第7話
優香、今日欠席だ…
入学以来、ずっと心のよりどころとなっていた優香がいない、それは私を没落させるには充分だった。
机でぼーっとしていると、気遣ってくれたのか、山田先生が話しかけてきた。
「花筏さん、元気ないけどどうしたの?」
そこまで表に出ているとは思わなかった。
私はいつもの作り笑顔で言う。
「そんなことないですよ」
先生が言う。
「そう、なら良いけど。花筏さん、すごく頑張ってるから無理しないでね!」
まだ入学して数日なのに、山田先生はよく見ている。
「あ、あと優香ちゃんと仲良くしてくれてありがとうね」
“優香ちゃん“、私は苗字呼びだったため、違和感を覚えた。
そういえば、優香は内部進学生と言ってたから、昔から山田先生と関わりがあるのかな。
そこで、私はつい聞いてしまった。
「あの、優香、何かあるんですか?」
何か、私も言葉ではうまく表せない、優香の事情。
先生は、少し困った顔をした後、口を開いた。
「詳しく言うことはできないけど、あの子は…」
「“見てて辛い子“、ね」
見てて辛い、先生は、何を見てそんな感情を抱いているのだろう。
「私もできることはしてあげたいけど、そう上手くいかなくてね…。なんて、花筏さんにこんなこと言ってもだよね」
先生は、微笑みを浮かべていた。
生徒を心配にさせない、素敵な先生だ。
「いえ、ありがとうございます。私も優香が辛くなくなるよう、尽力します」
私的には決意の表明だったのだが、先生は「良いのよ」と言って、その場を去っていった。
お昼休み、私は優香がいないため、一人でご飯を食べようとしていた。
「ひとみちゃん!一緒にご飯食べない?」
新山さんと数人の女子だった。
断る義理はないので、私は「もちろん」と言って席を立った。
そして私たちは少し移動して、食堂へやってきた。
私はお弁当を広げる。
「ひとみちゃんのお弁当すごい!」
私のお弁当をチラ見した新山さんが声を上げると、周りの女子たちも、おお〜、と反応した。
「ありがとう、でも手抜きだよ?」
微笑みながら言う。
「もしかして自分で作ってるの!?それに全然手抜きじゃないし!」
親が家にいないことも多々あるので料理は必須だった、妹もいるし。
すると、新山さんも自前のお弁当箱を広げた。
「すごい…」
私は思わず口に出す。
新山さんのお弁当は、とても可愛らしいキャラ弁だった。
周りの女子も声をあげている。
「ふふ、そうかな〜!今日は張り切ったの!」
新山さんが箸を出し、食べ始める。
「いただきまーす!」
それにつられて私も小さく手を合わせ、食べ始める。
みんなと食べるご飯は、いつもより美味しく感じた。
優香もいれば、もっと美味しかったと思う。
すると、口を軽く手で押さえた新山さんが、私に向かって喋り出した。
「ひとみちゃん…(もぐもぐ)って好きな人とかいるの?(もぐもぐ)」
「え」
いきなりの恋バナに私は驚く。
飲み込んだ新山さんが言う。
「だってひとみちゃん、すっごく美人だから、彼氏とかいるのかなーって」
告白は何回されたかわからないけど、私が好きという感情を得ることはなかった。
「好きな人…私はあんまり人を好くタイプじゃないから、彼氏なんて」
「なんだかひとみちゃんらしいな〜」
新山さんが笑いながらそう言う。
そんな話をしていると、新山さんのグループとよく絡んでいる男子がやってきた。
私はそれを横目にお弁当を進める。
「沙世、それに花筏もいんじゃん!ちょうどよかった、ちょっと時間あるか?」
新山さんの下の名前、沙世というらしい。
「慶太郎どうしたの?」
新山さんは、男子、慶太郎さんと話を進める。
「実はちょっと聞きたいことがあってさ、その、彼女に誕プレって何渡したら良いかなって」
新山さんといい、年頃の子は恋愛を楽しんでいるんだなと思いながら話を聞く。
「うーん、私は気持ちが込もっていれば何でもいいタイプだからな〜」
「そう言わずに、なんか教えてくれよ〜、そうだ、花筏はどうだ?」
突然話をふられた。
彼女、好きな人に贈るプレゼント…
私は顎に指先をつけて考える。
私がもし、好きな人にもらうなら。
“優香“からもらうなら。
もちろん友達として、だけど。
友達…あれ、好きってどんな感情だっけ。
優香に対する好きって気持ち。
“【恋愛】と何が違うんだろう。“
プレゼントについて考えていたはずなのに、哲学的なことを考えてしまっていた。
「花筏、大丈夫か?」
慶太郎さんが心配してくる。
「あ、ごめん。えっと、誕プレだよね。キーホルダーとかどうかな」
少し幼稚だった気もするが、実際もらって嬉しかったものが、それ以外思いつかなかった。
「キーホルダーか、オシャレなのは確かにいいかもな!花筏、ありがとう!」
そう言うと、慶太郎さんは小走りで去っていった。
「いいね〜恋愛」
新山さんがうっとりとした顔をしている。
私は無言のまま席を立った。
「ひとみちゃん?」
「ちょっと用事を思い出しちゃって、行ってくるね」
素早くお弁当箱を片付ける。
「わかった〜」
ぽかーんとした顔で新山さんが見送ってくれた。
本当は用事なんてない、ただ、恋愛のことを考えてから、優香が頭から離れない。
だから、少し一人になりたかった。
私が優香のことを、どんな気持ちで大切にしてるのか、ちゃんと理解してあげたかった。
向かったのは、クー君のいる校舎裏。
あそこは一人になるにはぴったりの場所だ。
いつもクー君が眠っている木陰を見て見るが、そこにクー君の姿はなかった。
少し奥から、ボリボリ、と何かを噛み砕いているような音がした。
私は音の元と思われる木陰に歩き出す。
「クー君…?」
私が木陰を確認してみると、そこには、エサを食べるクー君と。
一人の女の子がいた。




