST 影の特命  作者: スパイク


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炉火に立つ義 ― 広畑の夜

姫路の夜は、鉄の匂いがする。


広畑の海沿いにそびえる高炉が、赤黒い炎を吐き出していた。

昼も夜も止まらない。止まれば、街が止まる。


西川彩香は、その炎を車窓から見つめていた。


「ここは、止めさせへん。」


低く、播州の抑揚が混じる。


今回の標的は、港湾再開発企業と結託した民間警備会社。

原料搬入ルートを水面下で迂回させ、物流を“試験的に”締める計画。


広畑の製鉄所も、その線上にある。


「原料船、着岸遅延。理由不明。」


迫田澄香の報告。


「別ルートに回されてる。」


澪香が続ける。


玲奈の声が落ちる。


「港を握れば、炉も握れる。

 街の心臓を掴む気や。」


彩香の拳がわずかに強くなる。


その頃――


高炉前。


耐火服を着た男が、火口の熱に向き合っていた。


西川剛史。


広畑の名物男。

元社会人野球の名外野手。

鋭い打球を何度もダイビングキャッチした男は、今も現場で体を張っている。


「今日も火は元気やな。」


汗をぬぐいながら笑う。


同僚が言う。


「物流が少し怪しいらしいで。」


剛史は肩をすくめる。


「原料は来る。来んかったら、取りに行くだけや。」


豪快な男だ。


その娘が、闇で戦っていることなど知らない。


――


NSTは広畑沿岸の裏岸壁へ潜入。


そこには、原料船の代替契約書が回されていた。

搬入を特定企業に限定し、価格を吊り上げ、物流を絞る。


さらに裏には、港湾封鎖時の優先輸送権。


「実験やない。本気や。」


玲奈が低く言う。


彩香は資料を睨む。


「父ちゃんの炉を、実験台にする気か。」


怒りはある。だが冷静だ。


双子が倉庫内監視網を撹乱。

彩香が正面へ。


黒スーツの男たちが立ちはだかる。


「立入禁止だ。」


「関係あらへん。」


播州弁が鋭く落ちる。


制圧は早い。

無駄な銃声はない。


資料を確保し、搬入スケジュールを書き換える。

原料船は本来のルートへ戻る。


その帰り道。


高炉の灯りが揺れる。


彩香は一瞬、フェンス越しに父を見つける。


巨大な炉の前に立つ姿は、昔と変わらない。


剛史が振り向く。


「おう、彩香。帰っとったんか。」


「ちょっと仕事でな。」


「仕事はええ。鉄はな、止めたらあかん。」


その言葉が胸に刺さる。


「なんで?」


「止めたら、人が困る。

 困る顔は、見たないやろ。」


剛史は笑う。


「野球も同じや。

 外野は最後まで走る。

 最後に守るんは、俺らや。」


彩香は小さく頷く。


父は何も知らない。

だが言葉は、真実を突いている。


――


その夜。


港湾側近の密会は崩れた。

契約は白紙。

原料は予定通り届く。


だが黒幕は姿を見せない。


玲奈が言う。


「今日は止めただけや。

 また来る。」


彩香は高炉の炎を見上げる。


「来てもええ。」


播州の烈火は消えない。


「播州は守る。

 鉄も、人も。」


遠くで汽笛が鳴る。


広畑の炎は揺らぎながらも消えない。


西川剛史は夜勤を終え、缶コーヒーを飲む。


「うちの娘も、よう頑張っとる。」


何を、とは言わない。


彩香は背を向ける。


闇の中へ戻る。


西日本特別諜報班 NST。


光の当たらない戦い。


だが高炉は、今夜も燃えている。


鉄と義。


守る者がいる限り、炉は止まらない。

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